消防法施行令の一部改正(政令第411号)
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「千日デパート火災」の記事における「消防法施行令の一部改正(政令第411号)」の解説
1972年(昭和47年)12月1日、消防法施行令を一部改正する政令が公布された(政令第411号・第17次改正)。施行は1973年(昭和48年)6月1日で、一部は公布日に施行された。本件火災では、火災発生の報知と情報がプレイタウン滞在者に伝わらなかったことで多数の逃げ遅れにつながったこと、管理権原者および防火管理者の責務と役割に不明確な部分があったため、避難誘導や防火管理の不手際につながったこと、また安全な避難口(B階段)の場所がプレイタウン滞在者には分からなかったことなどにより、多大な人的被害を出したことへの教訓を活かすため、これらを重点的に見直す内容となった。この政令は、消防用設備のうち「自動火災報知設備」については既存不適格な防火対象物においても「遡及適用の対象」となったことから画期的な政令とされ、消防関係者の間では「千日政令」と呼ばれた。改正のおもな内容を以下にまとめた。 防火管理に関する事項 1.防火管理者を定めるべき防火対象物の規定を強化した。劇場、キャバレー、飲食店、百貨店、ホテル、病院、サウナなどの特定防火対象物の用途に使われる部分が存在する複合用途防火対象物で「収容人員が30人以上」の防火対象物は、防火管理者を定めなければならないとされた。従来は「収容人員50人以上」となっており、不特定多数の人を収容する施設と身体的弱者を多く収容する施設について、より規定を厳しくした。 2.防火管理者の資格を明確化した。防火管理者の業務を遂行するには、防火に関する知識を有している必要があり、管理権原者との間で連携が取れていなくてはならない。防火管理者の資格を有しているものは、管理する防火対象物において、適切に業務を行える管理的または監督的地位にあることと定められた。従来は防火管理者の資格が定義されていなかった。 3.管理権原者および防火管理者の責務を強化した。防火管理者は、防火管理上の業務を行うときは、管理権原者の指示や判断を求めなければならないとされた。また管理権原者は、防火管理者に対して必要な指導と監督を行い、防火管理者の業務を実施させる責務を負うとされた。従来は防火管理者の責務として「誠実にその職務を遂行しなければならない」としか条文に書かれていなかった。また管理権原者の防火管理者に対する指導監督的役割を明確化した。また防火管理者は、省令の定めにより消防計画を作成し、それに基づき消火、通報、避難訓練を定期的に実施しなければならないとした。従来は「省令の定めに」という部分が抜けていた。この条項は政令公布日(1972年12月1日)に施行された。 4.共同防火管理を要する防火対象物の範囲を拡大した。劇場、キャバレー、飲食店、百貨店、ホテル、病院、サウナなどの特定防火対象物に使われる部分がある複合用途防火対象物は、地下を除いて階数が3以上のものが共同防火管理が必要とされた。従来は「地下を除いて階数が5以上」とされていて、以前よりも範囲を拡大し基準を厳しくした。不特定多数の人を収容する施設と身体的弱者を多く収容する施設を対象とした。 防炎防火対象物に関する事項(省略) 「防火対象物#防炎防火対象物」も参照 消防用設備等に関する事項 1.スプリンクラー設備(ア)特定防火対象物のうち平屋建て以外の防火対象物で床面積が6,000平方メートル以上のものには、スプリンクラーを設置しなければならないとされた(自治省令で定める部分を除く)。従来は、百貨店などの建物で、売場面積の合計が9,000平方メートル以上かつ4階以下、または6,000平方メートル以上の場合は5階以上の建物が対象とされていたが、階数の規定をなくし、より設置基準を厳しくした。また平屋建てについては避難が容易であることから設置対象から外した。(イ)特定防火対象物に使用する部分がある複合用途防火対象物で、特定防火対象物の用途に使われる部分の床面積の合計が3,000平方メートル以上の階のうち、当該部分がある階全体にスプリンクラーの設置が義務づけられた。従来は、雑居ビルなどの場合、用途ごとに防火対象物の基準を適用してスプリンクラー設置の有無を決めていたが、複合用途防火対象物は、使用時間が用途によって異なること、防火管理が別々に行われること、また不特定多数の不案内な人たちが多く利用することを考慮し、設置基準をより厳しくした。該当部分だけにスプリンクラーを設置したのでは消火効果が十分に発揮できないこともあり、該当する階全体に設置するよう改められた。(ウ)防火対象物の11階以上の階にはスプリンクラーの設置が義務づけられた。従来は、11階以上の階に関して特定防火対象物で防火区画された部分以外の面積が100平方メートルを超える場合に設置義務があったが、高層階は消防活動が困難なことから、防火区画や建築基準の如何にかかわらず、設置を義務づけた。