糞
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言語表現における糞
日本語の「くそ」という語は、記紀に見られる古い言葉である[38]。「臭し」「腐る」と同系と考えられているが、語の成立の先後関係は不明とされる[39]。
なお、排泄を意味する古語の動詞は「まる」で、「くそまる[40]」(排便する)「ゆまる[41]」(排尿する)のように用いられた。これは、おまるという語に今も残るほか、長野県、愛知県など、一部の地域の方言として現在でも使われる[42]。子音交替によりバ行に転じた「ばる」になると、さらに多くの地方で方言として残っている[43]。たとえば、肥筑方言の「ばりかぶる=排便する(なお、「かぶる」は広く九州地方で排泄を意味する語。「しかぶる」は小便を漏らす、失禁するの意[44])」など。「ばば」の語源にも関係があるともといわれる。また、男児名に付く「麻呂」、「麿」、「丸」も、もとは「糞」、あるいはおまるに由来するという説がある。これは、名にわざと醜悪なものをつけ、幼児が魔物などに魅入られず力強く成長することを祈ったものであるという[45]。
糞はまた、さまざまな慣用句に用いられる。例えば、現代日本語では、強い憤りやののしり、自分を鼓舞するときに、「くそ」、「くそっ」、「くそう」などと言うことがある。また接頭語・接尾語的に「くそ」を付け、侮蔑や、程度のはなはだしいことを否定的に表現する意図で用いることがある(くそ坊主・くそガキ・くそまじめ・下手くそ、など)[* 4]。同様の例は、欧米諸語にも見られ、Shit!(英語)、Scheiße!(ドイツ語)、Merde!(フランス語)、¡Mierda!(スペイン語)、Merda!(イタリア語)といったののしりや侮蔑の意を持って「糞」に相当する語を用いる慣用表現が存在している。英語のShit!は下品とされるので、Shoot! やSheesh!など、発音が似た語をかわりに用いることがある。スペイン語でも、女性などはmierda(糞)という単語を直接口にするのを嫌い、最初のほうの発音が同じ単語であるmiércoles(水曜日)をその代わりにいうことがある。
糞と名の付く食べ物
- 食材名
本来忌避されるはずの糞の名を含む語が名称となっている食材がある。日本語では、よく獲れる食用ウニ(海胆)の代表的な2属に「馬糞(ばふん、まぐそ)」の名が付いており、海鮮料理や江戸前寿司のネタとして供されることの多い高級・高額の海産物におよそ相応しくない名称として、人々が疑問に思うようなこととなっている。具体的には、「バフンウニ(馬糞海胆)」とその古名である「マグソガゼ(馬糞甲贏)」、そして「エゾバフンウニ(蝦夷馬糞海胆)」がそれであり、これらの名は、「バフンウニ」と「マグソガゼ」は形状が馬糞を連想させるウニ(ガゼはウニの古名)であることから、「エゾバフンウニ」はバフンウニに似た蝦夷(北海道)で多産の近縁属であることから、大昔の庶民によって誰彼となく呼ばれ始めたか、あるいは、江戸時代の本草学者もしくは近代の分類学者によって命名されたものと考えられる。
タイ王国では、トムヤムクンなどに用いられる大小さまざまな葉唐辛子が売られているが、その中でも一番小さく世界有数の辛さを誇る青唐辛子の一品種は、色・形が似ていることから「プリック・キー・ヌー(Prik Kee Noo. 他の日本語音写形:プリッキーヌー、プリッキーヌ。意:ねずみのうんこ)」と呼ばれている。世界でも稀なケースである。
- 商品名
奈良市では、野生のニホンジカで溢れかえる奈良公園を中心とした地域で、「鹿のフン」あるいはそれに類する名称の菓子を土産物として販売している。これは、奈良市出身のお笑いタレント・明石家さんまが、1986年(昭和61年)にテレビのバラエティ番組『笑っていいとも!』や『オレたちひょうきん族』の中で面白おかしく紹介しながらギャグにも取り入れて広めたことがブームにつながった吉永小百合の歌謡曲「奈良の春日野」の歌詞内容に因んで開発・発売された商品である。テレビ発のブームは去って久しく、この菓子とその名の直接的由来が吉永の歌謡曲にある事実を知らない世代も増えたが、鹿の糞を模した形状の菓子というのはそれ自体が面白く、しかも安価で、かつ、本物の鹿の糞がそこここにある地域を擁する如何にも奈良らしい土産物であるため、修学旅行生や若年層を中心に人気があり、すっかり奈良土産として定着している。わざわざ糞に似せた食品を作って販売している例の一つである。
