気候と風土
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 05:10 UTC 版)
赤道直下を含む長い山脈であるため、北部と南部では気候は大きく違う。また、標高によっても気候は大きく異なり、それに伴って土地利用も大きく異なる。 中央アンデスにおいては、海岸側の標高500mから2300mにかけての地域はユンガと呼ばれ、海岸側の寒流の影響を受けて基本的には乾燥した地域であり、アンデス山脈の主脈から流れる短い河川に沿って点々と居住地域が連なる。標高が低いためこの地域は海岸部と同じく熱帯作物の生産が主な産業となる。また、アンデス主脈と海岸との間が狭いため、この地域はかなり急峻な地形であり平地は少ない。2300mから3500mにかけてはケチュアと呼ばれる地域となり、ここでは夏季にまとまった降雨があり、また河谷も広く山もややなだらかになる上に涼しく過ごしやすい気候であるため、居住者が多い。農業としてはトウモロコシが主に栽培される。3500mから4000mにかけてはスニと呼ばれ、気候は冷涼で、農業としてはジャガイモが主なものとなるが、この地域も農業は盛んである。4000mから4800mにかけてはプーナと呼ばれ、寒く乾燥しているために農業は困難であり、リャマやアルパカなどの放牧が主産業となる。アルティプラーノ南部はほぼこの標高に位置する。4800m以上になるとハンカと呼ばれ、農業・牧畜が不可能な非居住地帯となり、氷河などがしばしば広がる。アマゾン側に関しては、高峰からケチュア帯まではほぼ同じであるものの、ユンガ帯はアマゾンからの熱く湿った空気が流れ込んでくるために密林地帯となっており、ボリビアのユンガス地方など一部を除いては農業は盛んではなく、人口もまばらである。このアンデス東麓では標高1000m以下は完全な熱帯雨林気候となり、アマゾンの一部となっている。 一方、北アンデスにおいては赤道に近くより温暖な気候であるため、この区分はやや異なってくる。標高1000m位までの地域は熱帯雨林であり、1000mから2000mまでの間は温暖な気候となる。2000m以上3000mまでの地域はやや冷涼な気候となり、コロンビアの首都ボゴタのあるクンディナマルカ高原やエクアドルの首都キトのあるキト盆地など、過ごしやすい気候のため多くの人々の住む地域となっている。この高度帯までは農業も盛んである。3000m以上4700mあたりまでの高度の地域はパラモと呼ばれ、中央アンデスのプーナに対応する寒冷な地域であるが、プーナとは異なりこの地域は湿潤な気候である。しかしプーナとは違い、パラモは農業や牧畜にそれほど使用されてはおらず、未開発の地域となっているところが多いが、逆にそのために豊かな自然が残り、生物多様性も豊富である。パラモ、プーナ、ジャルカを含む高地草原群系に位置する高地アンデス生態系には、氷河、湖沼、湿性草地、蘚類湿地、高地湿原、塩田、泥炭湿原など、生態学的、社会的、文化的に高い価値を有する湿地系が含まれており、アンデスフラミンゴが生息している。 標高により気温が変わることは、アンデス地方の住民の言葉にも現れている。旅行者などがしばしば「君が生まれたところは標高どれくらいか?」という質問を受けることがあるが、これは「暖かいところで生まれたのか、寒いところで生まれたのか」を尋ねている。 ペルー・ボリビアやチリに広がる高地、アルティプラーノは、寒冷で乾燥した気候である。より寒冷な南部は作物の栽培にも牧畜にも適さないが、アルティプラノ北部はより赤道に近いためやや気温が高く、トウモロコシやジャガイモなどを中心に盛んに農耕がおこなわれ、また灌漑をおこなうことによりより大規模な生産をおこなうことができるため、ティワナク文化やインカ帝国など古代文明を生み出す母体となった。また、標高が高く空気が希薄であるため紫外線が強い。 アンデス山脈は世界の8つの植物栽培化の起源地域の一つであり、多くの食用植物の原産地としても知られる。とくに中央アンデスが原産地として知られる。