人権侵害と戦争犯罪
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国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が発表した報告書によれば、ロシア側とウクライナ側の双方の勢力の一部が暴行、略奪、レイプ等の犯罪を行っているとされ、戦場だけでなく住宅街での民間人への暴力行為も報告されている。 OHCHRによれば、2014年5月、ウクライナ保安庁(SBU)の命令で行動していると主張するアゾフ大隊の隊員が、ザポロージャ地方の自宅近くで女性を拉致し4~5時間にわたる脅迫と拷問にかけたとされる。拘束者は彼女の手足を鎖で締め付け、足や銃の柄で殴り、爪に針を刺すことを強要し、「swallow」或いは「strappado」と呼ばれる激しい苦痛を伴う拷問を行い、隊員の1人は彼女を輪姦すると脅したとされる。 OHCHRによれば、2014年5月8日、ガソリンスタンドで住人とアゾフ大隊の隊員が口論になり住人が射殺されたとされる。HRMMU(国連ウクライナ人権監視派遣団)が2014年11月10日に行った質問によれば、ポルタヴァの検事、内務局長、SBU部長が現場に到着した時、彼らはアゾフ大隊から脅迫されたのでその場を離れなければならなかったとされる。車列には200人以上のアゾフのメンバーが含まれており、紛争地帯に向かったとされている。 OHCHRによれば、2014年8月10日、母親を訪ねるために移動中の男性がドンバス大隊とアゾフ大隊を含むウクライナ軍が管理する検問で止められた際に、大隊のメンバーが被害者を怖がらせるために被害者の方向に銃を撃ち、手首と足をロープで縛ったまま被害者を殴り、首にロープをかけ窒息して意識を失うまで野原を引きずり回したとされる。HRMMUが2016年6月29日に行った質問によれば、ウクライナ軍の兵士が大隊のメンバーに彼を解放するように頼んだが、被害者は多数の血腫を負い、視力が悪化したとされる。 OHCHRによれば、2014年8月から9月にかけて、知的障害のある男性が、アゾフ大隊とドンバス大隊の隊員8~10人から残酷な扱いやレイプなどの性暴力を受けた。2016年の2月の質問によれば、その後に被害者の健康状態が悪化し精神科病院に入院したとされている。 OHCHRによれば、2014年9月にマリウポリで4人の被拘束者がSBUの職員とアゾフ大隊の隊員から虐待を受け、拷問によって傷を負ったが医療処置は拒否された。彼らは、しばらくの間隔離拘束され、拷問によって引き出された証拠が裁判で使用されていると訴え、また法廷で証拠に異議を唱えた後にSBUによって脅迫、威嚇、虐待の形で報復を受けたと主張した。 OHCHRによれば、2014年9月から2015年2月にかけて、ウクライナ軍とアゾフ連隊による民間人の家屋に対する大量の略奪、および民間人地域を攻撃の標的化した事が記録された。 OHCHRの2014年12月の報告によれば、ウクライナの軍事検察庁は、アイダール、アゾフ、スロボジャンシナ(Slobozhanshchina)、シャフタルスク(Shakhtarsk)など特定の任意大隊の隊員による略奪、任意拘束、虐待など、東部の民間人に対する人権侵害や国際人道法違反の相当数の申し立てについて、何らかの措置を取ったことを報告していない。 OHCHRによれば、2015年1月28日、ドネツク側を支持したとしてマリウポリの住民がアゾフ連隊の軍人3人に拘束され、建物の地下に連れ込まれ2015年2月6日まで継続的に拷問を受けたとされている。金属の棒に手錠をかけられ、ぶら下がったまま放置され、電気、ガスマスク、ウォーターボーディングの拷問を受け、性器も殴られたとされている。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の報告書によれば、この住人はマリウポリで分離主義者として活動しており、拘束された場所はマリウポリのリッチナヤ・オクチャブリャ通り(richnaya Oktyabrya)の建物だったとされる。