またスプリンクラーヘッドの技術基準も強化された。 2.自動火災報知設備(ア)百貨店、飲食店などの特定防火対象物で延べ面積が300平方メートル以上に自動火災報知設備の設置が義務づけられた。従来は、500平方メートルで設置の義務があったが、不特定多数の利用者が出入りする建物については、火災の早期発見および早期通報が重要であるとして基準が強化された。千日デパート火災においては、火災の報知と通報、情報伝達が早期になされなかったことで多数の死傷者を出すに至っている。(イ)複合用途防火対象物で延べ床面積が500平方メートル以上かつ当該部分の床面積が300平方メートル以上のものは、自動火災報知設備の設置を義務づけられた。(ウ)防火対象物の11階以上の階に設置を義務づけた。自動火災報知設備の基準に関しては、劇場、キャバレー、飲食店、百貨店、病院、社会福祉施設、サウナおよび特定防火対象物の用途に使われる部分がある複合用途防火対象物については、既存の建物においても「遡及適用」の対象とされた。この基準は1975年(昭和50年)12月1日から施行するとされ、設置完了までの猶予期間が設けられた。 3.漏電火災警報器特定防火対象物の用途に使われる部分がある複合用途防火対象物について、延床面積が500平方メートル以上かつ当該部分の床面積合計が300平方メートル以上、契約電流50アンペアを超える複合用途防火対象物に漏電火災報知器の設置を義務づけた。従来は、複合用途防火対象物については、「それぞれの用途」に対して適用されていたものを用途を問わず50アンペアを超える場合には設置を義務づけていた。 4.非常警報設備不特定多数を収容する施設においては、火災発生時に避難が円滑に行われなければならない観点から、音声による誘導が必要であるとし、放送設備の設置が義務づけられた。対象となったのは複合用途防火対象物で収容人員が500人以上のもの。劇場、キャバレー、百貨店、飲食店、サウナ公衆浴場で収容人員300人以上のもの。寄宿舎・共同住宅、学校、図書館・美術館で収容人員800人以上のもの。 5.避難器具(ア)防火対象物の3階以上の階のうち、避難階または地上に直通する階段が2以上設けられていない階で、収容人員10人のものには避難器具の設置を義務づけた。これは、いわゆる「ペンシルビル」の避難対策で新設された。(イ)避難器具の設置および維持に関する技術基準が強化された(詳細省略)。 6.誘導灯および誘導標識(ア)特定防火対象物に使われる部分がある複合用途防火対象物に避難口誘導灯、通路誘導灯、客席誘導灯および誘導標識を設ける場合は、建物全体に誘導灯を設置するように義務づけられた。従来は、用途ごとに設置基準が定められていたが、避難を一体的に行う必要があることから改められた。(イ)「避難口」を明示した表示も認められることになった。従来の誘導標識は「避難する方向を明示するもの」と定められていた。本件火災の被害拡大の一因として、唯一の安全な避難階段であるB階段の避難口の場所が分からず、ほとんどのプレイタウン滞在者が脱出できなかったことへの教訓である。 7.適用が除外されない消防用設備消防法第十七条の二第1項で定める消防用設備等のうち、自動火災報知設備に関しては、当該規定を適用する防火対象物に特定防火対象物を新たに加えた。従来は旅館、ホテル、宿泊所、病院、療養所、文化財だけが適用の対象とされていた。 消防法施行令・別表第一に関する事項 従来の複合用途防火対象物「16項」を「16項(イ)」と「16項(ロ)」に区分した。千日デパートのような特定防火対象物の用途に使われる部分がある複合用途の建物(いわゆる雑居ビル)は、建物に不慣れな不特定多数の人々が利用するため、火災が発生した場合に避難が困難になるおそれがあり、危険度がきわめて高いことから「16項(イ)」を新たに作り分類し直した。従来の「住居兼店舗」または「住居兼倉庫」を想定した複合用途防火対象物は「16項(ロ)」とした。 従来の「16項」の条文は、「前各項(1項から15項)に掲げる防火対象物以外の防火対象物で、その一部が前各項に掲げる防火対象物の用途のいずれかに該当する用途に供されているもの」とだけ書かれており、「16項(イ)」は、新たに「前各項に掲げる防火対象物以外の防火対象物のうち、その一部が前各項に掲げる防火対象物の用途のいずれかに該当する用途に供されているもので、1項から4項まで、5項(イ)、6項または9項(イ)に掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するもの」と定義され、「雑居ビル」および「商業ビルなどの大規模な複合用途」という概念が明確化された。「防火対象物#令別表第一」も参照
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