ブラックプディング
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ブラックプディング | |
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ストーノウェイ風ブラックプディングの断面。
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別名 | スコットランド・ゲール語: Marag dhubh、アイルランド語: putóg dhubh、ウェールズ語: poten waed, poten ddu, gwaedogen |
地域 | イングランド、アイルランド、スコットランド、ウェールズ |
提供時温度 | 温製が主流だが冷製もあり |
主な材料 | 豚の血液、脂身、オート麦もしくは大麦 |
その他お好みで | ミント、タイム、マジョラム、その他香辛料 |
派生料理 | ドリシーン、スニーム・ブラックプディング、ストーノウェイ風ブラックプディング |
類似料理 | Blodplättar、Slátur、ムスタマッカラ |
ブラックプディング(英: black pudding)は、英国とアイルランドで発展した特徴的なブラッドソーセージ。おもに豚の血液、または牛の血液を原料に、豚の脂もしくは牛のスエットとオートミール、ひき割りオート麦、ひき割り大麦などの穀物を加える。穀物の割合が高く、ペニーロイヤルミントなど特定のハーブを用いることが他地域のブラッドソーセージに比して特徴的である[1]。
語源
英語の単語「pudding(→プディング)」はフランス語の「boudin(→ブラッドソーセージ)」から派生したと考えられる。語源はラテン語で「小さなソーセージ」を意味する「botellus」とされる[2]。
歴史と製法
血液のプディングは最も古い部類のソーセージと考えられる。一般に動物は屠殺時に抜血するが、抜いた血液は処理しなければすぐに腐敗するため、プディングに加工することは血液を無駄にしない手軽な方法であった[1]。現代のブラックプディングは大半が豚の血液を用いるが、羊や牛の血液を用いた時代がある。15世紀のイングランドで貴族階級向けにイルカの血から作るプディングのレシピがあった[1]。スコットランドのブラックプディングは少なくとも19世紀まで、おもに牛または羊の血液を原料とした。ジョン・ジェイミソンによるスコットランド語辞典は、ブラックプディングを牛や羊の血から作るプディング
と定義している[3]。
ブラックプディングは屠畜の行程で得られる産物で、盛大に屠畜する聖マルティヌスの日と歴史的に関係が深かった。19世紀になると、当時はランカシャーの一部であったストレットフォードや[4][5]、アイルランドのコークなど大規模な豚肉市場が存在する町がブラックプディングの産地と見られた。
この時代は家庭で豚肉を屠畜することが一般的ではなくなったため、都市部の主婦を対象とする料理書はブラックプディングをほとんど扱わなかった。スコットランドの料理書は、20世紀でもブラックプディングのレシピを掲載した[6]。
英国の伝統的なブラックプディングのレシピは、新鮮な血液をよく混ぜ[7]、脂身、ラスク、調味料を加えてケーシングに詰めて茹でる。かつては牛の腸が天然のケーシングとされたが、近年の市販品はセルロース製の合成ケーシングを用いる。原料は輸入品の乾燥血液が主流である。原材料の種類が比較的少なく、血液の増粘と固定にオート麦や大麦を用いることが、大陸ヨーロッパ諸国と異なるブラックプディングの特徴である[1]。
ブラックプディングの製法は他のソーセージ類と比べて英国各地で地域差が大きく、多くの精肉店は独自の製法がある[8]。オート麦と大麦に加えてパン粉や小麦粉が使われたり、脂身やスエットの量や食感が大きく異なることもある。ペニーロイヤルミント、マジョラム、タイム、ミントはいずれも伝統的に風味付けとして用いられる。ペニーロイヤルミントはブラックプディングに用いられることから、ヨークシャー北部区域で「pudding-yerb(→プディング草)」と称された[9]。香辛料ではほかにクミン、ヘンルーダ、パセリも伝統的に用いる[10]。
料理名は数世紀にわたって「ブラックプディング」と称され、1450年ごろに「blak podyngs」の記録が残る[11]。方言の呼称も見られ、「ブラックポット (black pot)」(サマセット)[12]や「ブラッディポット (bloody pot)」[13]などがある。
地域性
英国で[14]ブラックプディングはブラックカントリー、北西部、スコットランドと関係が深い。特にストーノウェイやランカシャーで名物とされ、ランカシャーではベリーが有名で、伝統的に茹でたものを紙に包んだままモルトビネガーをかけて食する[15]。ヨークシャーでもよく食され、レモンタイムやセイボリーで風味付けされる[16]。バーンズリーのブラックプディングは特に名高い[17]。スコットランド西方諸島で作られるストーノウェイ風ブラックプディングは、地理的表示保護 (PGI) の認定を受けており、ベリーでも精肉業者がブラックプディングの製造と販売の歴史を告知している。ベリーのブラックプディング発祥は1810年、とする説もある[18]。カナダのノバスコシア州とニューファンドランド・ラブラドール州では移民が持ち込んだブラックプディングが地域の食文化に定着している[19]。
アイルランドには、一般的なブラックプディングと別にドリシーンと称する地方版があり、特にコークの名産とされる[20]。ドリシーンは近年まで羊の血も用いたが、現在は一般に牛の血液を原料とする。風味付けにタンジーを用いることがある[20]。スニーム風のブラックプディングのバリエーションはケリー県の名産でPGI認定を受けている[21][22][23]。
消費

ブラックプディングは皮のままグリルしたり、フライパンやオーブンで焼いたり、茹でたりして食する。製造過程で加熱調理されており再加熱せずに冷食も可能である[24]。
北西イングランドの一部とブラックカントリーでは、ブラックプディングを丸のまま茹で、パンやジャガイモを添えて1食の食事とすることが多い[11]。英国の他の地域やアイルランドでは、スライスしてフライパンで焼くかグリルしたものを伝統的なフル・ブレックファストの一部として食することが一般的である[25][26]。この習慣は英国とアイルランドからの移民により世界へ広く伝えられた[27][28]。

スコットランドを中心にイングランド北部などのフィッシュ・アンド・チップ・ショップにはブラックプディングの衣揚げを提供する店もある[29]。
近年はブラックプディング・アイスクリームなど新奇な食し方も散見される[30]。英国の料理店に定着した現代的なレシピにホタテと付け合せるものがある[31]。「マンチェスターエッグ」と名付けられた料理など、ブラックプディングから作るスコッチエッグも広く知られる[32][33]。
栄養
ブラックプディングは良質なタンパク源であり、低炭水化物で亜鉛と鉄を多く含む[34]。これらの栄養的特性から「スーパーフード」とされることもある[35]。多くのブラックプディング製品は飽和脂肪酸と塩分の含有量が高い[要出典]。
催し
グレーター・マンチェスターのベリー行政区内の町ラムズボトムで、1980年代から世界ブラックプディング投げ選手権が開催されている[36]。このユーモラスな競技はランカシャーとヨークシャーの地域対立をなぞらえており、参加者は積み重ねられたヨークシャー・プディングに向けてブラックプディングを投げる[37]。毎年9月に開催して数千人規模の競技者と観衆が集まる[38]。
かつてはランカシャーの町ベイカップで「ベイカップ・フード&ブラックプディング・フェスティバル」が開催されていた[30][39]。
フランスノルマンディー地方のモルターニュ=オー=ペルシュは、「ヨーロッパ・ブラックプディング・コンテスト」を、毎年アール・ド・ブーダン(→仏: Halles de Boudin、ブラッドソーセージ市場)で開催する。
関連項目
脚注
- ^ a b c d Jaine, T. and Davidson, A. The Oxford companion to food, OUP, 2006, p.84
- ^ Olver (2000年). “The Food Timeline: pudding”. The Food Timeline. 2007年5月3日閲覧。
- ^ Jamieson, Supplement to the etymological dictionary of the Scottish language, v1, p.95
- ^ Waugh, E. (1869), Lancashire Sketches, p.78
- ^ The Encyclopedia Britannica, Volume 20, 1929, p.13
- ^ Leach, Helen. "Translating the 18th century pudding" in Clark et al (eds) (2008) Islands of Inquiry: Colonisation, Seafaring and the Archaeology of Maritime Landscapes, ANU, p.390
- ^ Floyd, K. (1988) Floyd on Britain and Ireland, BBC, p.97
- ^ Tatlow (1998) Good enough to eat: how we shop, what we eat, Macmillan, p.41
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- ^ Dampney (1977) All about herbs, Exeter, p.13
- ^ a b Black pudding, The Foods of England, accessed 21-04-25
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- ^ Wright, J. The English Dialect Dictionary, vol I, p.306
- ^ “The Black Pudding”. The English Breakfast Society. 2014年1月6日閲覧。
- ^ Lancashire and Cheshire Regional Dishes, accessed 30 April 2010
- ^ Sinclair (ed). (1998) International Dictionary of Food and Cooking, Taylor and Francis, p.589
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- ^ a b Walker, H. (ed) (1995) Disappearing Foods: Studies in Food and Dishes at Risk, Oxford, p.175
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- ^ “Proof is in the Sneem black pudding!”. Farmersjournal.ie. 2025年5月24日閲覧。
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- ^ Allen (2020年11月7日). “What our Secret Service spy thought of these seven Derby fish and chip shops”. Derby Telegraph. Local World. 2024年4月18日閲覧。 “"One interesting item on the menu was deep-fried black pudding."”
- ^ a b “Black pudding ice cream unveiled”. BBC. (2005年8月26日) 2016年3月21日閲覧。
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- ^ Vallely, Paul (2011年11月19日). “Great Scotch! Manchester's take on the Scotch egg has become a snack sensation”. The Independent 2025年5月26日閲覧。
- ^ “Manchester egg recipe”. The Daily Telegraph 2024年4月18日閲覧。
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- ^ Adam Boult (2016年1月6日). “Black pudding hailed as a 'superfood'”. The Daily Telegraph 2018年10月6日閲覧。
- ^ “Ramsbottom World Black Pudding Throwing Championships”. 2016年3月12日閲覧。
- ^ Paul Britton (2015年9月7日). “The World Black Pudding Throwing Championships return to Ramsbottom on Sunday”. Manchester Evening News 2016年3月12日閲覧。
- ^ Dan O'Donoghue (2015年9月14日). “PICTURES: Thousands flock to Ramsbottom for World Black Pudding Throwing Championships”. Rossendale Free Press 2016年3月21日閲覧。
- ^ Samrana Hussain. “A crack at world record”. Lancashire Telegraph 2016年3月21日閲覧。
外部リンク
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ブラッドソーセージ
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100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 1,584 kJ (379 kcal) |
1.29 g
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糖類 | 1.29 g |
34.5 g
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飽和脂肪酸 | 13.4 g |
14.6 g
|
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ビタミン | |
リボフラビン (B2) |
(11%)
0.13 mg |
パントテン酸 (B5) |
(12%)
0.6 mg |
ビタミンB12 |
(42%)
1 µg |
コリン |
(15%)
72.8 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(45%)
680 mg |
鉄分 |
(49%)
6.4 mg |
亜鉛 |
(14%)
1.3 mg |
セレン |
(22%)
15.5 µg |
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%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース |
ブラッドソーセージ(blood sausage)とは、血液を材料として加えたソーセージのこと。赤身肉で作ったソーセージと比べると色が黒ずみ、血の風味が独特の強い癖として感じられるが、家畜を無駄なく利用する食品として、ヨーロッパや東アジアの牧畜の盛んな地域で古くから作られてきた。例えばイギリスではブラックプディング(black pudding)、ドイツではブルートヴルスト(Blutwurst)、スペインではモルシージャ(morcilla)、フランスではブーダンノワール(boudin noir)などと呼ばれ、地域ごとの様々な作り方がある。
牧畜や肉食の習慣が薄い地域ではあまり見られず、また、宗教上の理由から血を食のタブーとしている文化圏には存在しない。
歴史

紀元前8世紀-紀元前6世紀に編まれた『オデュッセイア』の第18歌には、山羊の胃に血と脂身を詰めて焼いた料理が早くも登場している。これは文献上でソーセージが確認できる最古の例でもある[2][信頼性要検証]。
ローマ時代の食卓でもブラッドソーセージは一般的な食品であった。1世紀-3世紀に書かれたアピキウスが記した料理書にも、豚の血とゆで卵の黄身、刻んだリーキ、松の実などを豚の小腸に詰めたブラッドソーセージのレシピが載っている。アピキウスによると、ワインとリクアメンで煮て食べた[3]。
その後もヨーロッパ各地でブラッドソーセージは作られ続けた。14世紀にフランスで出版された『パリの作法』という料理書には、ブーダンの作り方が、屠殺の手順から解説されている[4]。
中世ヨーロッパでは、屠殺をした日の祝祭の御馳走として作られることが多かった。フランスのオーヴェルニュでは、屠殺があった日には村で共有の大鍋で血を煮詰め、ブラッドソーセージを作る習慣があった。ペリゴールでは、屠殺日のブラッドソーセージの煮汁を、家畜に与えたり、畑にまいたりするしきたりであった[4]。ドイツでは、シュラハトプラッテ(Schlachtplatte、バイエルン州ではシュラハトシュッセル)やヴェストファーレン地域のパンハース (Panhas) のように、ブラッドソーセージを使った屠殺日の祝祭料理が生まれ、現在でも伝統料理として受け継がれている[5]。
基本的な製法
屠殺・解体の際にとっておいた家畜の血液を、挽肉など他の材料とともに、腸などのケーシングに詰めて加熱して作る。血液以外の材料としては、内臓や舌、皮、脂肪などの赤身肉以外の部位を豊富に使うことが多い。水分が多いので、小麦粉や米などの穀物原料を「つなぎ」として混ぜることも多い。また、血液や内臓などには強い臭気があるので、臭み消しとなる香辛料を多く使う傾向がある[6]。
加熱の方法は茹でることが一般的である。破裂しないように、沸騰しない程度の低温で茹でることが多い。これをそのまま切って食べるものと、さらに焼いて食べるものがある。
なお、材料の血液や内臓は傷みやすいため、屠殺のすぐ後の新鮮なうちに作られるのが通常である。
栄養
血液を主原料とするために鉄分が豊富である。血と一緒に具として使う材料によってその他の栄養素は異なり、内臓を使う場合にはミネラルやビタミンが豊富となり、脂身を使う場合には脂肪分が増える。
地域ごとのバリエーション
ヨーロッパ

ドイツではブルートヴルスト(Blutwurst, 血のソーセージの意)と呼ばれる。豚の血と肉、脂身を使って作られ、中でもテューリンゲン州の名物となっている。血液と豚の舌、燻製にした脂身を合わせて腸詰めにしたものもあり、ツンゲンヴルスト(Zungenwurst, 舌のソーセージの意。en:Blood tongue)と呼ばれる。フォーゲルスベルク山地にもメンゲヴルストと呼ばれる血液を使った独自のソーセージがある[7]。バイエルンではプレスザック(Presskopf)というブラッドソーセージが間食用によく供され[8]、具材には地域によって様々なバリエーションがあり、粗挽き肉・皮・心臓や舌・脂身・ベーコンなどが用いられる。また、腸詰めにしない皮無しソーセージの類にも血を混ぜたものが見られ、ヴェストファーレンのメプケンブロート、オスナブリュック郡やミュンスター行政管区のヴルステブロートといった例がある。
東ヨーロッパのソーセージであるキシュカにも、血を材料に使ったものがよく見られる。豚の血を大麦やソバの実とともに豚の腸に詰めて作る。中でもポーランド産のものはカシャンカ (Kaszanka) と呼ばれて有名である。カシャンカは、シレジア地方ではKrupniokと呼ばれる。

フィンランドでは、ムスタマッカラ(Mustamakkara:黒ソーセージの意)と呼ぶ。豚の血のほか、解体の際に出るくず肉の挽肉や大麦などで作る。タンペレの名産品。焼いてコケモモのジャムを添えて食べるのがフィンランド流である。
ラップランドのサーミ人は、トナカイの血を使ったソーセージを作る。血を小麦粉とともに塩で味付けして小腸に詰めるもので、胡椒やタマネギを加えることもある。保存性はなく、ゆでてすぐに食べる。なお、血とライ麦粉で作る団子もあり、こちらは携帯用の保存食とする[9]。シベリア北西部ハンティ語圏のハンティ人も、トナカイの血の腸詰めを作る[10]。
フランスには、ブーダン・ノワール(Boudin Noir)と呼ばれる豚の血液入りのソーセージがある。かつて、ガリア人も牛乳と血を使ったブーダンを作っていた[11]。

スペインでは、ブラッドソーセージをモルシージャ(Morcilla)と呼んでいる。地方によってさらに様々な作り方に分かれており、ブルゴス県のモルシージャ・デ・ブルゴス、レオン県のモルシージャ・デ・レオン、アストゥリアス州のモルシージャ・デ・アストゥリアスなど多様である。豚の血に玉ねぎのみじん切りや米を加えて腸詰めにし、ゆでて火を通したうえ、干して乾燥させて作る。料理の材料として使うことが多い[12]。
イタリアではトスカーナ州で、ブリスト (Buristo) と呼ばれる豚の血や内臓を使った腸詰めが作られている。
イギリスには、ブラックプディング(Black Pudding、またはブラッドプディング:Blood Pudding)と呼ばれる血液の腸詰めがある。豚の血に、角切りにしてゆでた豚の脂身、小麦粉、オートミール、ニンニクなどが材料で、肉は使わないのがイギリスの伝統的な作り方である。小麦粉などの穀物原料が多く使われるのは、イギリスのソーセージ一般に共通している。ケーシングには、牛の腸を使う。材料を混ぜて腸に詰めたら、80℃で茹で上げる[12]。
アイスランドでは、ブロウズミョール(Blóðmör, 血と脂肪の意)と呼ばれる羊の血と脂身を使ったブラッドソーセージがある。羊のレバーソーセージのリフラルピールサとともに、アイスランドの伝統的な食品である。ソーラブロートのごちそうの一つでもある。
アジア
モンゴルでは、主な食用家畜である羊を使ったザイダスというブラッドソーセージがある。ツォトガスン・ゲデス(血を注いだ腸の意味)とも呼ばれる[13]。伝統的な羊の屠殺は、ナイフで作った小さな切り口から手を体内に入れて、動脈を指でちぎるという方法で、血液が体外にこぼれずに胸腔へと溜まるようにして行われる。開腹したら、溜まった血は器に汲み出しておき、同じ羊の小腸に詰めて煮込む。血には玉ねぎやニンニクのみじん切り、小麦粉を加えることもあり、味付けには岩塩など塩を用いる。羊1頭から採れるブラッドソーセージの量は、それだけで6 - 7人家族の2日分の食料になる[14]。
中国では、東北地方を中心に見られ、血腸と呼ぶ。血と一緒に餅米を詰めることもある。
朝鮮半島にも、中国のものとよく似たスンデと呼ばれる豚の血を使った腸詰めがある。血のほかには香味野菜や餅米、あるいは麺類を具として加える。塩胡椒を添えて軽食にするほか、炒め物や鍋料理の材料にも使う。
日本では、肉食の伝統があまり無かったことから、ブラッドソーセージは一般的な食品ではないが、国産品が全く存在しないわけではない。戦前、栃木県の田舎では「それそれ」と呼ばれる血腸が作られていた[15]。マタギは血腸も作っていた。
その他
南アメリカには、かつて植民地だった関係から、スペインのモルシージャの系統のブラッドソーセージが普及している。
脚注
- ^ "Blood sausage" (米国農務省食品成分データベース)
- ^ “ソーセージがもっと食べたくなる歴史”. ニッポンハム. 2021年2月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。 Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
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- ^ 栃木の食事編集委員会 (1988). 聞き書 栃木の食事全集. 日本国: 農山漁村文化協会. ISBN 4540880322
参考文献
- マグロンヌ・トゥーサン=サマ、玉村豊男訳『世界食物百科―起源・歴史・文化・料理・シンボル』原書房、1998origyear=1987。 ISBN 4562030534。
- 南直人『世界の食文化18 ドイツ』農文協、2003年10月。 ISBN 9784540032202。
- 岸上伸啓、ほか『世界の食文化20 極北』農文協、2005年10月。 ISBN 9784540032202。
ブラックプディング
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