法廷におけるGPL
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「GNU General Public License」の記事における「法廷におけるGPL」の解説
詳細は「ウォレス対インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション他事件」、「SCO・Linux論争」、「SCO対IBM事件(英語版)」、「BusyBox#GPL違反問題」、および「フリーソフトウェア財団対シスコシステムズ事件」を参照 2002年、MySQL ABは著作権侵害ならびに商標権侵害でProgress NuSphere社をアメリカ合衆国マサチューセッツ連邦地方裁判所(英語版)に提訴した。伝えられる所では、NuSphereは、MySQLのGPLで保護されるコードを自社のGeminiテーブル型モジュールに静的リンクしたが、GPLの条項に従わず、Geminiのソースコードを一切公開しなかった。このためMySQLの著作権を侵害していたとされる。2002年2月27日、パティ・サリス(英語版)判事の予備審問ののち、当事者らは和解協議に入り、最終的に事実上合意に至った。審問終了後、FSFは「サリス判事は、GNU GPLが強制力と束縛力を持つライセンスであることが分かったことを表明した」とのコメントを発表した。 2003年8月、SCOグループは、「GPLに法的な有効性などない」と本気で考え、彼らはSCO UnixからLinuxカーネルへと不正に複製されたと疑わしいソースコードの断片を法廷で取り上げるつもりだと主張した。彼らは、当時GNU/Linuxディストリビューションを頒布しており、またそのディストリビューション、Caldera OpenLinuxディストリビューションに含まれていたその他GPLで保護されたコードも頒布していたため、これは問題のある行動であり、しかも、GPLの条項に従うことを除いてそのような問題行動をとる法的な権利などほとんど有って無いに等しかった。 ドイツのネットワーク機器メーカーSitecomは、GPLの条項に違反して、netfilter/iptables(英語版)プロジェクトのGPLで保護されたソフトウェアを頒布していたが、彼らは頒布停止を拒絶した。この後、事態は法廷に持ち込まれ、2004年4月、ミュンヘン地方裁判所はnetfilter/iptablesプロジェクトの訴えに対し、Sitecomドイツ法人の製品に対する予備的差止命令(英語版)(仮処分差止命令)を認める決定を下した。2004年7月、ドイツの法廷は、この差止命令がSitecomへの判決になると確定し、結審した。法廷で認められたのは次の内容である。 Defendant has infringed on the copyright of plaintiff by offering the software 'netfilter/iptables' for download and by advertising its distribution, without adhering to the license conditions of the GPL. Said actions would only be permissible if defendant had a license grant [...] This is independent of the questions whether the licensing conditions of the GPL have been effectively agreed upon between plaintiff and defendant or not. If the GPL were not agreed upon by the parties, defendant would notwithstanding lack the necessary rights to copy, distribute, and make the software 'netfilter/iptables' publicly available. 参考訳: 被告は、ソフトウェア'netfilter/iptables'をダウンロードできる状態にし、その頒布物を宣伝したが、GPLのライセンス条件を遵守しなかったため、原告の著作権を侵害した。仮に被告がライセンスの許諾を受けている場合を除いて、当該行為は許されない。(中略) このことは、原告と被告との間で、GPLのライセンス条件に事実上合意したか否かという問題とは別である。仮に原告・被告の当事者がGPLに同意しなければ、にもかかわらず、被告は当該ソフトウェア'netfilter/iptables'を複製、頒布そして公開するのに必要な権利を失っていただろう。 netfilter/iptablesの開発者でその著作権を持つもののひとりでもある、ハラルト・ヴェルテは、ドイツにあるFLOSS関連の法的係争を扱う組織、ifrOSS(英語版)の共同設立者、ティル・イェーガー(Till Jaeger)に自身の法的代理人を要請した。この判決文は当時FSFの顧問だったエベン・モグレンが以前予想した通りの内容を反映していた。これは、GPLの条項違反が著作権侵害に与える影響を法廷が初めて認めた重要な判決だった。 