児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律 見直しに当たっての主な検討課題

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/09 07:46 UTC 版)

見直しに当たっての主な検討課題

法規制の見直しに当たっては[注釈 5]、他人に提供する目的を伴わない児童ポルノの所持(単純所持)の問題、実在しない児童のポルノの問題が検討課題とされた[15]。この他に青少年の性的自己決定権の観点から対象年齢の妥当性についても意見が出されることがあった[16]。また、自民党の党内手続きにおいても保護対象年齢が18歳未満というのは高すぎるとの意見が出されたが、提案者の説明により理解を得られた[17]

児童ポルノの定義の問題

本法の児童ポルノの定義の中に「衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」という一文があり、定義が曖昧かつ客観性がないため「何が児童ポルノなのか、はっきりしない」といった懸念があった[18]

2009年6月26日に行われた衆議院法務委員会の審議の中で、宮沢りえのヘアヌード写真集「Santa Fe」が児童ポルノになるのか取り上げられたが、その中で自由民主党の衆議院議員葉梨康弘は「児童ポルノかもわからないなというような意識のあるものについては、やはり廃棄をしていただくということが当たり前」と発言している[19]。これに対し朝日出版社(「Santa Fe」の発行元)は「Santa Fe」が児童ポルノに当たることに疑問を示している[20]

2014年6月の改正で、上記の児童ポルノの定義を厳密化した[注釈 2]

実在しない児童のポルノの問題

当初、法案段階では実写だけではなく「絵」も児童ポルノの媒体に含まれていたため[21]漫画関係者などが反対し[22]、最終的には「絵」に対する規制は見送られた。

しかしその後2005年に、元法相の森山眞弓や一部の女性議員らを中心に「絵」を主とした実在しない児童に対する規制もなされるべきという議論が起きた[23]。そのため、2008年の自民・公明党案の附則第二条には「漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(児童ポルノに類する漫画等)」と、児童への性的虐待などとの関連性について、政府が調査・研究を進めることとし、これら児童ポルノに類する漫画等の規制は、改正法の施行後3年をめどに、調査結果を勘案しながら検討、必要に応じて措置をとること」[24]という条文が記載されていたが、2009年7月21日の衆議院解散に伴い廃案となった[25]

この問題は長らく曖昧なままであったが、表現の自由を重視する民主党結いの党との協議を経て、自民党公明党日本維新の会漫画アニメコンピューターグラフィックスによる「準児童ポルノ」は「明確に規制の対象外とする」ように改正案を修正する方針に転じた[26]。ただし、2010年代後半の萌え絵批判の勃興により、「萌えキャラ」や「スクール水着の少女」の描写を欧米と同様に児童ポルノとして規制すべきとの声がまた高まっている[27]

単純所持規制

提供目的の児童ポルノの所持の刑事罰は従前から規定されていたものの、児童ポルノの単純所持の刑事罰については2014年6月の法改正で新たに盛り込まれ、2015年7月15日から適用された。児童の保護の観点から、見直し対象として単純(個人)所持の処罰も盛り込むことを求める声があったことから改正に至った[28]。また、この改正の際に、児童ポルノの定義について前述のように厳密化し、適用上の注意の厳密化も合わせて行われた[注釈 3]

2004年改正時には、本法施行前に合法に国内に出回っていた児童ポルノ本が存在することや、児童ポルノの範囲が広範である(年齢が18歳未満である、ヨーロッパの一部の国では合法とされているような芸術的なソフトなヌード、家族や恋人の写真、本人が同意しているセルフヌードが対象となる)こととの兼ね合いで、処罰範囲が広がりすぎること、捜査権が拡大し政治利用される可能性が高いことなどが懸念され[29]、罰則を設けることは見送られていた。

日本雑誌協会日本書籍出版協会は改正法に対して、児童ポルノの定義が曖昧なままの単純所持禁止は児童保護という本来の目的から逸脱するもので、本来失われるべきではない表現や出版物までもが失われてしまう恐れがあるとし、「自由な表現は、表現されたものを所持する自由があってこそはじめて成立する」と抗議した[30][31][32]

