もののあはれとは? わかりやすく解説

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もの‐の‐あわれ〔‐あはれ〕【物の哀れ】

読み方:もののあわれ

本居宣長唱えた平安時代文芸理念美的理念対象客観を示す「もの」と、感動主観を示す「あわれ」との一致するところに生じる、調和のとれた優美繊細な情趣世界理念化したもの。その最高の達成源氏物語であるとした。

外界事物触れて起こるしみじみとした情感

「わがアントニオは又例の—というものに襲われ居れば」〈鴎外訳・即興詩人


もののあはれ

読み方:もののあわれ

  1. 初恋悩み感じてゐる。「私はあの方にもののあはれなのよ」など。

分類 学生

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もののあはれ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/13 22:49 UTC 版)

もののあはれ(もののあわれ、物の哀れ)は、平安時代王朝文学を知る上で重要な文学的・美的理念の一つ。折に触れ、目に見、耳に聞くものごとに触発されて生ずる、しみじみとした情趣や、無常観的な哀愁である。苦悩にみちた王朝女性の心から生まれた生活理想であり、美的理念であるとされている[1]日本文化においての美意識価値観に影響を与えた思想である[要出典]

「もののあはれ」の発見

「もののあはれ」は、江戸時代後期の国学者本居宣長が、著作『紫文要領』や『源氏物語玉の小櫛』などにおいて提唱し[注 1]、その頂点が『源氏物語』であると規定した[4]。江戸時代には、幕府の保護、奨励した儒教思想に少なからず影響を受けた「勧善懲悪」の概念が浸透し、過去の平安時代の文学に対しても、その儒教的概念や政治理念を前提にして評価され、語られた時期があったが、この本居宣長の「もののあはれ」の発見はそういった介入を否定し、文学作品の芸術的自律性という新しい視点を生み出した[5]

宣長は、それまで一般的な他の文学作品同様に『源氏物語』が時代時代の思想風土、政治風土に影響されて、その作品の内在的な美的要素からではなく、外在的な価値観や目的意識から読まれてきたことを排し、歌・物語をその内在的な価値で見ようとし[5]、「文芸の自律性」という契沖以来の新しい文芸観に基づいて、『源氏物語』における「もののあはれ」を論じた[5]

宣長は『源氏物語』の本質を、「もののあはれをしる」という一語に集約し、個々の字句・表現を厳密に注釈しつつ、物語全体の美的価値を一つの概念に凝縮させ、「もののあはれをしる」ことは同時に人の心をしることであると説き、人間の心への深い洞察力を求めた[5]。それは広い意味で、人間と、人間の住むこの現世との関連の意味を問いかけ、「もののあはれをしる」心そのものに、宣長は美を見出した[5]

解釈の一例

ドイツ初期ロマン派の基本的心的態度を、「無限なるものへのあこがれ」と特徴づけ、ニーチェキルケゴール研究者として知られる和辻哲郎は、宣長の説いた「もののあはれ」論に触れて、「もののあはれをしる」という無常観的な哀愁の中には、「永遠の根源的な思慕」あるいは「絶対者への依属の感情」が本質的に含まれているとも解釈している[4][5]

無常との関係

自然を愛し諸国放浪した歌人西行(1118~1190年)は、『旅宿月(旅路で野宿して見る月)』と題する歌において、「にて をあはれと おもひしは 数よりほかの すさびなりけり」〈都にいた折に、月を“あはれ”と思っていたのは物の数ではない すさび(遊び,暇つぶし)であった〉と詠んだ。これは西行が、自身が都に住んでいた時に、月を見て、「あはれ」と思ったのは、すさび=暇つぶしでしかなかったと詠じ、旅路での情景への感動を詠んだ歌である[6]。また、「飽かずのみ 都にて見し 影よりも 旅こそ月は あはれなりけれ」〈飽きることなくいつも都で仰いでいた月よりも、 旅の空でながめる月影こそは、あわれ深く思われる〉という歌もある[6]

月に「あはれ」を見た西行は、幽玄の境地を拓き、東洋的な「虚空」、を表現していた[7]。西行と歌の贈答をし、歌物語をしていた明恵は、西行が物語った言として次のように述べている。

西行法師常に来りて言はく、我が歌を読むは遥かに尋常に異なり。花、ほととぎす、月、雪、すべて万物の興に向ひても、およそあらゆる相これ虚妄なること、眼に遮り、耳に満てり。また読み出すところの言句は皆これ真言にあらずや。花を読むとも実に花と思ふことなく、月を詠ずれども実に月とも思はず。ただこの如くして、縁に随ひ、興に随ひ、読みおくところなり。紅たなびけば虚空色どれるに似たり。白日かがやけば虚空明かなるに似たり。しかれども、虚空は本明らかなるものにあらず。また、色どれるにもあらず。我またこの虚空の如くなる心の上において、種々の風情を色どるといへども更に蹤跡なし。この歌即ち是れ如来の真の形体なり。 — 「明恵伝」[8]

脚注

注釈

  1. ^ 「もののあはれ」という表現それ自体は、早くより『土佐日記』や『長秋詠藻』などにも見られるが、これを概念化したのが宣長である[2][3]

出典

  1. ^ 清水文雄日本人の心」『続 河の音』、王朝文学の会、1984年10月1日、32-34頁、CRID 1050001337569864960 
  2. ^ 源了圓『徳川思想小史』pp.190-196
  3. ^ 田尻祐一郎『江戸の思想史』pp.138-141
  4. ^ a b 和辻哲郎日本精神史研究』(岩波書店、1926年。改版1971年)
  5. ^ a b c d e f 中井千之「「もののあはれをしる」と浪漫的憧憬」『上智大学ドイツ文学論集』第26号、上智大学ドイツ文学会、1989年12月、9-20頁、CRID 1050282814132045696ISSN 02881926 
  6. ^ a b 西行『山家集』
  7. ^ 川端康成美しい日本の私―その序説』(講談社現代新書、1969年3月16日)
  8. ^ 喜海『明恵伝』

参考文献

単行本

関連文献

関連項目



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