アメリカズ・ベスト・コミックス: 1999–2008
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「アラン・ムーア」の記事における「アメリカズ・ベスト・コミックス: 1999–2008」の解説
詳細は「:en:America's Best Comics」を参照 オーサムでの活動が行き詰ったところで、イメージ共同経営者の一人ジム・リーが自身のワイルドストーム(英語版)社にムーアの自由になるインプリント(レーベル)を置こうと申し出てきた。ムーアはアメリカズ・ベスト・コミックス(英語版)(ABC) と名付けたプロジェクトのために複数のシリーズを企画し、作画家や原作者を集めた。しかしその直後、リーはABCを含むワイルドストーム社をDCコミックスに身売りした。このときリーは事情を説明するため自らイングランドに赴き、ムーアがDCと直接やり取りすることにはならないと請け合った。この買収の目的は、ワイルドストームが保有するIPやデジタル彩色技術のみならず、ムーアを再び確保するところにあったと見る向きがある。少なくともムーア自身はそう信じていた。間接的にであれDCと再び関わるのは本意ではなかったが、多くの同業者を巻き込んでいたため後戻りはできず、ABCは計画通り出版を開始することになった。 ムーアがABCでやろうとしたのは、スーパーマンがデビューした1930年代以前の作品から抽出してきたエッセンスによってレトロであると同時にアヴァンギャルドな何かを作り出し、コミックの想像力の源泉と可能性を指し示すことだった。ABCから最初に刊行された『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(1999–2000年、作画ケヴィン・オニール。以下「リーグ」)はヴィクトリア朝時代の冒険小説の世界に「アベンジャーズ」のようなヒーローチームのアイディアを適用した作品である。シリーズ第1作ではミナ・マリー(吸血鬼ドラキュラ)以下アラン・クォーターメイン(英語版)、透明人間、ネモ船長、ジキル博士からなる「怪人連盟」が英国の危機に立ち向かう。第2作『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン(英語版)』(2002–2003年)には『宇宙戦争』『火星のプリンセス』『マラカンドラ』の火星人が登場する。The League of Extraordinary Gentlemen: Black Dossier(→黒の名簿)(2007年)と題されたスピンオフは書き下ろし単行本として刊行され、3D眼鏡のような趣味を凝らした付録がつけられていた。シリーズは好評を博し、ムーアもアメリカ読者が偏執の域までイギリス的な作品を受け入れてくれたこと、一部の読者がヴィクトリア朝文学に関心を持ってくれたことを喜んだ。 Tom Strong(1999–2006年)の主人公はスーパーマンの先祖であるドック・サヴェジのようなパルプ雑誌時代のキャラクターから着想を得ている。メインの作画家クリス・スプラウス(英語版)を始めとして『スプリーム』とは共通点が多く、特殊な薬物で長寿を得たという設定のトム・ストロングが回想する過去1世紀にわたる冒険は、コミックの歴史へのオマージュでもある。ランス・パーキンによると本作は『スプリーム』よりも洗練されておりABCでもっとも読みやすい一作だという。 『トップ10』(1999–2001年)は刑事ドラマとして書かれているが、舞台となるネオポリスの住人は警官、犯罪者、市民を問わず全員がスーパーヒーロー風の超能力とコードネームを持っている。奇抜なアイディアやギャグの数々がストーリーと調和した熟練の一作だと評されている。作画はジーン・ハー(英語版)とザンダー・キャノン(英語版)による。本作は12号で完結したが、スピンオフのミニシリーズが4作作られた。剣と魔法のファンタジー世界に舞台を移した Smax(2000年、画: キャノン)、本編の前日譚 Top 10: The Forty-Niners(2005年、画: ハー)、そしてムーア以外の原作者による続編2編である。 『プロメテア』(1999–2005年)では女子大生の主人公が「想像力の具現化」である女神プロメテアの依代となる。一見するとスーパーヒロインの原型ワンダーウーマンへの単純なオマージュのようだが、ストーリーは意外な展開をたどり、主人公はタロットやカバラのような神秘学の象徴体系を通じて世界の成り立ちを学んでいく。画面構成も異例であり、作画のJ・H・ウィリアムズIII(英語版)は観念的な内容に合わせて視覚表現の実験を数多く行っている。この時期のほかの作品が総じて知的遊戯平均より知的な感性による、競争力十分のジャンル作品などと呼ばれるのに対し、本作には神秘学や芸術論のようなムーアの個人的テーマが色濃く出ている。ランス・パーキンは本作が「想像力、ジェンダー表象、宇宙論、神秘学」のような大テーマを追求していると書いた。またムーアのもっともパーソナルな作品であり、自身の個人的信条の開陳であり、一つの信念体系、個人的宇宙論だとしている。ムーア自身はこう述べている。神秘学を暗く恐ろしい場所として描かないオカルト・コミックを作りたいと思った。私の経験はそうではなかったからだ。… [『プロメテア』は] むしろサイケデリックで、… 洗練され、実験的で、恍惚的で、喜びにあふれた作品だ ABCからは、パルプ・フィクションの俗悪さを強調した「コブウェブ(英語版)」や『MAD』風の風刺作「ファースト・アメリカン」などのユーモア作品が数本ずつ掲載されるアンソロジー誌 Tomorrow Stories(1999–2002年)も刊行された。この形式のコミックブックは英国で一般的だが、米国では当時ほとんど絶滅していた。 DC社はムーアの執筆活動に干渉しないと約束していたが、それを反故にしてムーアを怒らせた。問題になった「リーグ」第5号(2000年)は、ヴィクトリア朝時代に実在した「マーベル」というブランドの膣洗浄器の広告を再現していた。DCの重役ポール・レヴィッツは競合会社マーベル・コミックスとの摩擦をおそれ、印刷済みの分をすべて破棄すると、ブランドを「アメーズ」という名に差し替えて再印刷した。さらに同年同月にムーアが Tomorrow Stories 第8号(2000年)に書いたコブウェブの短編は、サイエントロジーの創始者L・ロン・ハバードと神秘主義者ジャック・パーソンズによる性魔術儀式「ババロン・ワーキング(英語版)」を扱っており、訴訟を危惧したDCによって差し止められた。ムーアはこれらへの返答として『ウォッチメン』刊行15周年への協力を取りやめるとともに、コブウェブ短編をトップシェルフ(英語版)社のアンソロジーで発表した。
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