国際大学GLOCOM客員研究員の境真良は単独所持規制に条件付きながら賛成している[5]


注釈

  1. ^ ストックホルム会議。日本政府代表は清水澄子参議院議員
  2. ^ a b 児童ポルノを定義する2条3項のうち第3号を「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」に改正する(太字部を追加)。
  3. ^ a b 適用上の注意を規定する3条を「この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利および自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取および性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。」に改正する(太字部を追加・改正)。
  4. ^ 規定が施行されてから罰則が適用されるまで1年の期間が設けられた。
  5. ^ 2004年改正法の附則2条に、施行後3年を目処として検討を行うと定めている。

出典

  1. ^ a b 内閣府 (2006年7月1日). “平成18年版青少年白書 本編第1部第2章第3節 犯罪や虐待による被害の状況”. 2022年3月7日閲覧。
  2. ^ e-Gov法令検索
  3. ^ 日本法令外国語訳データベースシステム; 日本法令外国語訳推進会議 (2015年9月10日). “日本法令外国語訳データベースシステム-児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律”. 法務省. p. 1. 2017年6月17日閲覧。
  4. ^ 内閣府 (2021年6月11日). “令和3年版子供・若者白書 第3章第3節 子供・若者の被害防止・保護”. 2022年3月8日閲覧。
  5. ^ a b 境真良 (2013年6月14日). “もう児童買春・児童ポルノ禁止法は抜本改正すべきではないか”. ハフィントン・ポスト. http://www.huffingtonpost.jp/masayoshi-sakai/post_4966_b_3438955.html 2014年1月13日閲覧。 
  6. ^ “児童ポルノ規制強化法案 漫画は実態調査せず”. 東京新聞. (2014年5月2日). オリジナルの2014年5月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140505062903/http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014050202000131.html 2014年5月8日閲覧。 
  7. ^ “児童セックスワーカーへの導線は野放しにする児童ポルノ法の問題点”. 東京BREAKINGNEWS. (2014年5月19日). オリジナルの2015年12月11日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2015-1211-0958-52/n-knuckles.com/case/society/news001473.html 2014年5月24日閲覧。 
  8. ^ 森山真弓 & 野田聖子 2005, p. 20.
  9. ^ 内訳:児童買春613、児童ポルノ164
  10. ^ 内訳:児童買春1182、児童ポルノ192
  11. ^ 森山真弓 & 野田聖子 2005, pp. 31–33.
  12. ^ 森山眞弓 & 野田聖子 2005, pp. 62–63.
  13. ^ 朝日新聞出版「知恵蔵mini」. “児童買春・児童ポルノ禁止法”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2021年11月23日閲覧。
  14. ^ 高橋暁子 (2010年6月10日). “ゼロから分かる東京都青少年健全育成条例改正問題 第1回 非実在青少年は、なぜ問題なのか?”. ASCII.jp. KADOKAWA ASCII Research Laboratorie. 2021年11月23日閲覧。
  15. ^ 森山眞弓 & 野田聖子 2005, pp. 61–63.
  16. ^ 園田寿 1999, p. 4.
  17. ^ 森山眞弓 & 野田聖子2005, pp. 21–22.
  18. ^ “【イチから分かる】児童ポルノ 「単純所持」めぐり議論”. 産経新聞. (2009年7月8日). オリジナルの2009年7月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090711105925/http://sankei.jp.msn.com/life/education/090708/edc0907080758003-n1.htm 2011年2月9日閲覧。 
  19. ^ “衆議院法務委員会”. 12. 第171回国会. (2009-06-26). https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/000417120090626012.htm 2009年7月11日閲覧. "そして、児童ポルノであるかどうかということについて、児童ポルノかもわからないなというような意識のあるものについてはやはり廃棄をしていただくということが当たり前だと私は思う。" 
