日本と欧米などでの報道受信の違い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 01:24 UTC 版)
「偏向報道」の記事における「日本と欧米などでの報道受信の違い」の解説
日本と欧米などでは「表現責任の帰属」に対する考え方が大きく違う。すなわち欧米などでは「表現者個人」であるが、日本では「マスコミ」であり、いわゆる「表現考査」は表現者個人ではなくマスコミによって行われている(詳細は表現の自主規制を参照)。 このため、欧米などでは古くから情報の受け手、すなわち視聴者や読者それぞれが、複数のマスコミ報道を比較・検討して「真実性の判断をする」ことが普通で、今日ほぼ定着しているのに対し、日本ではメディアの多様化とは裏腹に、未だ視聴者や読者の多くが、例えばマスコミ1社の、自分にとって良し悪しのいずれについても「都合のよい報道」をそのまま「真実と受け止めてしまう」ことが多く、例えば特定の食品が健康によいと報じられると、途端に店頭での売り切れが続出する、ところがその後、その食品の効果がさほどでもなかった、あるいは最悪は全くなかったことが別途報道されると、今度は一転して全く売れなくなる、そしてその食品が健康によいと発言した発言者ではなく、その発言を報じた報道機関に対して一斉に批難が集中、直接責任を問うといったことが繰り返し起こっている。これは大手マスコミ主導で世論が動くことの裏返し、すなわちごく一部の大手マスコミの主観論に流され、民主主義の形成・成長・維持に絶対不可欠な「少数意見の尊重」を阻害しかねず、最悪は大手マスコミによる直接的な情報操作や不正などを大衆が見抜くことができなくなり、誤った道に嵌る危険性をも孕んでいる。このことから日本ではメディア・リテラシー教育の必要性が声高に叫ばれてもいる。 そしてまたこのことから日本では唯一、放送法などによる直接的な縛りを受ける電波報道について、それを根拠として「偏向報道」として問題視されることが多くある。これは概ね日本独特のものであり、欧米などではよほどのこと、すなわち武力を用いた内乱を視聴者に呼びかける、あるいは明らかに誤まった内容の報道で、被報道者の人権などを著しく侵害したといったことがない限り、放送局がその直接責任を問われることはない。 電波報道の法規制、特に概ね各国共通である訂正放送の義務は、逆に電波報道の自由を保証するためのものでもある。しかし日本においては今日においてもその規制の意図が大衆に理解されていないきらいがあり、ゆえに「偏向報道」が度々問題になるともいえる。報道にあたって最善を尽くしたとしても、報道には不正確さ、偏向性は付きものである。しかし一方で大衆への影響力の非常に大きな電波報道であるから、視聴者などから誤りであるとの指摘を受け、事実そうであれば訂正すること、すなわち「過ちて改むるに憚ることなかれ」でなければならない、取り返しのつかない事態を招いてはならない、端的にいえば「失敗しました。申し訳ありません。」の範囲に収めることというのがこの法条文の意図するところである。 ところが日本では、例えばNHK制作「あさイチ」2011年10月17日「日本列島・食卓まるごと調査」コーナーでの誤った内容の放送と2011年12月15日の「再検証番組」の放送(これが訂正放送である)、誤った放送内容のNHKのWebSite公開削除についてインターネット掲示板などで大衆から「偏向報道」「隠ぺい工作」「世論誘導」などの指摘が多く、日本語版Wikipediaにも「不祥事」として記載がある。しかしこれは全て遵法措置、国から認可を受けているNHKの放送基準(自主基準)にも従った措置であり、事実、国からNHKに対する処分もなければ、NHKによる番組打ち切りなどの判断もない。NHKのWebsiteには放送基準が準用されているため、誤った放送内容をNHKのWebSite上に放置することはそれこそ御法度である。 過去、大東亜戦争遂行のために国家がNHKを利用して国民を戦争に「誘導」した反省より、国家予算が投入されているNHKといえども「正しいものではない」ことを明確にし、民主主義の維持発展を図ろうとしているのが戦後一貫した日本の電波法、電波関連法の考え方である。戦後、少なからず放送への公権力介入の動きがあったが、基本であるこの部分については揺らぎなく、近年まで公権力介入の動きはなかった。 しかしながら、2008年(平成20年)以降、放送番組は主に視聴者意見(クレーム)に従って制作、運用されるようになった、すなわち「自律」ではなく「他律」を求めるようになってしまったことから、なし崩し的に報道への公権力介入がされるようになっている。そもそも放送は、放送事業者が貴重な資源である電波を全国民から負託されて実施しているものであり、自律できない放送は、当然、公権力の介入を許すものとなる。ただし憲法規程があることから、もとより具体的にその介入は「社会的利益を衡量しての一視聴者の立場としての公権力による圧力」までに制限される。しかしこの圧力は大きく、根本の表現の自由、報道の自由にも直接の影響を与えるものとなっており、実際、2011年(平成23年)3月11日の東北地方太平洋沖地震による地震動と津波の影響により、東京電力の福島第一原子力発電所で発生した炉心溶融(メルトダウン)など一連の放射性物質の放出をともなった原子力事故において、警察庁は報道機関が政府関係機関以外からの情報を報道するならば摘発する姿勢を示し、「原発問題で、官房長官、原子力安全・保安院、原子力委員会、東電等、関係機関が発表する内容以外の情報を流した者は「デマ・憶測」として摘発することもあり得る。」と各放送事業者に圧力をかけ、各放送局はそれに従い、政府関係機関以外からの情報報道を控えている。
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