定型対非定型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 11:13 UTC 版)
以前の定型抗精神病薬と、新世代の非定型抗精神病薬が差別化されるが、大規模試験は統合失調症に対しての有効性や副作用である錐体外路症状の発現率に大きな違いがないことを示している。非定型の抗精神病薬は、大脳辺縁系に集中して作用するために錐体外路症状が少ないとされていたが、そのような特性は観察されていない。うつ病に対しては、抗うつ薬と同じで、見出された偽薬に対する有効性の統計的な差は臨床的に無意味な差である。 非定型(第二世代の)抗精神病薬は、定型薬よりも副作用が少なく(特に錐体外路症状)精神病性の症状を回復させるさらなる効果を売りにして販売されており、その効果を示す結果はたびたび頑健性の欠如を示し、そしてその前提には次第に疑問が投げられてきており、それにもかかわらず非定型薬の処方は急上昇してきた。あるレビューはそれらには違いがないと結論し、一方では、非定型のものの「若干大きい有効性」を見出している。しかし、これらの結論を別のレビューが、クロザピン、アミスルピリド、オランザピンとリスペンドンでは、どれがより有効かを明らかにするために問いかけた。クロザピンはほかの非定型抗精神病薬よりも有効に見えたが、致死的な副作用の可能性が原因で以前には禁止されていた。非定型薬の対照臨床試験は、錐体外路症状を患者の5-15%に生じさせることを報告しているが、実社会の臨床現場における双極性障害の研究では63%の割合で見られ、研究の般化に疑問がもたれる。 2005年にアメリカ政府機関のアメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)は、大規模な独立した(製薬会社が出資していない)複数地点の二重盲検試験(CATIE計画)の結果を公表した。同研究は、1,943人の統合失調症の人々で、数種類の非定型抗精神病薬を、古い定型の抗精神病薬のペルフェナジンと比較した。同研究は、中止率(人々が効果を原因として服用をやめた比率)ではオランザピンだけがペルフェナジンより優れていることを見出した。著者は、精神病理と入院率の減少の面で、他の薬に対するオランザピンの有効性が明白に優れていると述べたが、オランザピンは大幅な体重増加の問題(18か月で平均20キログラム)や血糖、コレステロールまたトリグリセドの増加などの比較的重篤な代謝作用に関係していた。使用されたオランザピンの平均と最大投与量は標準的な手法よりもかなり高かったので、このことが、投与量が臨床的に関連のある手法にもっと一致していたほかの調査された非定型抗精神病薬以上の、オランザピンの優れた有効性を説明する偏りの要因として仮定されていた。他の非定型薬の研究(リスパダールとクエチアピン、ジプラシドン(英語版))では、尺度を用いて定型のペルフェナジンよりも良好ではなかったし、さらに定型抗精神病薬のペルフェナジンよりも引き起こされた副作用が少ないわけでもなかったが(結果はランセットに発表されたDr.Leuchtによるメタ分析に支持される)、非定型薬剤に比較して多くの患者が錐体外路作用のせいでペルフェナジンを中止した(8% vs. 2% to 4%, P=0.002)。 このCATIE研究のフェーズIIでおおむねそのような研究結果が再現された。このフェーズは、最初のフェーズで薬の服薬を中止した患者の2回目の無作為化である。再びオランザピンだけが結果の評価において目立つ薬だったが、結果は検出力の減少もあり常に統計的有意性に達しなかった(信頼できる発見ではないことを意味する)。非定型薬の投与量が増えたため錐体外路作用には違いがなく、どちらの種類の抗精神病薬でも高用量が錐体外路症状の比率を挙げる要因となっていることが示唆された。次のフェーズでは、ほかの神経弛緩薬よりも投薬における脱落の減少に効果があるクロザピンを臨床医が試すことが認められた。しかし、クロザピンは無顆粒球症を含む中毒性副作用を生じる可能性があり有用性が限定される。 非定型の抗精神病薬への患者のアドヒアランスが高くなるように期待されたが、2008年のレビューは、新規の抗精神病薬の使用が、改善された投薬コンプライアンスおよび良好な臨床的な成果を導くという考えを、データによって立証することができなかったことを明らかにした。 全体的にCATIEと他の研究の評価は、定型薬よりも非定型薬を第一選択とする処方への疑問、さらには2種類の区別への疑問に多くの研究者を導いた。対照的に、ほかの研究者は定型薬の遅発性ジスキネジアと錐体外路症状の著しく高い危険性を指摘し、この理由のためだけに非定型薬による治療を第一選択に推奨しているにもかかわらず、後者には代謝性副作用の重大な傾向がある。