住民基本台帳(住民票)制度に係る事件や諸問題等
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/09 14:33 UTC 版)
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住民税の課税逃れ 詳細は「道府県民税」、「市町村民税」、および「竹中平蔵#トラブル」を参照 個人の住民税の賦課期日は毎年1月1日であり、通常、住民票の記録上、同日を居住したことになっている地方公共団体で賦課決定される。これを逆用し、国外への転出届を行い同日に日本国内に居住していない記録となっていれば、課税されないことがある。 そのため、国外へ転出したと記録される者の実際の生活の本拠が日本国内にある場合、住所地の地方公共団体から見れば、その者は公共サービスの提供を受けているにも関わらず住民税を納めないフリーライダーになる。竹中平蔵がこれを実行したとして問題になった。 投票目的の住民異動届 詳細は「選挙人名簿」を参照 選挙人の資格を公証する選挙人名簿は、住民基本台帳(住民票)を基に作成される。そのため、生活実態のない住所地に住民票を登録することで、本来は投票する資格のない地方選挙等において、応援する立候補者に有権者として投票することが可能となる。公職選挙法は、選挙人名簿に登録する対象を、住民基本台帳に「引き続き3ヶ月以上記録された者」に限定することで、選挙での投票を目的とした駆け込み登録を防いでいる。 しかし、選挙の3ヶ月前までに転出入の届出を行った場合は新住所地で有権者として投票することができるため、日程の決まった統一地方選挙等で完全に排除することはできない。 弁護士等の特定事務受任者による住民票の写し等の不正請求 以前は、住民票の写し等を特定事務受任者(弁護士や司法書士など)が請求する場合には、自分の登録番号(日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会その他の職能団体の会員番号)さえ示せば、ほぼ無審査(請求者が住民票に登録されている本人である場合に準じる形)で交付されていたため、専用申請書を用いた不正請求が後を絶たないとの指摘があった。対策として住民基本台帳法が改正され、2008年(平成20年)5月1日からは、特定事務受任者が職務上請求をする場合は、請求理由を明示することが義務付けられた。 実際の住所や居所と住民票の住所が異なる問題 単身赴任や長期出張、遠隔地就学、長期入院、高齢者介護施設入所など、住民票上の住所と異なる場所に実質的に居住しているにも関わらず、敢えて住民異動届を行わない、または居住している施設等の管理者が同所への住民登録を認めていない、もしくは異動者が住民異動届の必要性を認識していない場合や同届出を失念していた場合等において、実際の住所や居所と住民票に記録されている住所が異なっていることが少なくないとされる。 長野県知事住民票二重登録問題 2003年9月、元長野県知事の田中康夫は「好きなまちだから住民税を払いたい」として、村長からの借間がある下伊那郡泰阜村へ住民登録を移動したが、移動前に住民登録があった長野市が移動を認めず、二つの地方自治体で住民登録されてしまった。このため、第20回参議院議員通常選挙の際に、両方の自治体で投票のお知らせが交付されるという異例の事態になった。 住民基本台帳法では、住所について市区町村長の意見が異なる場合について都道府県知事が決定すると定めているが、県知事本人の問題の場合はその決定の公平性に疑問が残るため、知事は第三者機関である審査委員会を設置し「泰阜村が住所である」と結論付けた。結局長野市が納得せず、是非については裁判になった。最終的には2004年(平成16年)11月18日、最高裁判所第一小法廷が田中知事側の上告を棄却したことにより、田中知事の泰阜村の住所を認めないことが確定した。 市区町村による住民登録拒否事件 平成10年代、アレフ(現Aleph、旧オウム真理教)などの特定の宗教団体の信者に対して、現にその市区町村に居住しているにも関わらず、市区町村が転入届を不受理処分または受理したが調製した住民票を消除処分とする事例が相次いだ。これらは行政裁判で争われた結果、全ての市区町村が敗訴となる判決となり、当該信者の転入届不受理処分等は取消されることとなった。 最高裁判所は「法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として、転入届を受理しないことは許されず、住民票を作成しなければならない」として、たとえ「地域の秩序が破壊され、住民の生命や身体の安全が害される危険性が高度に認められるような特別の事情」があったとしても、転入届の不受理処分等はできないとした。 立川市長による自衛隊員住民登録拒否事件 詳細は「立川市長による自衛隊員住民登録拒否事件」を参照 登録された住所の「生活の本拠」としての実体の有無 住民票に登録する住所に関して、社会通念上の生活の本拠として実体を具備しているがどうかが問題となる場合がある。市区町村は住民基本台帳法第34条及び各市区町村で定める住民実態調査に関する要綱や要領等に基づく調査の結果、住民票上の住所に調査対象の住民の居住実態のないことが判明した場合、住民票を職権により消除することがある。報道などで「住所不定」とされるのはこのように住民票が消除される等して、現に住民票の登録のない状態のことを指すとされる。 大阪市西成区あいりん地区住民登録抹消問題 詳細は「あいりん地区#住民登録問題」を参照 公園を住所とした転居届の不受理処分問題 大阪市北区の公園を住所とする転居届を受理しなかった区の処分を違法として、ホームレスの男性が提訴し争っていたが、2008年(平成20年)10月3日最高裁判所第二小法廷は、「都市公園法に違反して、不法に設置されたキャンプ用テントを起居の場所とし、公園施設である水道施設等を利用して生活していた事実関係の下においては、社会通念上、テントの所在地が客観的に生活の本拠としての実体を具備しているものと見ることはできない」として、この男性の上告を棄却した。 ネットカフェの所在地を住所とした住民票の作成 「ネットカフェ難民」も参照 埼玉県蕨市のネットカフェCYBER@CAFEは、利用者向けのサービスとして、30日以上の継続利用契約をした場合に限り、同ネットカフェの所在地を住所とした住民票への登録を認めている。蕨市は、ある男性の住民異動届を受理した後で住所が同ネットカフェであると知り、店と協議。本人の定住意思や店側の退去報告などを条件に、住民票の登録を認めている。なお、2020年(令和2年)6月17 日付けの総務省から各都道府県市区町村担当部長あて通知により「緊急的な一時宿泊場所などであっても、当該宿泊場所などの管理者の同意があり、生活の本拠たる住所として市区町村長が認定することが適当であると判断したときは、住民票を作成すること」とされており、ネットカフェ等の所在地を住所とした住民票の作成は一定の条件付きで認められている。 同じ世帯の外国籍の親族等が住民票に記載されない問題 日本人と外国人が国際結婚や養子縁組をした場合、戸籍の婚姻事項や養子縁組事項等に外国籍(日本国籍との多重国籍を除く)の配偶者や養子等の氏名、生年月日、国籍等が記載されるが、同じ世帯であっても住民票には外国人が登録されず、住民票の写し等のみでは世帯状況を把握できない、という課題が以前に指摘されていた。2012年(平成24年)7月9日から外国人住民(中長期在留者や特別永住者等)は住民票に登録されることになり、同じ世帯である場合、日本人と外国人住民であっても住民票の写し等で世帯構成等を証明できることになった。
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