旧陸軍との関係性
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早期の海軍復活を目指す旧海軍軍人主導で創設され旧海軍の伝統を重んじる傾向にある海上自衛隊とは違い、陸上自衛隊は旧陸軍が旧海軍に比べ戦争責任が大きいと見られたことにより、陸上自衛隊は旧陸軍との関係に神経を使っていたが、実際には強い結びつきを持っていた。 陸上自衛隊の前身である警察予備隊は、当初は旧軍人を排除して旧内務官僚が中心となって固められていた。一方で、旧軍幹部はさまざまな団体や機関を結成し、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)のG2(参謀第2部)と連携して軍再建に向けて動いており、一部旧軍人の追放解除と警察予備隊への入隊へと結実していた。1951年(昭和26年)には陸士40期以上の中佐組を先頭に大量の元佐官と元尉官が入隊したほか、1952年(昭和27年)7月には指揮・作戦・管理能力を評価され、高級幹部要員として特別に推薦された11名の元大佐(旧海軍と航空関係を除けば9人)が入隊するに至った。これにより警察予備隊の幹部構成に重大な変化が生じたほか、元大佐組を筆頭として、大量の旧陸軍将校が入隊したことにより旧陸軍の『歩兵操典』『作戦要務令』『統帥参考』などに代表される用兵思想が流入することになった。警察予備隊に入隊した旧陸軍将校は有末機関や服部機関などの旧高級軍人の組織と密接な関係を持ち、旧陸軍将校団の結束も依然として固かった。 旧陸軍の将官クラスも陸上自衛隊に関係しており、陸上自衛隊幹部学校の指揮幕僚課程(CGS)における戦史授業として、旧陸軍皇道派のシンボル的存在であった荒木貞夫元陸軍大将が「日露戦争の思い出」と題する講義を行っていたほか、陸上自衛隊幹部学校の機関紙である『幹部学校記事』1962年1月号に「昭和三十七年壬寅の年を迎えて」という記事を寄稿している。また、今村均元陸軍大将、下村定元陸軍大将、安田武雄元陸軍中将、菅晴次元陸軍中将、沼田多稼蔵元陸軍中将が防衛庁顧問に就任している。 旧陸軍の親睦組織である偕行社は陸上自衛隊の行事を積極的に支援したほか、陸上自衛隊側も旧陸軍の将官クラスを駐屯地祭に招待したり、戦史研究として講演を依頼していた。2001年(平成13年)には偕行社への陸上自衛隊・航空自衛隊の元幹部自衛官の正会員資格が認められ、正式入会が進んでいる。なお、偕行社に相当する旧海軍の水交社が、戦後の再建時に水交会と改称したまま現在に至るのに対し、偕行社は旧陸軍時代の名称を復活させている。 陸上自衛隊のイラク派遣の際には、支那事変(日中戦争)時に旧陸軍が主に中国大陸で行なっていた宣撫工作が参考にされている。 文化の面においても、陸上自衛隊の連隊旗である自衛隊旗は旧陸軍の連隊旗である軍旗の意匠たる十六条旭日旗をモチーフに、八条旭日旗に変更制定(八条旭日旗の意匠自体は十六条旭日旗と同時代の頃から存在している、軍旗#自衛隊旗の意匠)、事実上の陸上自衛隊のシンボルとし、行進曲のひとつとして旧陸軍の行進曲「観兵式分列行進曲」を採用。行進曲「扶桑歌」としていたが、近年では「陸軍分列行進曲」と呼称発表している。また、太平洋戦争(大東亜戦争)のパレンバン空挺作戦で活躍した旧陸軍第1挺進団の活躍を謳う軍歌「空の神兵」は、第1空挺団がオリジナルの歌詞と共に受け継いでいるほか、富士総合火力演習や各地での演奏会行事にて音楽隊により旧陸軍の軍歌・軍楽が盛んに演奏されている。なお、陸上自衛隊の第1空挺団および中央音楽隊は、戦後予備隊に入隊した旧陸軍将校(衣笠駿雄元陸軍少佐・須摩洋朔元陸軍軍楽大尉)を筆頭とする旧陸軍軍人によって創設発展されたものである。 また、各職種の色(隊種標識色)は旧陸軍の兵科色に準じているほか、駐屯地(衛戍地)が同都道府県である旧陸軍の部隊(歩兵連隊等)と、陸上自衛隊の部隊(普通科連隊等)同士の連隊番号(隊号)も極力一致させている。例として、静岡の第34普通科連隊は旧陸軍の歩兵第34連隊の隊号および、歩兵第34連隊第1大隊の軍神橘周太陸軍歩兵中佐に因む「橘連隊」の名を継承するとともに、橘中佐の胸像や銅像を板妻駐屯地内に再建している。ほか、大阪の第37普通科連隊は旧陸軍の歩兵第37連隊の隊号および、同連隊が事実上の部隊マークとして使用していた楠木正成の「菊水紋」と「菊水連隊(菊水部隊)」の名を継承し、北海道の第11戦車隊は、占守島の戦いにおいて活躍し北海道を護った旧陸軍の戦車第11連隊(愛称「士魂部隊」、部隊マーク「士」)を顕彰し、栄光の「士魂精神」の伝統を継承する意味で1970年(昭和45年)より「士魂戦車大隊」と自ら称し、公式の部隊マークとして装備の90式戦車に「士魂」の二文字を描いている。
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