アンデス原産の食用植物中最も重要なものはジャガイモであり、紀元前5000年ごろにはチチカカ湖周辺で栽培が始まったと考えられている。アンデスのジャガイモは長い栽培化と利用の歴史によって多様な品種が育成され、形・色・味などのバラエティも豊富である。アルティプラーノでは寒冷で乾燥した気候を生かし、ジャガイモを屋外で軽く踏んだ後に凍結乾燥させたチューニョと呼ばれる食材が有名である。また、このほかにも世界各地で野菜や調味料として使用されるトマトや、ナッツや油脂原料として使用されるラッカセイなど世界的に重要な作物がアンデスにおいて栽培化されている。アンデスにおける栽培化植物は多岐にわたり、カボチャやインゲンマメ、ライマメ、トウガラシなどはアンデスが原産である。インカ帝国時代には主穀として重要視されたキヌアもアンデス原産植物であり、スペイン植民地時代にはコムギなどにとってかわられて栽培が減少し他地域にも伝播しなかったものの、20世紀末以降雑穀が世界的に見直される中でキヌアの栽培も復活傾向にある。食用植物ではないが、タバコもアンデスのボリビア・アルゼンチン国境地域が原産地域であり、ここから世界に広まっていった。トウモロコシは中米原産であり、アンデスに元からあった作物ではないが、インカ帝国時代にはすでにアンデスに伝播しており、主要作物の一つに数えられていた。しかしこの時代の主食はジャガイモであり、トウモロコシはむしろ儀式に用いるチチャと呼ばれる酒の原料として重要視されていた。アンデス各地には、インカ時代に建設されたトウモロコシ栽培用の階段耕地が各地に残っており、現在でも使用されている。 アンデス山脈は、細いが非常に高度が高い上に長く伸びているので、近隣の気候にも重大な影響を及ぼしている。アンデスの北部においては、熱帯収束帯に位置するため一年中多雨であり、熱帯雨林が広がっている(en:Tropical Andes)。中部のエクアドルやペルー、チリ北部では、西麓は太平洋を寒流であるフンボルト海流が流れるために降雨がほとんどなく、砂漠気候の地域が延々と広がっている(en:Dry Andes)。アンデス山脈内には降雨があるため、そこから流れ下る川の流域のみがオアシスとなっている(en:Puna grassland、en:Central Andean wet puna、en:Central Andean puna、en:Central Andean dry puna)。中部の東麓はサバナ気候となってリャノが広がる。チリ中部やアルゼンチン中部となる南緯30度くらいより南のホーン岬(南緯56度)までになると、西麓には偏西風が山脈にぶつかり降雨があるため地中海性気候や西岸海洋性気候となり(en:Wet Andes)、一方東麓(パタゴニア)では乾燥気候が広がるようになる。 アンデス山脈はインカ帝国の基盤であり、その時代はインディオ人口の多くはアンデス山脈地域に居住していた。スペインによる植民地化後もこの構図は変わらず、疫病や暴政によって人口は激減したものの、白人のかなりが海岸部に定着したこともあって、アンデスにおいては先住民であるインディオの割合がかなり高い。とくに中央アンデスにおいてこの傾向は顕著であり、ペルーやボリビアにおいては先住民族であるケチュア人やアイマラ人といった諸民族が大きな勢力をいまだ保っており、ケチュア語やアイマラ語といった彼らの言語もまた広く使用されている。しかし、言語的には各国の公用語であるスペイン語がきわめて深く浸透しており、これらの先住諸言語は押され気味である。また、白人と先住民の混血であるメスティソの割合も高くなっている。しかし先住民族の文化はある程度保たれており、現代でも民族衣装や音楽などは独自のものが残されている。音楽においては、ケーナ・サンポーニャ・ロンダドールなどの先住民系の管楽器とギターやチャランゴなどのスペイン系の弦楽器を組み合わせた、いわゆる「アンデスのフォルクローレ」が1950年代に完成し、世界で広く親しまれるようになった。
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