現代の新たな動向
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 15:57 UTC 版)
20世紀に入ると、アメリカでオカルティズムとメタフィジカル(超物質)思想によって、経験や感覚から超越した神秘的な技術へ進化させようとする動向が出てきた。その代表的存在が、神智学徒で「アーケイン・スクール(不朽の知恵・秘教占星学)」の創設者のアリス・ベイリーである。ベイリーはジュワル・クールという高次の存在と交信して教えを受けたと主張し、神智学の7つの周期による歴史観と占星術を融合させ、近い将来「魚座」の時代から「水瓶座(アクエリアス)」の新時代(アクエリアン・エイジ)への大規模なパラダイムシフトが起こると語り、ニューエイジ思想の源のひとつとなった。ベイリーの『ヒューマニスティック占星術』と弟子のディーン・ルディア(英語版)の『サビアン・シンボル』は、こうした秘教化の動向の基本となっている。ルディアはベイリーから学んだ神智学と秘教占星学にユング心理学を導入して「トランスパーソナル占星術」を作り、1936年の代表的著書『パーソナリティーの占星術』では、占星術は深層心理学の術語によって再定義する必要があると述べた。またニーチェの超人思想に心酔していたルディアは、新たな文明の中心となる「シード・グループ(種となる集団)」を作らなければならないと主張した。こうした思想は、ホゼ・アグエイアス等の時代の霊的な転換を唱えたニューエイジのオカルティストに影響を与えている。アラン・レオに始まる神智学の世界観を基礎にした占星術は、ベイリーとルディアの秘教占星術に受け継がれ、「占星術の心理学化」という流れも生んだ。レオの系譜の占星術のオカルト色、神智学色から脱しようとさまざまな団体も生まれ、20世紀前半には西洋占星術は多様化していくことになった。 こうして復活した、あるいは改革された占星術と、伝統的な占星術との違いは、その意識的な混合主義にあることが指摘されている。 実践者の間でも、占星術の方向性については多様な意見がある。「科学的学問」にしたいと望む占星術師は、オカルト要素の強いレオらの占星術を、占星術を呪術やオカルトにとどめていると批判している。彼らのなかには19世紀科学の言語を取り入れたり、統計学の言い回しを使って、自分たちの分野と魔術の分野の違いを強調し、「精神科学」「占星術の科学的基礎」あるいは「星座と人間行動とが関係していることの科学的証拠」などについて書いた者もいた。彼らは反対に、その考えに賛同しない占星術師たちから、占星術を疑似科学にしていると批判されており、思想の異なる占星術師同士で批判し合っている。 自分たちの思想が、薔薇十字団、フリーメイソンあるいはエジプトの神秘主義とつながっていると主張する占星術師もおり、彼らの多くは、たとえばヒンドゥー教や仏教などの東洋の宗致から知恵を拝借している。 占星術を科学という場合、星についての研究が自然科学であるいう主張と、惑星から放出される不可視の神秘的な力に言及し、マクロコスモスとミクロコスモスの照応の概念をシンクロニシティ(ユング)の結果とし、さまざまな偶然の一致を研究するようなオカルト科学的な主張がある。 西洋占星術は疑似科学とも見なされるようになり、1940年にはアメリカ社会心理学会が、未来予知のツールとしての占星術の有効性を否定する公式声明を発表した。また、1975年には前アメリカ天文学会会長バート・ボックらが文責を負い、ノーベル賞受賞学者18名を含む計186人の科学者らが連署した占星術批判の声明が出されている(『ヒューマニスト』誌1975年9月号)。ただし、これには、占星術に懐疑的な論者からも、権威主義との批判が寄せられた。 科学者らの声明の一方で、国際的に知られたジーン・ディクソンや、ロナルド・レーガン大統領(当時)の夫人ナンシーに重用され、大統領の日程へも関与したジョーン・キグリー(英語版)のように、社会的に影響力を持った占星術師は存在した。 1970年代に入ると、ヒューマンポテンシャル運動や人間性心理学、神智学や心霊主義といった超物理(メタフィジカル)が混ざり合ってニューエイジ運動が生まれ、その影響を受けて、占星術やタロットといったオカルトの実践は、「自己成長」や「自己探求」、「自己変容」のツールとも見なされるようになり(心理占星術(英語版))、出来事を予知したり運勢を判断する占星術の側面は薄まってきている。現代の占星術師には、顧客に将来起きる出来事を予言して行動のアドバイスをするタイプと、顧客の自己探求を導く疑似セラピストタイプがあり、占星術師たちは皆この2つのタイプの間に存在している。 こうした状況を踏まえて、1990年代あたりから、占星術がかつて持っていたとされる機能を復活させようという動きが出てきた。イギリスのオリビア・バークレイは、1996年9月にエクセターで開かれたアストロロジカル・アソシエーションの「カーター・メモリアル・レクチャー」において「伝統的占星術の必要性」と題した講演を行い、伝統的占星術への回帰を宣言している。 伝統的占星術への回帰はホラリー占星術(英語版)への再評価へとつながり、ホラリーの技法が多数記されている中世や古代の占星術文献の掘り起こしへと至った[要出典]。中世文献の掘り起こしプロジェクトの代表的なものに、Project Hindsightがある。Project Hindsightでは非英語で記述された占星術の古典が、おもにボランティアの手で英語に翻訳された[要出典]。古典的な占星術を復活させたものは、古典派や伝統派と呼ばれているが、2007年の時点ですでに古典的な技法の上に独自の解釈を組み込もうとする方向性も見えており、古典派とひとくくりにできない状況となっている[要出典]。 予測不可能で複雑な現代産業社会において、占星術は、生の意味を見失った一般市民に出来事が制御可能であると感じさせ、予測可能で意味のある体系、大きな物語の中に己が存在するという感覚を与え、生活に宇宙的な意義を感じさせるという側面がある。特にアメリカでは、新聞、雑誌の占星術コーナーをはじめ、メディアで多く取り上げられ、「学術理論」としての有効性を失った代わりに、人気のあるサブカルチャーのひとつとなっている。世論調査では、占星術の人気は衰えるどころか増しているが、一般には、個人のパーソナリティに関する十二星座と、占い目的での占星術の使用という、西洋占星術のごくわずかな面だけが知られている。ホロスコープを作るのにコンピューターが利用され、これが人気に拍車をかけている。コンピュータを使ってホロスコープを作成する理由は、時間節約だけではなく、自分の予言にハイテクの威光を与えるためでもあると指摘されている。
※この「現代の新たな動向」の解説は、「西洋占星術」の解説の一部です。
「現代の新たな動向」を含む「西洋占星術」の記事については、「西洋占星術」の概要を参照ください。
- 現代の新たな動向のページへのリンク