前奏曲とフーガ
バッハ:前奏曲とフーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:前奏曲とフーガ イ短調 | Praludium und Fuge a-Moll BWV 894 | 作曲年: before 1714年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
長大で演奏の難易度が高いヴィルトゥオーゾ・フーガのひとつ。作曲の正確な契機は不明だが、バッハが自身で演奏するために書いた可能性が高い。完成はライプツィヒ時代の1730年代とされるが、原曲はすでにヴァイマル時代の1720年前後に成立していたと思われる。前奏曲、フーガともに協奏風の書法を用いている。
前奏曲で特徴的なのは、完全ないし半終止による区切りと、諸要素の反復である。終止定型がほぼ4小節ごとに現れ、楽節を明確に区切る。各楽節は多くの場合、冒頭のアウフタクトを含む動機、三連符の走句と8分音符の和音から成り、2楽節が一対となる。すなわち、2回目には諸要素が上声と下声を入れ替えたり、組み合わせを変えたりして反復される。これが何を意味するかは、後年の編曲《弦合奏とフルート、ヴァイオリン、チェンバロによる三重協奏曲》(BWV1044)第1楽章において明らかになる。冒頭の動機はトゥッティ部分すなわちリトルネッロ、走句と和音はソロ部分であり、終止定型はソロ楽器の切り替え点、反復は各楽器の役割交代のためなのである。さらに、中間部の両手による華麗な分散和音は、チェンバロの即興部分でもある。(ただし、BWV1044はBWV894をそのまま編曲したものではない。この2曲に共通の別の「原曲」が存在した可能性もある。また、編曲がバッハの手によるのかどうか確証は得られていない。しかしそれでも、BWV894にはすでに協奏曲の要素が隠されていたことに違いはない。)
こうした書法はフーガにも一貫している。諸要素の反復や組み合わせの変化、声部の交換などはもちろん、全声部が同時に参加する終止定型も随所に見られ、そのせいでフーガというよりもまるで第2の前奏曲のように聞こえる。用いられる対位法技巧はそれほど難しくはないが、各要素の反行形を駆使し、同時上行・同時下行して低音や高音に達し、あるいは両手が近づいたり離れたりして幅広い音域を活用している。この曲は《三重協奏曲》BWV1044で終楽章に編曲された。その際、三連音符はチェンバロのパートにのみ現れ、フルートとヴァイオリンは三連音符の頭の音からなるゆったりした4分の4の動機を与えられている。ここではチェンバロとそれ以外の楽器の極端な対比が前面に出て、対位法楽曲としての元のフーガの姿はすでにほとんど見出せないし、中間にはまったくフーガでないセクションも新たに加えられた。
バッハ:前奏曲とフーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:前奏曲とフーガ イ短調 | Praludium und Fuge a-Moll BWV 895 | 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
偽作とみる説もあるが、バッハの存命中に作られた信頼性の高い資料に伝えられており、真作の可能性がきわめて高い。音楽内容からは初期作品、すなわちアルンシュタット時代あたりに成立したと考えられる。
プレリュードは対位法的な展開をまったく含まない、パッセージワークのみによる曲。問いかけるような32分音符の上行音型で始まり、華麗な3オクターヴの下行音階で終結に向かう。短いながら演奏効果の高い前奏である。
フーガでは、同音反復の主題と分散和音を用いた16分音符の動機とが対比される。が、三和音の範疇にほとんど収まってしまうため、全体の響きが単調になってしまった。対位法はこの曲でもあまり冴えず、同じ組み合わせが繰り返して登場する。それでも終結部では3オクターヴを優に超える長い下行パッセージが現れ、プレリュードとの関連が明確になる。
バッハ:前奏曲とフーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:前奏曲とフーガ イ短調 | Praludium und Fuge a-Moll BWV 897 |
作品解説
プレリュード、フーガいずれもバッハ作でない。プレリュードはバッハの弟子のヨハン・クリストフ・ドレーツェルのもので、『ディヴェルティメント・アルモニコ』(1736-43)の1曲として出版されている。フーガの作曲者はまだ判っていない。基となった資料はフランクフルトの指揮者で19世紀のバッハ・ルネサンスに貢献したシェルブレとその弟子グライヒアウフによる写本。旧全集には「おそらく真作」という見出しの下に収載された。
確かに、バッハの様式を思わせるところもある。プレリュードのドラマティックな展開は、《半音階的幻想曲》BWV903/1の中間部を彷彿とさせる。両手で担われる走句がたびたび和音上に静止し、また転がり落ちていく。ごく狭い音域にとどまる部分と、一気に鍵盤の幅いっぱいに広がる部分との対比によって、単旋律ながら擬似的にテクスチュアの濃淡が感じられる仕組みになっている。
フーガは主題にテンポの異なる2種類の動機を持ち、掛留の対主題と合わせて魅力的な響きが生み出される。
比較的長い主題提示部の合間に、主題の動機を用いて短いカデンツが連続する間句がおかれる。ここでは、5度関係、平行調関係、単純な摸続進行などを媒介にめまぐるしく調が推移する。もっとも、せいぜいが平行長短調の属調あるいは下属調ていどで、それほど遠隔の調へ跳んでゆくわけではない。やがて、全体の3分の2を過ぎたあたりで反行主題が登場する。16分音符による主題後半の動機が高音域へと追い込まれ、旋律的短音階が連続するが、この緊迫感は長く続かず、すぐに分散和音の走句によって押し流される。第91小節から10小節以上に渡るペダルポイントは、オルガンならば更に効果的に響くと思われるが、ピアノでも充分に演奏可能である。再び反行主題が右手に現れるが、これは左の低音に引きつけられるようにゆるやかに中音域に戻ってくる。終結部分の最後のセクションは両手のユニゾンで主題前半の動機を繰り返し、単純な和音で終止する。
フーガにはこのように、さまざまな工夫が凝らされているが、残念ながら100小節を越える長大な規模を完全に満足させているとは言い難い。特に反行主題のあと、下行の走句が現れてからの30小節は、対位法や動機による展開をうちやってしまった。真の作者が誰であるにせよやや惜しい終結部と言わざるを得ないが、前半の堂々たる展開は、充分に演奏する価値がある作品といえよう。
バッハ:前奏曲とフーガ イ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:前奏曲とフーガ イ長調 | Praludium und Fuge A-Dur BWV 896 | 作曲年: about 1707年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
バッハ:前奏曲とフーガ 変ロ長調(バッハの名による)
前奏曲とフーガ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/11 14:24 UTC 版)
前奏曲とフーガ(ぜんそうきょくとフーガ)と題する楽曲は数多く存在する。
- 前奏曲とフーガ ニ長調 BWV 532 - ヨハン・ゼバスティアン・バッハの初期のオルガン曲。
- 前奏曲とフーガ ハ短調 BWV 546 - ヨハン・ゼバスティアン・バッハのオルガン曲。
- 前奏曲とフーガ ホ短調 BWV 548 - ヨハン・ゼバスティアン・バッハのオルガン曲。
- 平均律クラヴィーア曲集 - ヨハン・ゼバスティアン・バッハの楽曲。48の前奏曲とフーガからなる。
- 24の前奏曲とフーガ - ドミートリイ・ショスタコーヴィチのピアノ独奏曲集。
- アランの名による前奏曲とフーガ - モーリス・デュリュフレのオルガン曲。
- スピットファイア 前奏曲とフーガ - ウィリアム・ウォルトンの管弦楽曲。
関連項目
- 前奏曲、フーガと変奏曲 - セザール・フランクのオルガン曲。
- 前奏曲、コラールとフーガ - セザール・フランクのピアノ独奏曲。
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