沖縄県では、「イリオモテヤマネコの
鳥取県倉吉市の銘菓「天女のわすれもの」は、商品名に糞のことを婉曲的に採用している一つの例である。これは、同市が「トイレからのまちづくり」を謳って推し進める地域おこしのコンセプトに適う商品として開発されたもので、天女が浮世に忘れていった物とは、すなわち「うんこ」である。ちなみに、ビデオゲームの『妖怪道中記』にも、「天女のフン」と呼ばれる謎のアイテムが登場する。
糞と関連する生物名
- 糞虫
- フンセンチュウ(糞線虫) - 学名 Strongyloides stercoralis。線形動物門双腺綱カンセンチュウ目に分類される寄生虫。
- クソミミズ(糞蚯蚓) - 地表にたくさんの糞塊を積み上げる習性をもつミミズ。
- トリノフンダマシ(擬鳥糞蜘蛛) - コガネグモ科に属するクモ類。鳥の糞に擬態していると思われる種が多いことからその名がある。
- クソバエ(糞蠅) - キンバエの別名(俗称)。
- フンバエ(糞蠅) - フンバエ科の昆虫の総称。
- フンコロガシ(糞転がし)
- ムシクソハムシ(虫糞金花虫) - 学名 Chlamisus spilotus。ハムシ科の昆虫で、イモムシなどの糞にそっくりな形をしている。
- バフンウニ(馬糞海胆) - 形状が馬糞に似たウニ。
- マグソガゼ(馬糞甲贏) - バフンウニの別名(古名)。
- エゾバフンウニ(蝦夷馬糞海胆) - バフンウニの近縁種。
- クソトビ(糞鳶/糞鴟) - ノスリの別名。
- フンタマカビ(糞玉黴) - フンタマカビ綱に分類されるカビ。
- マグソタケ(馬糞茸) - 学名 Panaeolus fimicola。ハラタケ目ヒトヨタケ科のキノコ。馬糞を菌床として発生することが多いため、その名で呼ばれる。
- ヘクソカズラ(屁糞葛/屁糞蔓) - アカネ科のつる性多年草。葉や茎に悪臭がある。
- クソウリ(糞瓜) - キカラスウリの別名。
- クソニンジン(屎人参/糞人参) - キク科の一年草。薬用植物。
- カナクソイモ(金糞薯) - ヤマノイモ科のつる性多年草。ツクネイモの別名。「#糞と関連する地名」節で詳説しているように、「かなくそ」は鉱石の溶錬過程で生じるスラグ(かなくそ)を意味する可能性が高い。従って「カナクソイモ」は、その名の印象に反して生物の糞とは無関係と考えられる。
- ネズミノフン(鼠糞) - モクセイ科の常緑低木。ネズミモチの別名。
- クソクサギ(糞臭木) - スイカズラ科の落葉低木。カンボクの別名。
- クソツキ(糞木) - スイカズラ科の落葉小高木。ムシカリの別名。
- ヨグソミネバリ(夜糞峰榛) - カバノキ科の落葉高木。ミズメの別名。枝を折ると独特の匂い/臭いを発散する。実際は悪臭というより一種独特の芳香である。
糞と関連する地名
地名においては、「糞」の名を含むからといって「(生き物の)糞」に由来しているとは限らない。例えば「かなくそ(金糞)」という構成要素を持つ地名は日本に数多くあるが、これらの名は鉄鉱石や砂金に代表される鉱石を溶錬する際に生じるスラグを指す「かなくそ(金屎、鉄屎)」から来ているという説が有力である。
- 糞置(くそおき) - 古代日本の越前国足羽郡にあった地名。
- 糞尿に由来する地名
- 馬糞に由来する地名
- 牛糞に由来する地名
- 鳥の糞に由来する地名
- 鳥糞島(とりふんじま) - 太平洋の無人島。行政上は岩手県下閉伊郡山田町に属する。
- 鳥糞岩(とりくそいわ) - 太平洋の無人島。行政上は岩手県釜石市両石に属する。
- 鳥糞岩(とりくそいわ) - 日本海の無人島。行政上は福井県丹生郡越前町に属する。
