警笛の種類および構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/14 15:39 UTC 版)
一般に、エアタンクに蓄えた圧縮空気を送り込んで吹鳴する空気笛またはタイフォン(形状としてはラッパに似ており、「ファーン」という余韻を持つ音を発するものが主流)を用いるが、近年は環境(騒音)問題に配慮し、スピーカーから電気的に増幅させる電子音(カナ転写で「パーン」「ジャーン」「ボー」「コー」「リャーン」など、余韻を持たせる音が多い)を採用したり、変わったものとしては音楽を使用するものもある。そのうち、電子音の警笛を「電子警笛(電笛、電気笛、電子警報など)」、音楽を鳴らすものを主に「ミュージックホーン(音楽笛)」などという。 同種の笛を複数(2タイフォン、2スピーカ)同時に吹鳴、または鳴動させる車両もある。113系電車、115系電車に代表される国鉄型近郊・急行・特急電車は、正面に大きな改造を施されていない限り、貫通路の左右横にそれぞれ1本ずつAW-5形タイフォンを持つ。加えて115系など勾配線区仕様車は屋根上または運転室床下にAW-2形ホイッスルを併設していて、AW-5形タイフォンと同時吹鳴する。JR九州が発注した特急車両のスカート部には、左右に1つずつ電子ホーンを装備している(またはスリットが開口している)ことが外見からも窺うことが可能であり、一般的な単数の電子ホーン鳴動と比較し重厚な音を奏でる。 新幹線や名鉄特急、近畿日本鉄道の大半の車両などに代表される、華やかな2和音の空気笛(「ダブルホーン」)は、異なる音階の警笛を同時吹鳴する機構を持つ。また、事業者によっては鳴り分け可能として搭載する場合もある。加えて近鉄のほとんどの車両には、上記ダブルホーンとは別個に、通勤型車両・従来型特急専用車には自動車部品に類似した電気笛(「ビー」音。自動車のメーカー標準クラクション機能に近い)を2個、21000系以降の新造特急専用車などは、音階可変の電子ホーンを持つ。 特殊な空気笛の例として、一部の地下鉄車両および路面電車などには、電気的なスピーカーに頼ることなく、まろやかな、あるいは若干かすれ気味の音色を吹鳴させるトロンボーン笛を搭載するものもある(東京メトロ10000系電車、東京メトロ1000系電車、札幌市電の項も参照、豊橋鉄道ではモ3200形なども装備、過去には静岡鉄道清水市内線65形など)。こちらの形状は、楽器としての笛により近い。 D51 498の2014年頃の汽笛の音 多くはこの音色で鳴らされている この音声や映像がうまく視聴できない場合は、Help:音声・動画の再生をご覧ください。 C61 20の2012年ごろの汽笛の音 笛の前後で聞こえる音色が異なる場合もある この音声や映像がうまく視聴できない場合は、Help:音声・動画の再生をご覧ください。 蒸気機関車では、蒸気を送り込み、激しい走行音の中、構造上前方の視界が取りづらく、かつ制動まで時間を要する条件下でもより遠方まで確実に聞こえるよう、2-5和音の「ポー」や「ブォー」などという音を発する笛が使われている。他の鉄道車両よりも太く大きな重低音を発する。3和音(3室)はイギリス及び一部の日本の機関車で、5和音(5室)のものは日本の昭和初期以降製造の機関車で採用された。3和音の場合、基本的に単調で鳴らし始めの段階から甲高く、強く鳴らすと音が割れて上手く吹鳴できないことがほとんどだった。この問題点を改善したのが5和音である。3和音の笛を装備していた機関車は、一部が5和音の笛に取り替えられるなどの改良が行われた。5和音の笛は、気筒を回したり吹出バルブを回すなど隙間や蒸気量を調節することによって、吹鳴音階をある程度変えることが可能である。イベント列車用の動態保存として復活した機関車が多くなった現代では、それぞれに個性を持たせる目的で調律を行い、特徴的な音階を奏でる機関車もいる。 現在、JR各社やJR貨物系列の貨物鉄道会社などが保有するほとんどの電気機関車及びディーゼル機関車、およびJR貨物M250系電車ではAW-2形ホイッスルを搭載し、空気を用いて二和音の「ポー」や「ピー」という音を発する。AW-2形は2本の気筒と吹出ノズルの隙間を調節したり、吹鳴気圧を調整することによって、吹鳴音階をある程度変えることが可能である(気圧が高いほど甲高くなり、気圧が低いと音階も低くなる)。数は少ないが、機関車にタイフォンを装備、ホイッスルとタイフォンを併設する例もある(EF64、EF81、ED75、EH500、および寒地向け派生系列であるED78、ED79など。これは、AW-2形ホイッスルもAW-5形タイフォンも発音部の空気吹出ノズルの隙間が1mm未満の精密構造であり、雪や水が侵入して凍結すると吹鳴不可能となってしまうので、温水ジャケットまたは電熱線入ジャケットを用いれば凍結防止が可能なAW-5形タイフォンを併設したものである。通常ホイッスルは剥き出しだが、降雪の多い地域では上記と同じ理由で雪除けカバーを取り付ける。しかし、カバーを取り付けると空気の逃げ場が大幅に減るため、安全性を考慮し吹鳴気圧を高めに設定する。また、住宅地近隣に開設された横浜羽沢駅に配属されたDE11形2000番台、製造初年が2010年のJR貨物HD300形には、入換作業時に警笛扱いが必須となるため、予め運用場所の周辺住民に配慮し、新製時からホイッスルと電気笛を併載している)。 事業者によっては、上り方と下り方の運転台の向きで意図的に空気笛の種類、音階を変えている路線、車両もある(例:京王電鉄京王線所属車。新宿方エンドが低音、八王子・高尾山口方エンドが高音であるが、環境対策として電子音を優先的に使用する傾向がある。また。同社の中古・改造車両を購入・運用する事業者、大井川鉄道ED90形電気機関車、過去には東武鉄道の空気笛など)。京阪電気鉄道京阪本線で運用される車両では、一貫して高音と低音、2種類の空気笛が搭載される(これはイギリス国鉄の警笛と全く同じものである)。また、電子警笛では、横浜市営地下鉄や、京阪京津線などのように、その土地のイメージに合う音(船の汽笛、寺院の鐘など)をイメージした、独特のものを採用している路線もある。 南北緯度が大きく、多雪地帯も有する日本においては、国鉄時代に寒冷地へ投入された鉄道車両にはホイッスル、暖地で使用される車両にはタイフォン、広域に運用を持たせる車両(485系電車・165系電車など)には、双方を併設しているものもある。一般的にホイッスルは着雪に強く(ただし、降雪時に音が遠方まで届きやすいのはタイフォンとされる)、タイフォンはひとたび吹鳴部の中心が氷結すると機能を果たさないとされる。これを回避するため、車体およびスカートにタイフォンを装備した車両は、吹鳴時のみ開く蓋の装備を行ったり、警笛本体基部に温水を流す機構を持たせる、ホーン真正面に円形の鉄板を配する(南海電気鉄道の車両など)、空気笛本体や蓋の周囲に電熱線を用いた保温回路や保温器を設けるなど、蓋を含めて警笛の故障とならないよう配意がなされている車両もある。
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