診断と評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/28 14:16 UTC 版)
一般の臨床医学で疾病の根本的な回復を目的に、疾病原因を究明する作業を診断と呼ぶ。これに対してリハビリテーションでは、心・身機能、日常生活の活動性、社会生活への参加を把握する作業を評価と呼ぶ。評価はこれらの障害の要因を分析し、解決手段を検討し、有効性を確認する作業をいう。代表的評価種目を以下に述べる。 問診は障害の予防・改善・解決が目的なので、本人の職業・趣味を含む日常の生活の活動と社会生活への参加の実態、家族・縁者の協力体制、経済状態、家屋と地域の環境も把握することが望まれる。関節可動域測定が骨・関節疾患では重要である。解剖学的基本肢位(ほぼ直立姿勢)を0度として、そこからの可動範囲を測定して記載する。身体前・後の運動が屈曲・伸展、内・外の運動が内転・外転、垂直軸周りの運動を内旋・外旋と呼称する。 徒手筋力測定は筋と神経系の疾患で重要な評価対象である。身体各部位の重量に打ち勝つ筋力を基準にして、5~0までの6段階に評価する。肩を例にとると、肘を伸展位で抵抗をかけない状態でのみ上肢を垂直まで屈曲(挙上)できれば3、中等度の抵抗をかけても屈曲できれば4、正常を5、重力の影響がない水平方向への運動なら可能な筋力を2、筋の収縮のみ認める状態を1、それもない状態を0と評価する。 脳卒中による痙性片麻痺の運動機能評価は共同運動という現象を基準に、その出現と消腿の度合いを評価する。発病の当初は随意性を喪失していることが多いが、やがて肩・肘・手指全体を生理学的な屈曲あるいは伸展方向に同時にのみ動かせる共同運動だけができるようになり、続いて各関節を単独で動かせ、さらに回復が進めば、複数の関節を屈曲・伸展逆方向に同時に動かすことができる複合運動が可能になる。評価は運動機能が以上のどの段階にあるかを把握して、解決方法を検討する作業である。 脳性麻痺は出生前後に運動神経の中枢が損傷を受けて生じる運動発達の遅れが障害の主体なので、その程度を正確に把握することが重要である。運動発達の程度は座位をとる機能を基本に、歩行に至るまでを年齢別に粗大運動能力を5段階に評価する方法が、現在は広く採用されている。しかし粗大運動能力の把握だけでは、脳性麻痺をその他の原因疾患と鑑別することはできず、発達神経学的な診断が不可欠である。 知的機能は言語理解、語の流暢性、空間、知覚、数、記憶、推理で構成されるというサーストンの多因子説が有名である。知能検査法にはビネー法、WAIS法、WISC法などがある。記憶検査法としてヴェクスラー検査法、三宅式検査法、ベントン視覚記銘検査法などがある。 性格検査の方法として日常の行動観察による評定法、質問への回答特性から評価する質問紙法(YG性格検査、不安検査、CMIなど)、作業過程を評価する作業検査法(内田クレペリン精神検査、ベンダー・ゲシュタルト・テストなど)、その他に投影法(ロールシャッハ・テスト、主題統覚法など)がある。 言語には言語概念の障害である失語症と言語発達遅滞、構音器官の運動麻痺による麻痺性構音障害、聴覚障害による聴覚性言語障害、口蓋裂による言語障害、吃音などがある。失語症は障害中枢の部位と程度によって全失語(言語理解と表出機能の喪失)、ブローカ失語(自己の意思を言語に表出する機能の障害)、ウェルニッケ失語(音声・文字言語を理解する機能の障害)、伝導失語(言葉を復唱する機能の障害)、健忘失語(名詞の表出が不良)その他がある。 運動麻痺がないにもかかわらず、目的にかなった行為ができない状態を失行と呼ぶ。動作を企画する中枢の障害が原因である。特定の指を立てたり目的のある協調運動ができない肢節運動失行、投げキスなどの慣習的動作や道具を使わないで整髪・歯磨きなどの動作ができない観念運動失行、歯磨きをブラシにつけて歯を磨くなどの道具の使用ができない観念失行、立方体の模写や積み木の組み立てができない構成失行、身体と衣服の部位を認識して着衣をすることが不可能な着衣失行などがある。 感覚・知覚障害がないにもかかわらず、対象を認識できない状態を失認と呼ぶ。視野欠損の有・無にかかわらず、一側の視空間が認識できない状態を半側視空間失認と呼び、脳卒中左片麻痺では出現頻度が高い。その他に、人の顔を判別できない相貌失認、見慣れたはずの建物・風景を認識できない地誌的失認などがある。 毎日の生活に必要で基本的な一連の身体的動作群を日常生活活動(ADL)という。この評価は食事、排泄、整容、更衣、入浴、起居・移動動作に項目を分けて、それぞれの自立可否を基準にして評価する。広く用いられる指標にバーセル指数、FIMがある。高齢者の自立度を把握するために、外出、家事、金銭処理、書類作成、読書、訪問、対人関係維持などの可否を評価する老研式活動能力指標もある。 QOLの指標として医療行為の効果判定基準に広く健康関連QOLが使用されている。代表的な指標としてNHP、SIP、SF36、EuroQOLなどがある。一方で、安寧感、満足感、幸福感などの言葉で表現される主観的QOLは、患者が治療を選択する基準として最も重要だと指摘されているが、これを評価する標準化された指標はまだ確立していない。
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