- 鵜ノ糞島(うのくそしま) - 芸予諸島の一部である上島諸島に属する、瀬戸内海(津波島の沖合)の無人島。行政上は愛媛県越智郡上島町に属する。ウ科鳥類(鵜)の糞に由来する地名。
- 鵜の糞島(うのふんしま) - 壱岐島の沖合、対馬海峡にある無人島。行政上は長崎県壱岐郡芦辺町に属する。ウ科鳥類(鵜)の糞に由来する地名。
- 鵜の糞島(うのふんじま) - 行政上は長崎県壱岐市石田町筒城仲触(つつきなかふれ)に属する。
- 鵜糞鼻(うのくそばな) - 大分県佐伯市蒲江大字森崎浦にある岬。
- 鵜糞鼻(うくそばな) - 大分県速見郡日出町大神にある岬。
- 金糞(かなくそ)関連地名
- 金糞岳(かなくそだけ、きんふんだけ) - 伊吹山地に属する山。山域は、滋賀県長浜市上草野地区(旧・東浅井郡上草野村)と岐阜県揖斐郡揖斐川町に跨る。滋賀県第二の高峰。滋賀県での読みは「かなくそだけ」。岐阜県での読みは「きんふんだけ」か。
- 金糞(かなくそ) - 滋賀県高島市鵜川(旧・滋賀郡志賀町鵜川。江戸時代における近江国滋賀郡鵜川村〈幕藩体制下の淀藩知行鵜川村〉)にある地名(小字)。
- 金糞(かなくそ) - 比良山地に属する武奈ヶ岳と堂満岳の間を繋ぐ地域にある一地名。その名を冠する金糞峠(かなくそとうげ)は、行政上、滋賀県大津市の南比良と北比良の境界に所在する(座標:北緯35度14分51秒 東経135度54分23秒)[46]。また、金糞滝(かなくそのたき)は、当地にある「正面谷の滝(しょうめんだにのたき)」を構成する滝の一つである。落差は8メートル。
- 金糞(※読み不詳) - 愛知県一宮市浅井町江森(旧・葉栗郡浅井町江森。江戸時代における尾張国葉栗郡江森村〈幕藩体制下の尾張藩知行江森村〉)にある地名(小字)。
- 金糞平(かなくそたい) - 青森県三沢市に所在する地名。出雲国の製鉄集団が江戸時代になって当地に根を下ろし、地産の砂鉄を材として製鉄所を営んだことに由来する[47]。
- 金糞平(かなくそだいら) - 岩手県上閉伊郡大槌町小鎚に所在する地名[48]。
- 星屑に近い「星の糞」という発想から来る地名
注釈
- ^ 一説に、固いものは「うんこ」、柔らかいものは「うんち」、さらに柔らかいものを「うんにょ」「うんにゃ」などと呼ぶとされる。ほかにも「うんぴ」「うんび」などという語もある。村上八千世「うんぴ・うんにょ・うんち・うんご―うんこのえほん」(ISBN 978-4593593521)。
- ^ ただし、貧血などの治療で鉄剤を服用している場合、吸収されなかった鉄分が酸化されて便に混ざって排出されるため、黒っぽくなることがある。
- ^ 網代壁(あじろかべ)とは、枌板(へぎいた。竹材を加工した薄手の板)を主材とした網代編みの壁。
- ^ 「くそ」「くそっ」『日本国語大辞典』小学館、第2版、200〜2002年。この意味での古い用例としては18世紀後半の文献を挙げている。
- ^ 昭和2年刊行の考古学雑誌で報告されている。
出典
- ^ 「うんち」と「うんこ」の定義に違い? 「確証のない情報」だったと新潟県立自然科学館が謝罪
- ^ “常識だった「鳥のフンが落ちにくいのは尿酸のせい」を覆す新事実が発覚”. ナゾロジー (2019年9月28日). 2023年5月29日閲覧。
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- ^ 「送糞此云倶蘇摩屡」(『日本書紀』)
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- ^ 『日本国語大辞典・電子版』「ばる」の項方言欄参照
- ^ 『日本国語大辞典・電子版』「しかぶる」の項方言欄参照
- ^ 『和句解』・『続無名抄』における説
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- ^ ドバト被害防止パンフレット「エサをあげないで!」の作成について
- ^ フジテレビ
- ^ うんち大全
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