ISILによる動画の公開以後
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 21:18 UTC 版)
「ISILによる日本人拘束事件」の記事における「ISILによる動画の公開以後」の解説
2015年1月20日になり、覆面を被り通称ジハーディ・ジョンと呼ばれるISILのメンバーが72時間以内に身代金の支払いがないと湯川と後藤を殺害すると述べている動画が公開された。 アメリカ国務省のジェン・サキ報道官は「(身代金の支払いは)誘拐の危険やテロ組織の維持を助長するだけです」「国民を危険にさらすことになるため、身代金の支払いはすべきではない」との考えを強調した。ISILは過去1年間で41億円から53億円を身代金で稼いでいるといわれているが、今回は日本政府に対し2億ドル(約230億円)を要求している。安倍晋三首相がカイロでISIL対策として約2億ドルの支援を表明し、演説の中で過激主義を封じ込めるために「中庸が最善」と訴えたことにISILは反発し、演説への報復として日本人2人の殺害を警告したビデオ声明を出した。 この声明で述べられたISILの見解では、日本は2億ドルを拠出するなどして十字軍に志願したのであり、その2億ドルは彼らを殺戮するために用いられるものと見なされている。これに対し安倍首相は、平和国家である日本による難民支援であることを強調している。 1月23日午前9時半過ぎから後藤の母親が記者会見を行い、ISILに対して「健二はイスラム国の敵ではありません。釈放という良い結果が出たら、未来のため、子供たちのためにも尽くしていけると思います」と訴え、後藤の母親は、この記者会見の映像が、各メディアの報道内容を注意深くチェックしているISIL関係者によっても見られることを知っており、記者会見の画面を通して、涙を流しつつ、ISILメンバーに対して、息子を殺さないように懇願した。 1月23日、日本最大級のモスクである東京ジャーミイを始め、各地のモスクで金曜礼拝に集まった日本国内のムスリムは、人質解放のために祈りを捧げた。日本ムスリム協会は、公式サイトで声明を出し、人質の早期解放を求めるとともに「無実の人を殺害することは、イスラムでは厳しく禁じており、許される行為ではありません」とISILの行いを非難している。また、イスラミックセンタージャパンはコーランの教えに反するとしてISILに抗議している。 日本政府が期限に当たると見ていた日本時間23日の午後2時50分ごろを過ぎたが、ISILから連絡はないとしたうえで、引き続き2人の解放に全力を尽くすとした。一方、自民党副総裁の高村正彦は日本政府が人道支援をやめることはあり得ないが、身代金は払えないと述べている。 また、日本政府とISILの間で仲介者を通じて接触があり、日本政府側が期限の延長を要求したとする報道もある。 1月24日午後11時、後藤の写真が映った静止動画がインターネットに流れ、湯川を殺害したというメッセージも表示された。真偽は不明であるが、アメリカ合衆国国家情報長官室のブライアン・ヘイル報道官は「画像の信憑性を疑う理由はない。」とした。メッセージは後藤が話している形式の文であり、音響研究所の鈴木松美によれば該当動画の声紋は「99.9%本人の音声である」としている。但しこれには異論も有り、鈴木法科学鑑定研究所の鈴木隆雄は「声紋は似通っているものの一部の発音が異なっている為別人の可能性もある」としている。いずれにせよ該当音声は文章の朗読であり、後藤の本心を話しているものではないとされる。メッセージの内容には2005年にヨルダンの首都アンマンで発生した爆弾テロ事件(2005年アンマン自爆テロ)の実行犯として収監中の死刑囚サジダ・リシャウィの釈放を要求するものが含まれていた。ISILは「湯川遥菜を殺したのは安倍晋三である」という旨を述べた。イギリス首相のデーヴィッド・キャメロンは「このテロリストたちの凶悪な残忍さを改めて喚起するものだ」と強く非難し「安倍晋三首相と日本政府の断固たる姿勢を支持する」と表明した。米国大統領のバラク・オバマもISILの対応を「強く非難」するとし、日本政府について「遠く離れた(中東)地域での平和と発展に関与してきた」とその貢献を称賛した。国防長官のチャック・ヘーゲルは「ISILの残酷さは、日本が最近数か月、イラクやシリアの人々に提供した寛大な人道支援と比べ、著しく対照的である」と述べた。 2015年1月25日、国際連合安全保障理事会は「凶悪かつ卑劣な行為を強く非難し、後藤健二さんの即時解放を求める」と湯川の殺害を非難する声明を出し、「ISILを打倒しなければならない」と強調した。また、ドイツ首相のアンゲラ・メルケルやフランス大統領のフランソワ・オランドも「我々はともにテロとの戦いを続ける」「野蛮な行為だ」などと非難した。なお、フランス、ドイツは有志国連合のメンバーであり、カナダ、デンマークなど10カ国で構成されている。 現地時間1月25日午後、ISILは宣伝媒体であるラジオ部門を通じて湯川を殺害したことを伝えた。 1月27日、ISIL側は後藤とリシャウィの「1対1の交換」を要求し、ヨルダン政府が要求に応じなければ、ヨルダンが解放を求めているヨルダン空軍F16戦闘機パイロットのムアズ・カサースベ中尉を後藤より先に殺害すると警告する声明を出した。ヨルダン側はこの要求について、受け入れは極めて困難としている。カサースベの兄は毎日新聞のインタビューに応じ「一つだけ言えるのは、全世界は日本人の人質に対して同情しているということだ。ただ家族の一員として言うと、最優先は私の弟の命だ」と胸中を語った。 2月1日早朝、後藤の殺害が報道された。ISILは「このナイフは後藤だけでなく、どこであろうと日本人を殺し続けるだろう。日本にとっての悪夢の始まりだ」という旨も述べた。また、ヨルダン側が交渉の前提として要求していたカサースベの安否は確認されないままとなった。国際連合のデュジャリック報道官は「後藤さんの殺害が事実であれば、国連はこれを最も強いことばで非難する」と語り、フランス大統領のフランソワ・オランドや米国大統領のバラク・オバマなど各国首脳も日本との連帯を強調した。 2月3日、ISILはカサースベを焼殺という形で処刑する動画を公開した。1月3日の段階ですでに処刑されていたとみられており、ヨルダンの政府報道官は、「同案件に対するヨルダンの反応は驚天動地なものとなる」と述べ、報復として2月4日にリシャウィの死刑を執行した。ドイツ首相のアンゲラ・メルケルは、「人間にあれほど残酷なことが可能とは考えられない」と述べ、テロとの戦いで「ヨルダンの側に付く」と決意を示した。 3月10日、後藤を殺害したとする場面を、直接目撃したという人物のインタビュー映像が報じられた。
※この「ISILによる動画の公開以後」の解説は、「ISILによる日本人拘束事件」の解説の一部です。
「ISILによる動画の公開以後」を含む「ISILによる日本人拘束事件」の記事については、「ISILによる日本人拘束事件」の概要を参照ください。
- ISILによる動画の公開以後のページへのリンク