糞 言語表現における糞

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/25 07:55 UTC 版)

言語表現における糞

日本語の「くそ」という語は、記紀に見られる古い言葉である[38]。「臭し」「腐る」と同系と考えられているが、語の成立の先後関係は不明とされる[39]

なお、排泄を意味する古語の動詞は「まる」で、「くそまる[40]」(排便する)「ゆまる[41]」(排尿する)のように用いられた。これは、おまるという語に今も残るほか、長野県愛知県など、一部の地域の方言として現在でも使われる[42]。子音交替によりバ行に転じた「ばる」になると、さらに多くの地方で方言として残っている[43]。たとえば、肥筑方言の「ばりかぶる=排便する(なお、「かぶる」は広く九州地方で排泄を意味する語。「しかぶる」は小便を漏らす、失禁するの意[44])」など。「ばば」の語源にも関係があるともといわれる。また、男児名に付く「麻呂」、「麿」、「丸」も、もとは「糞」、あるいはおまるに由来するという説がある。これは、名にわざと醜悪なものをつけ、幼児が魔物などに魅入られず力強く成長することを祈ったものであるという[45]

糞はまた、さまざまな慣用句に用いられる。例えば、現代日本語では、強い憤りやののしり、自分を鼓舞するときに、「くそ」、「くそっ」、「くそう」などと言うことがある。また接頭語・接尾語的に「くそ」を付け、侮蔑や、程度のはなはだしいことを否定的に表現する意図で用いることがある(くそ坊主・くそガキ・くそまじめ・下手くそ、など)[* 4]。同様の例は、欧米諸語にも見られ、Shit!英語)、Scheiße!(ドイツ語)、Merde!フランス語)、¡Mierda!(スペイン語)、Merda!(イタリア語)といったののしりや侮蔑の意を持って「糞」に相当する語を用いる慣用表現が存在している。英語のShit!は下品とされるので、Shoot! やSheesh!など、発音が似た語をかわりに用いることがある。スペイン語でも、女性などはmierda(糞)という単語を直接口にするのを嫌い、最初のほうの発音が同じ単語であるmiércoles(水曜日)をその代わりにいうことがある。

糞と名の付く食べ物

食材名

本来忌避されるはずの糞の名を含む語が名称となっている食材がある。日本語では、よく獲れる食用ウニ(海胆)の代表的な2に「馬糞(ばふん、まぐそ)」の名が付いており、海鮮料理江戸前寿司ネタとして供されることの多い高級・高額の海産物におよそ相応しくない名称として、人々が疑問に思うようなこととなっている。具体的には、「バフンウニ(馬糞海胆)」とその古名である「マグソガゼ(馬糞甲贏)」、そして「エゾバフンウニ(蝦夷馬糞海胆)」がそれであり、これらの名は、「バフンウニ」と「マグソガゼ」は形状が馬糞を連想させるウニ(ガゼはウニの古名)であることから、「エゾバフンウニ」はバフンウニに似た蝦夷北海道)で多産の近縁属であることから、大昔の庶民によって誰彼となく呼ばれ始めたか、あるいは、江戸時代本草学者もしくは近代の分類学者によって命名されたものと考えられる。

タイ王国では、トムヤムクンなどに用いられる大小さまざまな葉唐辛子が売られているが、その中でも一番小さく世界有数の辛さを誇る青唐辛子の一品種は、色・形が似ていることから「プリック・キー・ヌー(Prik Kee Noo. 他の日本語音写形:プリッキーヌー、プリッキーヌ。意:ねずみのうんこ)」と呼ばれている。世界でも稀なケースである。

商品名

奈良市では、野生のニホンジカで溢れかえる奈良公園を中心とした地域で、「鹿のフン」あるいはそれに類する名称の菓子土産物として販売している。これは、奈良市出身のお笑いタレント明石家さんまが、1986年(昭和61年)にテレビのバラエティ番組笑っていいとも!』や『オレたちひょうきん族』の中で面白おかしく紹介しながらギャグにも取り入れて広めたことがブームにつながった吉永小百合歌謡曲奈良の春日野」の歌詞内容に因んで開発・発売された商品である。テレビ発のブームは去って久しく、この菓子とその名の直接的由来が吉永の歌謡曲にある事実を知らない世代も増えたが、鹿の糞を模した形状の菓子というのはそれ自体が面白く、しかも安価で、かつ、本物の鹿の糞がそこここにある地域を擁する如何にも奈良らしい土産物であるため、修学旅行生や若年層を中心に人気があり、すっかり奈良土産として定着している。わざわざ糞に似せた食品を作って販売している例の一つである。

沖縄県では、「イリオモテヤマネコ運幸ウンコ」「ヤンバルクイナ運幸ウンコ」「シーサー運幸ウンコ」という“運幸ウンコ”シリーズ展開をする一連の菓子(小球形の黒糖入りチョコレート菓子)を、八重山地方発の土産物として販売している。

鳥取県倉吉市の銘菓「天女のわすれもの」は、商品名に糞のことを婉曲的に採用している一つの例である。これは、同市が「トイレからのまちづくり」を謳って推し進める地域おこしコンセプトに適う商品として開発されたもので、天女浮世に忘れていった物とは、すなわち「うんこ」である。ちなみに、ビデオゲームの『妖怪道中記』にも、「天女のフン」と呼ばれる謎のアイテムが登場する。

糞と関連する生物名

オオトリノフンダマシ
トリノフンダマシ属の1種
エゾバフンウニ

糞と関連する地名

地名においては、「糞」の名を含むからといって「(生き物の)糞」に由来しているとは限らない。例えば「かなくそ(金糞)」という構成要素を持つ地名は日本に数多くあるが、これらの名は鉱石や砂金に代表される鉱石を溶錬する際に生じるスラグを指す「かなくそ(金屎、鉄屎)」から来ているという説が有力である。


注釈

  1. ^ 一説に、固いものは「うんこ」、柔らかいものは「うんち」、さらに柔らかいものを「うんにょ」「うんにゃ」などと呼ぶとされる。ほかにも「うんぴ」「うんび」などという語もある。村上八千世「うんぴ・うんにょ・うんち・うんご―うんこのえほん」(ISBN 978-4593593521)。
  2. ^ ただし、貧血などの治療で鉄剤を服用している場合、吸収されなかった鉄分が酸化されて便に混ざって排出されるため、黒っぽくなることがある。
  3. ^ 網代壁(あじろかべ)とは、枌板(へぎいた。材を加工した薄手の板)を主材とした網代編みの壁。
  4. ^ 「くそ」「くそっ」『日本国語大辞典』小学館、第2版、200〜2002年。この意味での古い用例としては18世紀後半の文献を挙げている。
  5. ^ 昭和2年刊行の考古学雑誌で報告されている。

出典

  1. ^ 「うんち」と「うんこ」の定義に違い? 「確証のない情報」だったと新潟県立自然科学館が謝罪
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  51. ^ フジテレビ
  52. ^ うんち大全






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