日本のブラック企業問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/04 20:45 UTC 版)
「ブラック企業」の記事における「日本のブラック企業問題」の解説
ブラック企業は突如として現れたのではなく、日本型雇用が変容する過程で台頭してきた。従来の日本型雇用においては、単身赴任、長時間労働、サービス残業にみられる企業の強大な指揮命令が労働者に課される一方で、年功賃金や長期雇用、企業福祉が保障されてきた。しかし、ブラック企業では見返りとしての長期雇用保障や手厚い企業福祉がないにもかかわらず指揮命令の強さや経営者、上層部の強大な権力が残っている。それどころか、指揮命令の強さや経営者、上層部の権力に関してはむしろ従来以上に強化・徹底されている場合も多い。企業側が指揮命令をする際に何のルールも課されない状態、すなわち労使関係の喪失状態にあるとする指摘がある。 民間企業ではない公務員(教師・警察官・消防官・自衛官など)や、医師や政治家の場合でも、上記のようにサービス残業が常態化している場合、ブラック企業と例えられることもある。 1991年のバブル経済崩壊後以降、企業の経営体制は「なるべく無駄を省く」として「コスト削減」に比重を置いてきた。そうしたことからブルーカラー・ホワイトカラーや正規・非正規雇用を問わず、末端の従業員に過重な心身の負担や極端な長時間の労働など劣悪な労働環境での勤務を強いて改善しない企業を指すようになっている。すなわち、入社を勧められない企業、早期の転職が推奨されるような体質の企業がブラック企業と総称される。 また、従業員の扱いや待遇の問題とは別に、事業所の周辺環境や地元への環境・経済面への配慮や貢献、消費者のニーズやアフターケアに対する考慮が薄い企業や、サービスと質が劣悪である場合、債務超過の場合または産業構造の転換によって斜陽産業となり創造的破壊もなされずゾンビ企業化している場合、または自らの利益のために悪徳商法(詐欺、ボッタクリなど)や脱税(所得隠し)をいとわない企業もまたブラック企業と呼ばれることがある。 また、この言葉の元々の意味もあり、経営者の怠慢や不適切ないわゆる「黒い交際」によって反社会的勢力やそれに関連する人物の会社組織への侵入や干渉を許し、組織下層部の従業員に大きな精神的負担を強いている企業をブラック企業の範疇に含めることもあるため、少なくとも以下の要件が当てはまればブラック企業と呼称される(2点以上あてはまる企業も存在しうる)。 企業および経営者の負うべき責任を明示していない場合(組織的に責任を免れようとする企業) 企業コンプライアンスの精神が欠如した企業従業員の過労や公害病などの被害者(およびその親族)からの訴訟と責任(損害賠償など)を免れる企業 末端の従業員(平社員、アルバイト、パート)とその待遇を軽視している企業 消費者(エンドユーザー)や地域への貢献度が低い企業(商品・サービスの質やアフターケアに劣る、消費者とのトラブル、地域でのトラブル(例、騒音・異臭・違法駐車・個人的なトラブル等)が絶えない) 悪徳商法をいとわない企業 このようなブラック企業の体質や内情は、社会問題・民事訴訟・労災申請・労働基準法違反・事件(パワハラの場合は侮辱罪・暴行罪・傷害罪等、セクハラの場合は強制わいせつ罪・都道府県迷惑防止条例違反等、経営者や従業員個人が起こす行為は詐欺罪・収賄罪・横領罪・背任罪等)・従業員の自殺などの形で表面化することもあるが、悪質な法令違反が露呈し経営者や従業員の逮捕などが起きない限り、社名やその実態が公に報道されることがない。仮に社名や経営者、パワハラ・セクハラに関わった人物の実名やその実態が報道され強制捜査が入ったとしても、書類送検のみで済まされたり、逮捕されても後に釈放・不起訴処分になったり、略式裁判により罰金刑や執行猶予で済まされる場合もある。 例えば、合理的理由のないリストラ、不当懲戒処分や名ばかり管理職、サービス残業強要、パワーハラスメント、偽装請負、過労死、社会保険の保険料逃れ、派遣切り、不当労働行為、遺族による公害病・労災の認定を求める訴訟およびその責任を免れる行為などがある。 労働問題以外に企業統治や法令遵守、企業の社会的責任にまつわる諸問題が取り沙汰される場合もあり、一般的な企業と比べればコンプライアンス全般について著しく軽視する傾向がある。また、現在ではコンプライアンス違反の発覚が発端となり、最終的に企業が経営危機や破綻にまで追い込まれるケースが増えている。 ブラック企業は基本的に日本の企業・経営者が慢性的に抱える体質・慣習に根ざした問題だが、風説・通説に基づいたレッテル貼りという一面も全否定はできず、「会社を解雇になった人間や就職活動で採用されず会社で働いたことすらない人間が腹いせに流布しているだけに過ぎない」という批判も存在する。しかし、従業員や就職希望者にとってのブラック企業の存在とは単に自身の経歴や履歴書の評価に限らず、人間関係や肉体・精神の健康や人生設計、さらには生命も破壊される可能性がある大きな脅威であり、例え不景気のような悪環境下であってもそのような企業への就職を避けようとインターネットなどでは活発な議論・情報交換は広範に行われており、その中で情報は分析され、「腹いせ」や「出まかせ」で書き込まれた情報は一律に偽物とみなされる。したがって、「会社を解雇になった人間や就職活動で採用されず会社で働いたことすらない人間が腹いせに流布しているだけに過ぎない」という批判がそのまま対抗言論として成り立っているとは言いがたい。
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