香りの用語・表現
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/26 15:45 UTC 版)
これも製法に関わる用語・表現と同じく、時代・世代や地方によって様々であるが、標準的なものを示しておく。 熟成香 熟成によって生じる好ましい香りで、強いものは「古酒香」とも呼ばれる。香りの様態は様々で、それぞれ紹興酒、シェリー酒、カラメル、干ししいたけ、干しブドウなどに例えて表現される。 吟醸香(ぎんじょうこう / ぎんじょうか) 「ぎんじょうこう」が正しい読み方とよく言われるが、専門家の中でもわざわざ「ぎんじょうか」とルビを振り読者の注意を促す者もいるので注意を要する。 吟醸酒や大吟醸酒に特有の芳香。リンゴやバナナのような香りが最も一般的だが、酒によってはマロン、クリーム、チョコレートのような吟醸香を出しているものもある。決して香料を加えているのではなく、吟醸造りのような低温発酵時に酵母が出すエステル類、特にカプロン酸エチルや酢酸イソアミルに起因する香りである(参照:醪(もろみ))。造りの良い純米酒など、吟醸酒以外にも感じられることは多い。なお、生成された吟醸香は全てが醪の中に留まるわけではなく、多くは大気中に放散される。このため、ヤコマン装置によりそれを回収・液化して、醪の中に戻したり、あるいは元の醪以外の日本酒へ添加したりすることもかつて行われていた。最近は新型酵母の開発により、そういう必要はなくなってきたといわれる。 リンゴ香 吟醸香の一種で、カプロン酸エチルに起因するデリシャスリンゴのような芳香。適度なリンゴ香は吟醸酒に気品を与えるとされる。 バナナ香 吟醸香の一種で、酢酸イソアミルに起因するバナナのような芳香。適度なバナナ香は日本酒に甘くフルーティーな香りの厚みを加えるものとして好まれるが、強すぎると異臭に感じられ「酢酸エチル臭」「セメダイン臭」と呼ばれて減点の対象となる。ヤコマン装置によって回収される主な香り成分でもある。 新酒ばな 主に麹に由来する新酒特有の若々しい香りで、熟成するにしたがって消えていく。燗酒#温度の表現(飲用温度)を好む熟達した飲み手は、燗によって強められた新酒ばなを敬遠することが多い。 アルコール臭 アルコール添加がうまく行かなかったときに生じる薬品のような臭い。醗酵によって生じるアルコール成分と違って、酒そのものと一体化していない、添加したアルコールが浮いた感じになって起こる。 老ね香(ひねか) 「熟成が進みすぎた(過熟)」「熟成しないうちに劣化した」「保存方法が正しくなかった」などの理由で、酒が酸化してしまったときに生じる異香。熟成香と紙一重で、不快であれば老ね香とされる。それゆえごく稀に、少しばかりの老ね香はかえって酒に箔をつけるものとしてプラスに評価される場合もある。 生老ね香(なまひねか) 「生酒が古くなった」「保存方法が正しくなかった」などの理由から、酵素の働きから生じる、蒸れたような猛烈な悪臭。活性炭濾過でも除去できず、出荷前に発生すると蔵にとって致命傷となるが、実際には出荷後の流通・小売業者、あるいは購入後の消費者の、保存方法や温度管理のまずさによるところが大きい。「生酒は米の牛乳」と思っておけば、まず間違いない。 つわり香 醪の醗酵の失敗などに起因する、乳製品が腐ったような臭いで、吐き気を催させることからこう呼ばれる。専門的には「ダイアセチル臭」と呼ばれ、「火落ち臭」と似ている。 火落ち臭 火落ち菌が繁殖することによって生じる臭いで、菌の種類によって様態は異なるが、おおむねつわり香と似ている。 濾過臭(ろかしゅう) 濾過の工程で付く異臭の総称。和紙を水で濡らしたときの臭いに似ているとされる。 炭臭(すみしゅう) 活性炭濾過の工程で、質の悪い炭を使ったり、炭を入れすぎたときに付く異臭。炭自体が臭気を吸収しやすいので、保存中に炭が外部から吸収した臭い成分を、酒に投入されたときに酒の中へ放出して生じることも多い。 酸敗臭(さんぱいしゅう) 腐造菌という雑菌が醪を汚染し、酢酸などが生成されて付く極めて不快な臭い。 袋臭(ふくろしゅう) 醪をしぼる酒袋の臭いが酒に移ったもの。酒袋の管理が正しくなく、酸化した付着物があったときなどに生じる。 日光臭 光にさらされて発生する、刺激性のある異臭。「ひなた臭」「けもの臭」ともいう。室内蛍光灯など、日光以外の光線に長時間さらされていても発生する。出荷後の流通・小売業者、あるいは購入後の消費者の、保存方法のまずさに起因することが多い。瓶を新聞紙などにくるんでおくと防げる。かつては瓶の臭いが酒についたものと考えられ「瓶臭」という語があったが、現在ではそれは日光臭と老ね香の混じった臭気とされている。 木香(きか / きが / もくが / もくか / もっか) 「きか」が正しい読み方とよく言われるが、専門家の中でも、わざわざ「きが」とルビを振り読者の注意を促す者もいるので注意を要する。 スギなど樽の木材の香りが酒に移ったもの。香りの程度と酒質によってはプラスに評価されることもあるが、鑑評会などでは「木香臭(きがしゅう)がする」というと往々にしてマイナス点である。ちなみに醗酵の最中にアルコール添加すると生成されることがある、木香のような臭いを「木香様臭」といい、本質的には別物であるが混同されやすい。 また、酒器を手に取ってから飲み込むまでの各段階において感じられる香りは以下のように呼ばれる。 上立香(うわだちか) まだ酒を口に含まず、酒の表面から鼻先へ匂い立つ香。酒を猪口に注いで、丸く揺らしたときに立ち上がってくる揮発性の芳香。吟醸香に重きを置く酒や、鑑評会に出品される酒では、とかく重視される。 含み香(ふくみか) 酒を口に含み、舌先で転がしたときに、鼻へ抜けていく香。香りの成分としては、上立香ほど揮発性が高くないので、口に含むまでは感じられない。 吟香(ぎんか) 酒を呑みこむとき、喉を過ぎるときに感じられる香。鑑評会などで利き酒をするときは、酒は呑みこまず、味わったあとは吐き出してしまうので、吟香は味わえない。よって鑑評会での評価の対象になりえないという問題がある。今ではほとんど「吟醸香」と同じものを指す。 返り香(かえりか) 呑んだあとに、腹から鼻に抜けるように感じられる香。これも鑑評会などでは評価の対象から漏れてしまうとして問題視する識者も多い。
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