オルフィク教とは? わかりやすく解説

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オルペウス教

(オルフィク教 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/01 10:06 UTC 版)

動物たちに竪琴を奏でるオルペウスのモザイク画英語版ローマ美術で度々画題になった[1]

オルペウス教英語: Orphism[2])は、古代ギリシアの宗教の一派[2]オルフェウス教とも[2]

オルペウスが伝えたとされる特殊なギリシア神話パネスザグレウスが登場する創造神話)を信じ、輪廻転生浄化を説いた。明確な教団組織を持たず[3]密儀禁欲生活を主な活動とした[4]

関連する宗教にディオニュソス教(バッコス崇拝英語版)・エレウシスの秘教ピュタゴラス教がある[5][6][7]プラトン哲学にも影響を与えた[4][6]

前6世紀から後5世紀ごろまで活動したが[8]、現存する資料の少なさ等から、実態は不明な点が多い[5][9][10][11]20世紀以降、デルヴェニ・パピルス黄金板といった考古資料によって研究が進展している[3]

教義

人間や動物にはプシューケー) がある[12]肉体の死後も、魂は生き続ける(霊魂の不死、霊魂の神性)。魂は冥界に行き、生前の記憶を忘却した後、新たな肉体に入る(輪廻転生英語版、メテンプシューコーシス[12])。

魂にとって、肉体は牢獄・墓のようなものである(厭世主義、ソーマ=セーマ説)[12][13]。密儀や戒律に従った生活をすれば、魂の神性が回復され、輪廻から解脱できる[14]

特色

一般的な古代ギリシアの宗教と比較して、オルペウス教の特徴とされる点は以下の通りである。

  • 人間の霊魂は神性および不死性を有するにもかかわらず、輪廻転生(悲しみの輪)により肉体的生を繰り返す運命を負わされている、という教義。
  • 「悲しみの輪」からの最終的な解脱、そして神々との交感を目的として、秘儀的な通過儀礼(入信儀式)および禁欲的道徳律を定めていた点。
  • 生前に犯した特定の罪に対し、死後の罰則を警告した点。
  • 教義が、神と人類の起源に関する神聖な書物に基づいている点。

資料

ギリシア人一般あるいはギリシア神話は、死後の世界に対する興味をそれほど示していない。この点でオルペウス教は特殊であり、そのため研究者の間には死後について言及をオルペウス教の影響に帰する傾向が存在した。しかしオルペウスのものとされる書物や教義は、早くにはヘロドトスエウリピデスプラトンなどの言及により確認されるものの、確とした宗教として言及されるのは比較的後代となる。このような極端な懐疑論を取る研究者は少なく、また近年のデルヴェニ・パピルス黄金板などの発見により、懐疑論はいくらか勢いが弱まったものの、いつの時代から、どの程度の影響力を持っていたのかについては研究者の間にコンセンサスは存在しない。

「オルペウス教」という呼称は、近代の学者が作った呼称である[7]。資料中では「オルペウスの人々」「オルペウス秘儀伝授者」(古希: Ὀρφεοτελεσταί)といった表現が使われている[7]

神話

参照: オルペウス#オルペウスの詩と儀礼(英語版)

オルペウスが伝えたとされる創造神話は、ヘシオドスの『神統記』に範をとる系譜的な神話詩によって語られていたようである。この神話は近東諸国の神話の影響を受けた可能性もある。

オルペウス教に特徴的な人間の本質の起源を語る物語は以下のとおりである。: ゼウスペルセポネの息子であり、かつザグレウスの霊魂の顕身であるディオニュソスは、ティタン族により殺害され、その身を茹でられた。だが、ヘルメスがザグレウスの心臓を奪いかえし、怒ったゼウスがティーターン族に稲妻を浴びせかけた。 その結果、ディオニュソスの体の灰とティタンの体の灰が混じりあい、その灰から罪深き「人類」が生まれた。そのため、ディオニュソス的要素から発する霊魂が神性を有するにもかかわらず、 ティタン的素質から発した肉体が霊魂を拘束することとなった。すなわち、人間の霊魂は「再生の輪廻(因果応報の車輪)」に縛られた人生へと繰り返し引き戻されるのである。