住人は拷問を受けた後にSBUに引き渡され、テロ組織幇助の罪で起訴され31日間の勾留後に裁判で釈放が命じられたが、実際は釈放されず更に11カ月間隔離された後、2016年2月に「捕虜交換」として釈放されたとされる。釈放された数ヵ月後、拷問を受けた住人が仲間に建物のことを説明すると、何人かは自分も同じ場所で拷問を受けたと述べた事から、HRWの報告書は拷問を受けた建物がソユーズ映画館の近くのスポーツ学校だったと主張している。 OHCHRによれば、2015年8月、ハルキウで野党支持者の一人が集会に向かう途中、「アゾフ」と書かれた軍用車を運転するマスクと制服を着た男たちに拉致され、市営墓地で殴られ、そこに放置されたと報告された。 OHCHRが2015年12月に難民支援NGOの代表に行った質問によれば、ウクライナ軍とアゾフ連隊は国際人道法の義務に反して民間の建物を広範に使用し、民間の資産を略奪し、人口密集地に武器と部隊を埋め込んだとされる。 ラジオ・フリー・ヨーロッパは、2016年10月18日にウクライナ西部で開催されたLGBT映画イベントが50人のアゾフと右派セクターのメンバーに攻撃され2人の男性が軽症を負ったと報道し、LGBT活動家のオレーナ・シェフチェンコは「警察は暴行を防ぐ為に何もしてくれなかった。」と主張した。 OHCHRによれば、2017年5月、マリウポリで女性がアゾフ大隊の陣地に誘い込まれ、目隠しをされどこかに移送され、ライフルで膝を殴られその場で埋めると脅されたため協力を余儀なくされたとされる。彼女は警察に引き渡され、弁護士を付けずに尋問され、武装グループのメンバーだと「自白」させられたとされる。HRMMUが2017年7月19日に行った質問によれば、彼女は裁判所に連行されたが、SBU職員が廊下で彼女の腹を2回殴ったとされる。 ラジオ・フリー・ヨーロッパは、(アゾフ運動を推進するナショナル・コーに所属する極右の準軍事組織)「国民の妻」(National Druzhyna、Національні дружини)が、2018年6月7日に少数民族ロマ人のキャンプを斧とハンマーで破壊し、これはキエフでの極右自警団による2回目の事件だと報じた。公開された動画にはロマ人女性が侮辱される様子や、メンバーが「国に栄光を!敵に死を!」と叫ぶ様子が映っている。この自警団はNGOとして登録されており、アゾフ連隊のアンドリー・ビレツキーが設立した極右政党ナショナル・コープスのローマン・チェルヌィショフはこの組織を「アゾフ運動の一部」と称していた。 OHCHRが2014年から2021年までの報告をまとめた分析によれば、アイダール大隊(aider)、アルテミフスク(Artemivsk)、アゾフ (Azov)、ドニプロ1(Dnipro-1)などの志願部隊だけでなく、ウクライナ保安庁(SBU)、ウクライナ軍の様々な部隊、ウクライナ国家親衛隊、国家警察(英語版)、ウクライナ国家国境庁といったウクライナの幅広い公的機関も紛争中の恣意的な拘束や拷問・虐待に関与しているとされた。また、アイダールやアゾフなどの志願部隊は各公的機関に正式編入される以前にも以後にもそれらの拷問や虐待に関与していたとされ、どの組織にも編入されなかった右派セクターもそれらの行為に関与したとされた。これらの事件は多くの場合、被害者は自分に危害を加えた人物の所属を特定することが出来ず、加害者が複数の組織に所属し一緒に行動していた為に一人の個人が複数の加害者による複数の侵害の犠牲者になっていた事例もあったとされる。 2022年2月27日、アゾフ連隊の兵士とされる人物が豚の脂肪を弾丸に塗りながら、「親愛なるイスラム教徒の兄弟たち、私たちの国では、あなたは天国に行かないだろう。あなたは天国に入ることが許されない。家に帰ってください。」などと述べる動画がウクライナ国家親衛隊のTwitter公式アカウントに投稿された。これは豚肉を食のタブーとするイスラム教徒への差別であり、ウクライナの国家親衛隊がネオナチを賞賛したものだとして批判された。
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