アスターテ会戦
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「銀河英雄伝説の戦役」の記事における「アスターテ会戦」の解説
宇宙暦796年/帝国暦487年2月。ラインハルトが上級大将に昇進し、同時にローエングラム伯爵家の名跡を継いで初めての出征。また原作およびOVAの最初のエピソードである。 劇場版(第2作)においては、かなり掘り下げた改変がされている。そこでは、ラインハルトの実力を試すという帝国軍三長官の思惑、ならびにラインハルトの勝利と栄達を阻もうとするブラウンシュヴァイク公爵の策謀によって幕僚のミッターマイヤーとロイエンタール、参謀長のメックリンガー、ブリュンヒルト艦長のシュタインメッツが転属させられ、残されたのはキルヒアイスだけであった。この出征におけるラインハルトの配下はミッターマイヤーとロイエンタールの評するところ「融通の利かない」メルカッツ、「扱いづらい」ファーレンハイト、「実戦には向かん」シュターデン、「足手まといにしかならん」エルラッハにフォーゲルとなり、「手足を縛られた上に、重石までつけられた」状態であった。兵力は艦艇約2万隻。さらにフレーゲル男爵によって、出征の情報がフェザーンのルビンスキーを通じて同盟にリークされるという念の入りようであった。 一方同盟側では、情報を得た国防委員長トリューニヒトの命により、ヤンとラオの所属する第2艦隊(OVA版と劇場版、藤崎版コミックスではアッテンボローも所属している)、フィッシャーの所属する第4艦隊、そしてジャン・ロベール・ラップの所属する第6艦隊の、あわせて3個艦隊、合計4万隻が動員された(劇場版第2作はOVA第三期開始の宣伝もかねた「顔見世興行」的な要素が強い作品で、ストーリーは各陣営の主要キャラクターが多数登場する展開に改変された)。 なお、道原版コミックスでは、原作やOVA版と異なり「双璧」ミッターマイヤーとロイエンタールの両者ともラインハルト指揮下で参加している。彼らはラインハルトが忠誠を尽くすに足るかをこの戦いで見定め、ラインハルトもまた彼らの戦闘指揮をこの戦いで評価する事となる(同P167。また、同作ではP236-237等で第4次ティアマト会戦のエピソードを混入しており、その描画方法からラインハルト指揮下での両者のデビュー戦と読む事ができる。第四次ティアマト会戦自体はP144で描かれているが、それに両者が参戦しているかどうかは描かれていない)。なお、二人が参戦したために提督の顔ぶれはメルカッツ・シュターデン・ファーレンハイト・ミッターマイヤー・ロイエンタールという布陣になっている(ただしエルラッハ少将もP230で登場している)。 同盟軍はこの数と地の利を使ってダゴン星域会戦と同じ包囲殲滅戦を企図したが、逆にラインハルトの各個撃破の好餌となった(藤崎版コミックスでは更に設定が掘り下げられ、同盟軍はトリューニヒト国防委員長の意向によって「第2、第4、第6艦隊にそれぞれ戦果を競わせ、最大の功を挙げた者を重用する」という約定が3人の司令官に伝えられていた。そのためパエッタ中将をはじめとした各司令官は連携を取らなかったという内容が加味されている。また、同盟軍がダゴン星域会戦と同じく包囲殲滅戦を企図したのも、ダゴン星域会戦が今なお同盟市民にとって人気のある戦いなのでそれを再現するとトリューニヒトが明言しており、この戦い自体が彼にとっての「人気取り会戦」であった)。当初はラインハルトの幕僚たちは各個撃破に徹するラインハルトの作戦を理解出来なかったが、唯一作戦に好意的印象を持ったとキルヒアイスに印象づけたファーレンハイトが先鋒となり、正面から接近していたパストーレの第4艦隊約12,000隻を最初に攻撃、先制攻撃で優位に立った。