2005年5月、ダニエル・ウォレス(Daniel Wallace)は「GPLは価格を零にしようとする違法な企て、すなわち価格固定(英語版)やダンピングである」と主張し、FSFをアメリカ合衆国インディアナ南部連邦地方裁判所(英語版)に提訴した。2006年3月、ウォレスはGPLが反トラスト法に違反する行為を促すとの正当な主張を法廷で証明することができなかったため、原告申立ては棄却された。「GPLは、自由競争、コンピュータ・オペレーティングシステム・ソフトウェアの頒布、消費者が直接得られる利点を阻害するというより、むしろ促進している」と、法廷は言い渡した。その後、ウォレスは、不服申立の控訴状も却下され、FSFへの訴訟費用の支払いを命じられた。 2005年9月8日、ソウル中央地方法院(서울중앙지방법원, Seoul Central District Court, ソウル中央地方裁判所)は、GPLでライセンスされた著作物から派生した二次的著作物を企業秘密とする契約事項に対し、GPLは本件と関連なしとの判決を下した。判決主文の英文抄訳より事件のあらましを述べると、係争にあがった著作物は、GPLv2で保護されたソフトウェアVTun(英語版)である。被告の一人はVTunをベースとした二次的著作物であるソフトウェアを、原告である企業に雇用されている間作成した。彼が原告企業を退社後、そのソフトウェアのソースコードを個人的に複製しており、そのバグ修正を行ったうえ、そのソフトウェアを利用した商用サービスをもう一人の被告と立ち上げた。これに対し、原告はそのサービスが自社の企業秘密の漏洩であると主張した。被告らは、GPLを遵守して著作物を頒布する限りは、企業秘密を維持することなど不可能であるので、守秘義務違反ではないと主張した。ソウル地裁はこの主張の法的根拠を認めず、「ライセンス如何にかかわらず、企業秘密の漏洩により公平な競争者に対抗し不公平な利益を得ることを守秘義務で縛ることは妥当である。また企業秘密は特許とは別であり、技術的である必要は無い(1998年大韓民国大法院判決による)。」と述べた。 2006年9月6日、gpl-violations.orgプロジェクトは、D-Link Germany GmbH(Dリンクのドイツ法人)を提訴し、これに勝訴した。原告は、被告が販売する(即ちこれ自体「対価を取って頒布する」ことであり、なんら問題ない)NAS機器に、Linuxカーネルの一部を利用していたが、GPLに違反した使用であり、著作権侵害である、と主張した。この判決により、GPLの有効性、法的拘束力がドイツの法廷で支持されたという判例が与えられたことになった。 2007年後半より、BusyBoxの開発者ならびにSoftware Freedom Law Center(SFLC)は、組み込みシステムに利用するBusyBoxの頒布者からGPLを遵守する旨の言質を得ることや、GPLを遵守しないものを提訴する計画に乗り出した。これら一連の訴訟は、アメリカ合衆国において、GPLの責務に対する強制力を法廷で争った初の機会であると述べられている。 2008年12月11日、FSFはシスコシステムズを提訴した。被告はそのLinksys部門にて、原告のFSFがGPLでライセンスした著作物である、 GNU Core Utilities GNU Readline GNU Parted GNU Wget GNUコンパイラコレクション GNU Binutils GNUデバッガ ソフトウェアパッケージを、Linksysの次に述べる製品のファームウェアにGNU/Linuxの形で組み込んで、対価を取って頒布、すなわち販売していたが、GPLの条項に違反していたためFSFの著作権を侵害している、と原告のFSFは主張した。該当する製品は、Linksysの有名な無線LANルーターWRT54Gやその他DSLモデム、ケーブルモデム、NAS機器、VoIPゲートウェイ、VPN機器そしてホームシアター、メディアプレーヤー機器などその他多くの機器にも及ぶ。 FSFがシスコを提訴するまでの6年間、FSFはシスコに何度も申立を行ったが、シスコは、「われわれは、(GPLで保護されたプログラムの全てのソースコードならびにその改変箇所を含む完全な複製を提供しなかったというGPLの)条項違反についての問題を修正する予定もしくは修正中である」と主張した。しかし、FSFはその後もより多くの製品から新たな違反が発覚したとの報告を受け、Linksysと多くの会談をとり行うこととなった。しかし、結局実りは少なかった。FSFのブログでは、この過程を「5年間にも及ぶモグラ叩きゲーム」("five-years-running game of Whack-a-Mole")と評している。この6年間の過程を経て、FSFは遂に本件を法廷に持ち込むことを決意した。 その後シスコは本訴訟の和解のテーブルに着き、6ヵ月後、 GPLのコンプライアンス遵守を保証することを目的とした「Linksysに対するフリーソフトウェアの監査役(Free Software Director)を任命すること」 「GPLに基づき、FSFの著作物である当該プログラムを組み込んだLinksys製品を、対価を払って受領、すなわち購入した以前の顧客(つまりGPLのライセンシーまたは受領者)に、当該顧客のGPL上の権利を保証する旨の通知を行うこと」 FSFのプログラムのソースコードを、シスコのウェブサイト上で自由に利用可能な状態にする(アップロードする)こと FSFへの金銭的支払いを行うこと 以上の和解内容に合意した。
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