NICEは最近、非定型薬を優遇するその推奨を改訂し、患者による選択の上で、個々の薬についての特有の特徴に基づいて、個別に選択すべきであることを勧告している。 こうして2009年には、NIMH所長のトーマス・インセルは、以下のような表を示し、「抗精神病薬に関して、現在4つの大規模研究が第一世代の化合物を上回る第二世代の化合物の優位性が乏しいことを証明している」と述べざるを得なかった。 第二世代抗精神病薬は(オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン)は、第一世代抗精神病薬(ペルフェナジン、ハロペリドール、モリンドン)より有効か?(トーマス・インセル、2009年から引用)研究名治療法設計結果Clinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness (CATIE) オランザピン、ペルフェナジン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン 1,943人の統合失調症の患者に1種類の薬物療法を無作為に割り付けた。 治療条件の間で症状の改善に違いがないことが観察された;副作用と中止率の違いが薬物療法をまたいで観察された;オランザピンは中止の割合が最も低いことを実証したが、体重増加に関連していた。 Department of Veterans Affairs Cooperative Study Group on the Cost-Effectiveness of Olanzapine オランザピンかハロペリドール 309人の統合失調症か統合失調性感情障害の患者に1種類の薬物療法を無作為に割り付けた。 オランザピンとハロペリドールは、コンプライアンス、症状、錐体外路症状、全体的なクオリティ・オブ・ライフにおける有効性が等しかった;オランザピンは体重増加と高額な費用に関連していた。 Cost Utility of the Latest Antipsychotic Drugs in Schizophrenia Study (CUtLASS 1) 第一世代と第二世代の抗精神病薬 統合失調症、統合失調性感情障害、妄想性障害の227人の患者に、第一世代か第二世代の抗精神病薬による薬物療法のどちらかを受けるように無作為に割り付けた。 第一世代と第二世代の抗精神病薬による薬物治療の間に、クオリティ・オブ・ライフ、症状、関連した費用、看護において違いがないことが見出された。 Treatment of Early-Onset Schizophrenia Spectrum Disorders (TEOSS) study オランザピン、リスペリドン、モリンドン 統合失調症、統合失調性感情障害、妄統合失調症様障害の119人の若年者(年齢8〜19歳)に1種類の薬物療法を無作為に割り付けた。 治療条件の間で反応率あるいは症状減少の大きさにおいて違いがないことが観察された;オランザピンとリスペリドンは体重増加に関連していた一方、モリンドンの治療はアカシジアの自己申告の数の多さに関連していた。 脱落率に関して、CATIE計画では18カ月で、投与を受けた1,432人の患者のうち1,061人と患者の74%が脱落し、服薬中止の理由は効果がないか副作用が原因である。8歳から19歳の早期発症統合失調症のTEOSS計画では、116人のうち54人が維持療法に入り、44週間の治療を終えたのは54人のうちの14人と比率では26%であり、残り74%の服薬中止の主な理由は有害事象15人、効果不十分14人、アドヒアランス不履行8人であった。約1年後である52週間後には、当初の116人のうち12人(9%)だけが当初の治療を継続しており、また全員に体重増加を含む副作用があった。 第一世代と第二世代の抗精神病薬による錐体外路作用の発現率には、差がない。 根拠の再評価は、必ずしも非定型薬の処方の偏りを鈍らせていない。 抗精神病薬のメタアナリシス(The Lancet, 2013)薬剤PANSS総合スコア (SMD)95%信頼区間クロザピン -0.88 -1.03 to -0.73 アミスルピリド(未承認) -0.66 -0.78 to -0.53 オランザピン -0.59 -0.65 to -0.53 リスペリドン -0.56 -0.63 to -0.50 パリペリドン -0.50 -0.60 to -0.39 ゾテピン -0.49 ハロペリドール -0.45 クエチアピン -0.44 アリピプラゾール -0.43 セルチンドール(未承認) -0.39 ジプラシドン(未承認) -0.39 クロルプロマジン -0.38 アセナピン -0.38 ルラシドン(未承認) -0.33 イロペリドン(未承認) -0.33
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