制憲議会体制
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同年5月6日、マドゥロは野党連合民主統一会議の早期再選挙の要求を却下し、代わりに憲法の修正による改革を提案した。チャベス時代からの体制が危機に晒される中、かつてのチャベスと同じくマドゥーロも新憲法制定による自己クーデターを目指しているものと看做されている。民主統一会議は提案を拒否したが、マドゥーロは制憲議会(スペイン語版)の召集を強行した。 しかし制憲プロセスが憲法違反である疑いがある上、制憲議会選挙が「一人一票の原則」を無視し、通常の1票に加えてマドゥロが指名した労組や学生組織など7つの社会セクターに所属する者に2票を与えるという前例のない与党有利の選挙制度になっていたことから野党に強い反発を巻き起こした。このような選挙に立候補することは恣意的な選挙制度を有効と認めることになるため、全野党が立候補せず、選挙をボイコットした。 選挙と平行して政府支持派・反対派の衝突や国軍・警察の治安作戦が展開されて市街地は騒乱状態となった。最終的に同日深夜の開票を持って制憲議会の全議席を与党が独占することが決まるとマドゥロは勝利宣言を行ったが、非民主的な手法に国内外から激しい批判を巻き起こした。 2017年8月に政権支持派の政党連合「シモン・ボリバル 偉大なる愛国者の極(スペイン語版)」が全議席を占める制憲議会が発足した。制憲議会の権限で国民議会の立法権を正式に停止し、反政府的な野党指導者や検察庁長官を拘束している他、政権批判を行う新聞局やテレビ局の閉鎖を行い 国内に戒厳状態を布いた。チャベスですら成し得なかった革命による議会制民主主義の廃止に成功し、ベネズエラ統一社会党による一党独裁体制が確立した。 2017年9月16日、「アメリカ帝国主義制度を除去する」としてドルから中国の人民元に原油価格表示を切り替えた。以前から敵対していたアメリカの制裁圧力がクーデター後に強まった事から反米主義(左派ナショナリズム)及び中国・ロシアとの同盟に傾斜しており、アジアインフラ投資銀行(AIIB)にもベネズエラを加盟させた。9月17日、国連総会の一般演説の中でトランプが「貧困を生み出す誤った主義主張を押しつけている」と批判すると、マドゥロ側もトランプ大統領をアドルフ・ヒトラーに例えて反論を行っている。 12月11日、前日に行われた地方選挙でも反政府政党のボイコットが行われた事を理由に、主要な反政府指導者に立候補を認めない決定を下した。経済混乱は一層に悪化を続けており、同年12月3日に経済制裁の影響を回避する事を目的に独自の仮想通貨(暗号通貨)「ペトロ」を導入することを発表した、1億単位のペトロの発行を命じた。同通貨は石油(ベネズエラの原油確認埋蔵量は世界1位 である)・天然ガス・金などの資源で裏付けられているが、「国家が発行する暗号通貨」として世界初の試みとなる。 2018年1月24日、制憲議会において大統領選挙の早期選挙実施と自身の立候補を声明した。同年2月2日、統一社会党党大会でマドゥーロを党の大統領候補とする決議が行われた。 同年5月17日、同じ反米主義・独裁体制を取る北朝鮮とアメリカが直接対話(米朝首脳会談)に向けた交渉を行っているトランプ大統領を「非常に建設的」「世界には寛容さが必要」と高く評価し、「我々は核兵器を持っていない」とした上でベネズエラにも対話の準備があると呼び掛けた。これに先立つ形でトランプ大統領が愛用するツイッターで「今こそ(トランプ政権は)他国への内政不干渉の公約を守るべきだ」と投稿した事もある。 2018年5月21日の大統領選挙(スペイン語版)は、事前に有力な野党政治家の選挙権がはく奪され、それに反発した主要野党がボイコットしている状況下で行われた。マドゥロは国民の投票を監視し、自分に投票しない国民の食糧配給を止めるなどなりふり構わない選挙戦を行った。結果、統一社会党から民主統一会議に転じた改革党(英語版、スペイン語版)党首エンリ・ファルコン(英語版)、無所属で出馬したキリスト教牧師のハビエル・バルトッチ(英語版)らを大差で破り、大統領に再選された。この選挙は事前に政権側による選挙管理委員会の掌握や、有力候補を投獄などの操作があったとして、アメリカや欧州連合、日本などは結果を承認しなかった。民主統一会議は主要指導者の拘束に加え、内部対立から野党統一候補を立てられないなど以前より勢力を後退させている。 再選後、制憲議会議長であるイザヤ・ロドリゲス(英語版)を副大統領に抜擢し、また党の実務を纏めてきたディオスダド・カベリョ(英語版)を後任の制憲議会議長に任命した。政権内でも自身に近い人物で要職を固め、独裁制の確立に本腰を入れ始めたとされている。 同年8月4日、カラカスで挙行されたベネズエラ国家警備隊(英語版)の創立記念式典で演説をしている最中、会場の上空に接近していた2機のDJI M600 のドローンが爆発して、式典に参加していた兵士7名が負傷した。中継映像では爆発音が記録されており、怯えた様子で屈み込むシリア・フロレス(英語版)大統領夫人や、隊列を崩す兵士が報道されている。マドゥーロを横から撮影していた別の中継映像では爆発音が起きた際、驚いた表情で上空を見ながらもそのままマドゥーロは演台に留まっており、護衛の兵士達が周囲を囲んで防護する間にも演説を続けようとしていたが、やがて側近らに促されて演台を降りている。事件の後、「Tシャツの兵士たち国民運動」と名乗る集団が、「プラスチック爆弾を搭載した2機のドローンで大統領を狙ったが、目標到着前に撃ち落とされた」とする犯行声明を発表した。なお、これはドローンによる国家指導者に対する初のテロとされる。 同年8月21日、ハイパーインフレによって殆ど無価値になっていた実通貨のボリバル・フエルテにデノミ(制憲議会と同じくチャベス時代から数えて2回目)を行い、新通貨ボリバル・ソベラノを発行した。今後は新しい実通ソベラノと仮想通貨ペドロで経済システムを構築するとしているが、長引く経済混乱の収拾は進んでいない。国債の部分的デフォルトに陥り、日用品はおろか食料や水など基本的な物資も不足している。これまでの政治的亡命とは異なり経済難民が周辺国に溢れ出しており、近隣のコロンビア、ブラジル、ペルー、エクアドルなどで社会問題となっている。 同年9月21日、訪中から帰国したマドゥロがツイッターで発表した中国人民解放軍海軍の艦艇によるベネズエラへの初寄港が行われ、同年8月にコロンビアにアメリカ海軍のコンフォートが寄港したことに対抗したとされる。同年12月にはロシア連邦軍の長距離爆撃機がベネズエラに到着して演習を行った。
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