  20. ^ “宮沢りえのヘアヌード写真集 17歳で撮影なら児童ポルノ?”. J-CASTニュース. (2009年6月29日). http://www.j-cast.com/2009/06/29044242.html 2011年2月9日閲覧。 
  21. ^ 園田寿 1999, p. 30.
  22. ^ 連絡網AMI”. 2009年2月24日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2009年3月24日閲覧。
  23. ^ “アニメ・漫画・ゲームも「準児童ポルノ」として違法化訴えるキャンペーン MSとヤフーが賛同”. ITmedia NEWS. (2008年3月11日). http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/11/news097.html 2008年3月12日閲覧。 
  24. ^ 『「児童ポルノ禁止法改正法案」衆議院提出、漫画・アニメは3年後めどに検討 』(INTERNET Watch 2008年6月12日)
  25. ^ 『改正児童ポルノ禁止法』(公明新聞 2014年8月20日)
  26. ^ “児童ポルノ法案修正へ 漫画、アニメは規制外”. 47NEWS. 共同通信社. (2014年5月23日). オリジナルの2015年6月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150605160453/http://www.47news.jp/CN/201405/CN2014052301002384.html 2015年6月5日閲覧。 
  27. ^ 環境省「萌えキャラ」動画騒動 なぜニッポンの公的機関のPRは炎上するのか:朝日新聞GLOBE+” (日本語). 朝日新聞GLOBE+. 2021年9月16日閲覧。
  28. ^ 児童ポルノ禁止法の早期改正を求め与野党に第二次署名提出”. 日本ユニセフ協会 (2009年1月14日). 2009年3月25日閲覧。
  29. ^ 第2回児童買春等禁止法改正に関するユニセフ公開セミナー”. 日本ユニセフ協会. 2003年6月20日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2006年6月28日閲覧。 セミナー全体は前者の論調であり、質疑のなかで後者の論点が述べられている。
  30. ^ “「児童ポルノ禁止法」改正案への反対声明” (PDF) (プレスリリース), 日本雑誌協会、日本書籍出版協会, (2014年6月5日), https://www.j-magazine.or.jp/assets/doc/20140605.pdf 2019年1月22日閲覧。 
  31. ^ “「児童ポルノ禁止法改正案」の成立に断固抗議する” (PDF) (プレスリリース), 日本雑誌協会、日本書籍出版協会, (2014年6月18日), http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/jipo_kaisei_kougi_14.06.18.pdf 2019年1月22日閲覧。 
  32. ^ “日本雑誌協会、改正児童ポルノ法成立に「断固抗議」 「表現規制につながる危険性がある」”. ITmedia NEWS. (2014年6月18日). http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1406/18/news116.html 2019年1月22日閲覧。 
  33. ^ “児童ポルノ法改正問題、各政党の回答をネット公開”. ITmedia NEWS. (2008年9月1日). http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0901/08/news113.html 2015年7月9日閲覧。 
  34. ^ 2013選挙情報”. 表現規制反対のためのガイド. 2015年7月9日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2015年7月9日閲覧。
  35. ^ “児童ポルノ禁止法改正案に8党首の賛否くっきり ネット党首討論会”. ハフィントン・ポスト. (2013年6月28日). http://www.huffingtonpost.jp/2013/06/28/niconicotouronkai_n_3520167.html 2015年7月9日閲覧。 
  36. ^ 改正児童ポルノ禁止法 | 公明ニュース(2014/8/20)” (日本語). 公明党. 2021年9月16日閲覧。
  37. ^ 児童ポルノ禁止法改定案成立” (日本語). www.jcp.or.jp. 2021年9月16日閲覧。
  38. ^ 7、女性とジェンダー(2021総選挙/各分野政策)│各分野の政策(2021年)│日本共産党の政策│日本共産党中央委員会
  39. ^ 参議院. “子供の性搾取被害悪化の現状に鑑み、国連勧告に沿った児童買春・児童ポルノ禁止法の第三次改正を求めることに関する請願(2020年)”. 2022年4月3日閲覧。
  40. ^ 参議院. “子供の性搾取被害悪化の現状に鑑み、国連勧告に沿った児童買春・児童ポルノ禁止法の第三次改正を求めることに関する請願(2022年)”. 2022年4月3日閲覧。


「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」の関連用語

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS