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日本オペレーションズ・リサーチ学会日本オペレーションズ・リサーチ学会

アルゴリズム特許

読み方あるごりずむとっきょ
【英】:algorithm patent

概要

アルゴリズム計算手法)は,数学と密接な関係にある(あるいは数学そのものである)という理由で,従来特許による保護対象から外されてきた.しかし,最近ソフトウェア対す特許認められるようになってからは,事実上アルゴリズムそのもの対す特許,すなわち"アルゴリズム特許"が多数成立している.その代表例は,1988年米国で,また1995年日本でも成立した,カーマーカー線形計画法特許である.

詳説

ソフトウェアアルゴリズム権利保護については, 古くから米国中心様々な議論が行われてきた.

まずソフトウェア産業黎明期にあたる1960年代には, IBMなどのコンピュータ・メーカーは, 特許 (patent)によるソフトウェア保護主張した. しかし, 二進化十進数二進数変換するプログラムに関して争われた, 「ゴッチューク対ベンソン判決」(1971年), ある種化学プロセス終了判定するソフトウェアに関して争われた, 「パーカーフルック判決」(1978年)において, 最高裁ソフトウェア特許による保護繰り返し拒絶したため, 米国政府は, 1980年著作権法改正し, 著作権 (copyright)によってソフトウェア保護することを決定した.

著作権法は, 本来文芸作品などに対して適用される法律で, 作品表現保護するが, その中に含まれるアイディア自体保護しないのが特徴である. このため, リバース・エンジニアリングによってプログラム解読し, それと本質的同一プログラム作成販売しても, 著作権の侵害となならない. ソフトウェア産業界が, アイディア保護求めるため, 特許法による権利保護主張した原因はここにある.

このように, 矛盾抱えながらも著作権法による保護決め米国であったが, 著作権改訂翌年に当たる1981年, 最高裁は「ダイヤモンドディーア判決」で, ソフトウェア特許(software patent)への道を開いた. 最高裁はこの判決の中で, 数学公式もしくはアルゴリズム自然法則のようなものと規定し, それ自体特許対象とはしないが, それと同時に申請単なる数学公式ではなく, 全体として産業プロセス保護求めている場合状況異なるとし, 当該申請特許付与することを支持したのである.

この判決以後, 米国ではソフトウェア特許次々と成立した. その審査に当たっては, ソフトウェア中に数学アルゴリズムが含まれなければ特許適格, 数学アルゴリズムが含まれているときは, 全体見て判断するという「二段審査」が用いられることになった.

しかし, 数学アルゴリズム非数学的アリゴリズムの線引きめぐって事態紛糾し, 以後10年以上にわたる混乱を招くこととなった. この過程成立したのが, AT&T-カーマーカー線形計画法特許である. ここでAT&Tは, カーマーカー発明した2つのアルゴリズム, すなわち射影変換法とアフィン変換法特許申請し, 1988年極めて適用範囲の広いアルゴリズム特許成立することとなったのである.

一方わが国では, 1970年代以来, ソフトウェア著作権特許法中間位置するプログラム法を作成し, これによって権利保護を行うべきであるという議論主流を占めていた. それは, ソフトウェア特許法規定する「発明」, すなわち「自然法則利用した技術思想」とは考えにくいこと, またその一方で, 現行の著作権法保護期間が長すぎる(60年間)ことなど, 工業製品であるソフトウェア保護には適さないと考えられたためである. ところが, プログラム構想は, 米国反対の下で潰え去り, わが国著作権法改定してソフトウェア保護を行うことが決まった. 1986年のことである.

しかし, このころ既に米国は, ソフトウェア特許による保護推進していた. こうして, ソフトウェア表現部分著作権法で, アイディア部分(アルゴリズムを含む)を特許法保護するという, ややこしい状況生まれのである.

この結果, わが国にも米国と同じ混乱持ち込まれることになった. 即ちソフトウェア自然法則利用した技術思想といえるか, 数学アルゴリズム非数学アリゴリズムの線引きどのように行うか, などがそれである.

この過程わが国でも, 1991年には一旦 "単なる数学アルゴリズム" として拒絶されたカーマーカー特許が, 1993年逆転公告され, 異議申立て経て1995年成立することとなった. これに対して1996年無効審判請求が行われたが, 1998年12月にこれが却下され, アフィン変換法特許最終的成立した. これを受けて今野らは, 1999年3月東京高等裁判所に対して特許取り消し請求を行った.(この訴え2002年3月却下された)

その争点は, (1)発明新規性(ディキン法との類似性), (2)技術開示の不十分性(超大型連立一次方程式解法など), (3)適用範囲広範すぎること, (4)数学アルゴリズムへの特許付与の是非などであるが, 詳細文献 [1, 2]を参照して頂きたい.

このように, わが国でも1980年代後半以来ソフトウェア特許混乱中にあったが, 1996年特許庁審査規準大幅改定したことによって, 混乱納まりつつある. この改訂特許庁は, 自然法則の利用については, ソフトウェアコンピュータ利用前提としており, コンピュータ自然法則の下で動いているという事実によって, ソフトウェア自然法則利用しているものと判断し, 長年論争決着付けた. また数学アルゴリズムも, それ自体特許とはしないものの, それをインプリメントとしたプログラム特許対象とするという解釈行い, 事実上, 数学アルゴリズム特許対象とする方針打ち出しのである. しかし, これらはあくまでも行政府である特許庁法律解釈に過ぎないものであり, 法理論的にみて妥当か否かについては見解分かれるであろう.

歴史を振返れば, ソフトウェア特許は, 著作権法による保護が十分でないため違法コピー横行し, 開発資金を十分に回収できないことに苛立った産業界要請を受けて成立したものである. これに, 1980年代レーガン政権以来の, 強いアメリカ目指す知的財産権(intellectual properties right)戦略重なり, いまではソフトウェア特許, (数学)アルゴリズム特許は当たり前のこととし受け入れられるようになった, と(法律関係者は)言う.

果たして, ソフトウェア特許は, ソフトウェア産業ソフトウェア技術発展に役立つ制度なのか. また現在のような, (数学アルゴリズム含めて)何でも特許という状況学問進歩にとって望ましいものかどうか. これらについて, アルゴリズム特許と最も密接に関係しているオペレーションズ・リサーチ学会や, 応用数理学会で詳しい検討を行うことが求められているが, 結論が出るまでにまだかなりの時間が掛かるであろう.


上の文章を書いてから6年後の2006年現在,ソフトウェア特許を巡る状況大きな転換点迎えている.ソフトウェア関係者の間で,無数のソフトウェア特許作り出す特許イノベーション阻害しているという認識が高まる一方で,オープン・ソフト陣営勢力拡大する中,2004年米国産業競争委員会発表した「バルミサーノ・レポート」が,イノベーション実現するためには,権利囲い込みよりコラボレーションが重要であることを強調したからである.

この結果わが国政府は,2005年以降ソフトウェア特許審査厳しくする一方で権利乱用に関する監視体制強め方向動き出している.また産業界でも特許無料公開プール制度などが広がりを見せており,ソフトウェア特許には逆風が強まっている.



参考文献

[1] 今野浩, 『特許ビジネスはどこへゆくのか』, 岩波書店, 2002.

[2] 今野浩, 中川淳編著, 『ソフトウェアアルゴリズム権利保護』, 朝倉書店, 1996.






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