日本と欧米の業界構造の違い
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 01:00 UTC 版)
「システムインテグレーター」の記事における「日本と欧米の業界構造の違い」の解説
商慣習の違いが大きく、どちらか一方のみが優れていると言うことは難しいが、日本と米国および欧州のIT業界の構造は全く違っている。 システムインテグレーターの隆盛は日本特有の現象である。この状況に至った原因としては、製品の細部の完成度に拘る日本人気質や、元々IT文化が存在しなかった日本企業の経営者がIBMのアウトソーシング事業に注目し、建築業界の下請け構造を参考にIT業界を作ったことが挙げられる。日本は終身雇用という制度が主流のため、属人的なノウハウを持つ有識者が退職しない事を前提として会社別の作り込みが成立している。海外で行われていない人月を基本単位とした工数計算も行い、プロジェクトの進捗を厳格に管理する。始業時刻も一般的なサラリーマンに準じて、厳格に定められている事が多い。そして、上流のITベンダーやシステムインテグレーターがプロジェクト管理や設計のみを行い、下請けの末端を担うソフトウェアハウスがプログラミングを行うという分業体制が普通になっている。この業界構造だとユーザー企業のITについての負担を減らすことが出来、情報システムの大幅なカスタマイズも可能になるが、担当者間のコミュニケーションロスが大きく、プロジェクトの炎上も起きやすくなる。また、新規開発部分については資料化し、後任者に引き継がれなければならない。 日本とは逆に、ITを生み出した米国や欧州では、ユーザー企業がエンジニアを抱えて自社のシステム開発を行う事が普通である。日本ではエンジニアの7割以上がIT企業に所属するのに対し、米国ではその割合は約3割、欧州でも5割未満となっている。欧米のユーザー企業が自社のシステムを開発する場合は、ユーザー企業自らが既成のソフトウェアパッケージに最小限のカスタマイズを加えてシステムを内製する傾向が強い。この方法は、情報システム部門がエンジニアを抱えて、社内でシステム開発から運用までを行なう、インハウス開発に該当する。コダックのような一括請負のフル・アウトソーシングは特例的なもので、システム等管理運営受託が多い。この傾向の背景として、米国の雇用の流動性が高く、システム開発における属人性を排除する必要があることに注意する必要がある。また、ユーザー企業の負担は増え、情報システムの大幅なカスタマイズを行うことも難しくなる。新規開発部分が少ないため、後任者への引き継ぎは殆ど必要ないとされる。 米国とは対称的に、日本のユーザー企業はクライアントとしてシステム開発を外注・丸投げする傾向が強い。特に政府調達においては丸投げは顕著で、一部のシステムインテグレーターがITゼネコン化する弊害が出ている。また民間でも、情報システム部門の弱体化による企画力や発注能力の低下が問題になっている。2009年4月1日から強制適用される工事進行基準 や政府調達制度の改革により、過度の丸投げを抑制しようという動きが進んでいる。建設業界をモデルとしてIT業界の構造が作られた経緯があるため、システムインテグレーター各社による巨大な下請構造が作られるに至っている。人月計算も行われた米国とは異なり、1社毎にオーダーメイドで独自色の強い業務システムが組まれることが普通であるが、過去に開発されたシステムに関しては設計資料が失われていることが多く、前例踏襲で既存のシステムを限界まで活かし続けると共に、場当たり的な改修が重ねられて新システムへの移行が更に難しくなり、システム刷新時にはプロジェクトが炎上する確率が高くなっているという、古色蒼然とした業界である。日本のシステムインテグレーターの体質を現す事例としては、みずほ銀行の4千億円超を投じた基幹システム統合プロジェクトが好例である。
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