帝国軍の動きを予測していなかった第4艦隊は対応が遅れ、一方的に撃破されることとなった。 この時点で第2艦隊の次席幕僚を務めていたヤンは、直ちに第6艦隊と合流を図り戦力の集中を図るべきとパエッタに進言したが、それは第4艦隊がすでに敗退しており、彼らを見殺しにするという前提であった。第4艦隊の奮戦を期待し感情的になるパエッタは進言を却下し、間に合うはずもない第4艦隊の救援に向った。これによってラインハルトの勝利がほぼ確定した(藤崎版コミックスでは上記の追加設定のため、ヤンが第6艦隊との連携を進言したにもかかわらずパエッタは棄却している)。 戦闘開始4時間でパストーレ中将は戦死して第4艦隊は壊滅し、対するラインハルトの艦隊はほとんど損害が生じなかった。なお、第4艦隊の組織的抵抗が途絶えた時点で、メルカッツはラインハルトに対し戦術上当然である掃討戦を具申しているが、ラインハルトは戦力の温存を理由に却下。第4艦隊残存戦力を放置して第6艦隊へと進軍を開始する。この判断は吉と出、続く第6、第2艦隊との戦闘を数的にも有利に進めることができた。約4時間後、時計回りに迂回したラインハルトの艦隊は、今度はメルカッツの艦隊を先鋒にして、第6艦隊の側背(4時半の方向)から攻撃を開始した。第6艦隊司令官のムーアはその場での反転迎撃を企図し、禁忌とされる敵前回頭を指示。その結果全艦が無防備な側面をさらけ出した状態で砲撃を受けて、第6艦隊は壊滅した。ムーアは降伏勧告を拒絶して乗艦のペルガモン及びジャン・ロベール・ラップとともに戦死した。 第4・第6艦隊を撃破したラインハルト艦隊は、そのまま第2艦隊との戦いに臨んだ。両軍はほぼ正面から対峙するが、劣勢な第2艦隊はすでに逃げ腰で、ラインハルト艦隊の先制を許してしまう。戦闘開始直後に旗艦パトロクロスの艦橋が被弾し、パエッタは重傷を負って、健在な士官で最高位のヤンが指揮権を引き継いだ。ヤンは各個撃破で不利になる事態を見越して戦闘開始前に各艦の戦闘コンピュータにいくつか対応策をあらかじめ入力しておき、状況にあわせて指定したものを実施させる方法で指揮した。この時ヤンが使った「ラインハルト艦隊の中央突破を逆用して後背にまわり、引き分けに持ち込む」作戦が功を奏し、戦況はお互いの艦隊が相手の艦隊の後尾に食らいつくという、さながら2匹の蛇が互いの尾を狙って喰らい合うような形で環状状態となる。この際、帝国軍のエルラッハ少将が命令を無視して敵前回頭を行ったところで乗艦が被弾し戦死している。戦いは消耗戦となり、ラインハルトはこれ以上の戦闘は無意味であるとして撤退し、ヤンも追撃を行わなかったため、戦闘は終了した。 なお、ラインハルトの各個撃破戦術を打ち破って上記の環状状態を生み出したヤンはこれを「人類の有史以来、幾度も繰り返されてきた光景」と評する一方、己が策を破られて消耗戦へと持ち込まれたラインハルトはこれを「無様な陣形」と評した。 会戦全体で、帝国軍の戦死者は約20万人、同盟軍の戦死者は約200万人(OVA版では帝国軍15万人、同盟軍は150万人)に達した。一方、同盟はこの会戦での敗北を誤魔化すため、指揮を執ったヤンを英雄として大々的に喧伝している(藤崎版ではさらにトリューニヒトが同盟市民からの支持を得ようと、戦いを終えてハイネセン宇宙港へと戻ってきたヤンをサプライズで大勢の市民と共に出迎え、ヤンは自分が嫌っているトリューニヒトが市民の支持を得るための駒としての役目を、他でもない自分自身が担ったのに憤慨した)。 この戦いの武勲によってラインハルトは元帥に昇進し、元帥府を開いてミッターマイヤー・ロイエンタール以下有能な将兵を多数集め、さらに宇宙艦隊副司令官に任命され、事実上帝国正規艦隊の半分を己の私兵とした。
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