ディオニュソスの心臓は一時、ゼウスの脚に縫い込まれた。その後ゼウスは、死を免れえない人間の女性であるセメレの母胎に、生まれ変わったディオニュソスを宿させることとした。

以上の物語が、以下の文献にて散発的に引用言及されている。

ロドスのアポロニオスアルゴナウティカ』にも、オルペウスが創造神話を語る箇所があるが、そちらはオルペウス教的ではない[15]。オルペウスの有名な「冥界下り」は、オルペウス教とあまり関係ない[10]

死後の救済

オルペウス教の黄金板

近年発見された黄金板や骨製のタブレットに記された碑文からディオニュソスの死と蘇生にまつわるオルペウス神話と、来世における祝福への信仰との関連性が読み取られる。オルビア英語版で発見された骨製のタブレット(紀元前5世紀) には、以下のような短く謎めいた銘文が刻まれている。「生、死、生、真実、ディオ(ニュソス)、オルペウス」。 これら骨製のタブレットの用途はまだ解明されていない。

トゥリオイ英語版、ヒッポニウム(現在のヴィボ・ヴァレンツィア)、テッサリアおよびクレタ島の墳墓から発見された黄金板(最古のものは紀元前4世紀)には、以下のような死者への教えが記されている。

冥界に降りたとき、レテの水(忘却)ではなく、ムネモシュネの泉の水 (記憶)を飲むように気をつけなくてはならない。そして、番人に次のように告げなくてはならない。「私は大地と星空の息子です。喉が渇いたので、ムネーモシュネーの泉から何か飲むものを私にください。」

さらに、他の黄金版にはこう書かれている。

さあ、今や貴方は死んだ。そして、三度祝福される今日、生誕した。ペルセポネに告げよ。まさしくバッコス自らが、あなたを救済したのだ、と。

ピュタゴラス教団との関連

オルペウス教の教義および儀礼には、 ピュタゴラス教団のものとの類似点が見られる。 しかし、一方がもう一方にどれほどの影響を与えたかを断言するには、史料はいまだ少ない[16]

脚注

  1. ^ 伊藤 2021, p. 3.
  2. ^ a b c 辻村誠三、平凡社、改訂新版 世界大百科事典『オルフェウス教』 - コトバンク
  3. ^ a b 筒井 2012, p. 99.
  4. ^ a b 北嶋 1996, p. 1-5.
  5. ^ a b 北嶋 1996, p. 1-3.
  6. ^ a b 國方 2025, p. 134.
  7. ^ a b c ジャンメール 1991, p. 546-553.
  8. ^ ベルフィオール 2020, p. 258.
  9. ^ 齊藤 2013.
  10. ^ a b ソレル 2003, p. 158.
  11. ^ 中村 2023, p. 2.
  12. ^ a b c ソレル 2003, p. 80.
  13. ^ 國方 2025, p. 152.
  14. ^ ソレル 2003, p. 11.
  15. ^ ソレル 2003, p. 58.
  16. ^ Parker, "Early Orphism", p. 501.

関連文献

日本語

日本語以外

  • Albinus, Lars. 2000. The House of Hades. Aarhus.
  • Betegh, Guthrie. 2006. The Derveni Papyrus. Cosmology, Theology and Interpretation. Cambridge.
  • Burkert, Walter. 2004. Babylon, Memphis, Persepolis: Eastern Contexts of Greek Culture. Cambridge, MA.
  • Graf, Fritz. 1974. Eleusis und die orphische Dichtung Athens. Berlin, New York
  • Guthrie, W. K. C. 1952. Orpheus and Greek religion. London.
  • Pugliese Carratelli, Giovanni. 2001. Le lamine doro orfiche. Milano.
  • West, Martin L. 1983. Orphic Poems. Oxford.
  • Parker, Robert. 1995. "Early Orphism". In The Greek World, Anton Powell (ed.).

外部リンク




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