カール・グスタフ・ユング
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ユング心理学の特徴
ユング心理学(分析心理学)は個人の意識、無意識の分析をする点ではフロイトの精神分析学と共通しているが、個人的な無意識にとどまらず、個人を超え人類に共通して存在しているとされる集合的無意識(普遍的無意識)を視野に入れた分析も含まれる。ユング心理学による心理療法では能動的想像法が行われる場合もある。能動的想像法は文字通り意識的に無意識のイメージを掘り下げる手法である。現在,能動的想像法は,心理療法家の訓練・研修のための有効性は認められているが、その臨床応用に対しては慎重な立場をとる者が多い[28]。
また、ユング心理学は、他派よりも心理臨床において夢分析を重視している。夢は集合的無意識としての「元型イメージが日常的に表出している現象」[29]でもあり、また個人的無意識の発露でもあるとされる。
夢の分析はフロイトが既に重視していたことであった。しかしユング心理学の夢解釈がフロイトの精神分析と異なる点は、無意識を一方的に杓子定規で解釈するのではなく、クライアントとセラピストが対等な立場で夢について話し合い、その多義的な意味・目的を考えることによって、クライアントの心の中で巻き起こっていることを治癒的に生かそうとする点にある。
ユングはフロイトとの決別以後[注 3]、自らの無意識から湧き出る元型的イメージと真摯に対峙しながらも患者への治療を続けた。これら元型的イメージは統合失調症の患者のイメージにおいても同様なパターンが見られるため、ユングは統合失調症患者であり、オカルティストであるという誤解を受けることもある。しかしその時期においても、ユングが医師として患者への治療を行い、多くの患者を癒やし、現実に導いていたことはユング心理学の理解の上で重要なことである。
ユングは人間の心の成長過程を「個性化の過程」と呼び、健常者、統合失調患者を含めた全ての人間が経験するものとした。従ってセラピー(心理療法)が終了しても、人間の個性化の過程は継続する。ユング派のセラピーでは、セラピー終了後もクライアントをサポートするためにカウンセリングを継続する場合もあり、この場合のセラピーを、「個性化」と呼ぶ場合がある。ただし、これは他の心理療法と同様、クライエントの「生き方」に介入したり指示を与えたりするものではないし、いたずらにセラピーを長引かせるためのものでもない。
また、日本においてユング心理学が隆盛を極めたのは、その心理臨床において箱庭療法を積極的に取り入れ、多くの著書を発表した河合隼雄の影響が大きい。
注釈
- ^ 『夢判断』に触れた当初は特に影響がなかったという説もある[10]。
- ^ ユング著「リビドーの変容と象徴」(1912)にフロイトは難色を示したが、ユングは学問的な視野の拡大化をはかる意味合いを著書に持たせていた。
- ^ 1906年4月から1913年の訣別まで、約360通の書簡が、『フロイト=ユンク往復書簡』(上・下、金森誠也訳、講談社学術文庫、2007年)で訳されている。
- ^ ナチスが国際精神療法学会に干渉して、ナチスへの忠誠を誓うマニフェストが学会誌に掲載されたために、会長のユングは非難された。ユングは反論したが、非難の意見は現在も存在する。
- ^ ただし、これに関してはフロイトに「敵の援助を受けることは出来ない」と拒まれている。
出典
- ^ 山中 2001, p. 12.
- ^ a b c d 篠原道夫「夢分析,能動的想像法,箱庭療法 ― 分析心理学の臨床」『東洋英和女学院大学人文・社会科学論集』第26巻、東洋英和女学院大学、2009年、36頁。
- ^ ヴェーア 1994, p. 13.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q ゲルハルト・ヴェーア(訳)村本詔司 (1994). ユング伝. 創元社
- ^ a b ユング(訳)高橋義孝 (1977) [1916]. 無意識の心理. 人文書院
- ^ 山中 2001, p. 34.
- ^ a b c d e 『ユング自伝』。[要文献特定詳細情報]
- ^ a b c d ゲルハルト・ヴェーア(訳)安田一郎 (1996-09-10). C・G・ユング 記録でたどる人と思想. 青土社
- ^ 山中 2001, p. 35.
- ^ a b ヴェーア 1994, p. 80.
- ^ ゲイ 1997, p. 232〜235.
- ^ 山中 2001, p. 38.
- ^ ヴェーア 1994, p. 107.
- ^ ヴェーア 1994, p. 131.
- ^ ヴェーア 1994, p. 138.
- ^ 篠原道夫「夢分析,能動的想像法,箱庭療法 ― 分析心理学の臨床」『東洋英和女学院大学人文・社会科学論集』第26巻、東洋英和女学院大学、2009年、33--34頁。
- ^ 篠原道夫「夢分析,能動的想像法,箱庭療法 ― 分析心理学の臨床」『東洋英和女学院大学人文・社会科学論集』第26巻、東洋英和女学院大学、2009年、33--34頁。
- ^ ザビーネ・リッヒェベッヒャー 著、田中ひかる 訳『ザビーナ・シュピールラインの悲劇』岩波書店、2009年。[要ページ番号]
- ^ ヴェーア 1994, p. 189.
- ^ 河合 1994, p. 137.
- ^ 河合 1994, pp. 137–139.
- ^ ヴェーア 1994, p. 185.
- ^ 河合 1994, pp. 111–112.
- ^ 河合 1994, pp. 148–150.
- ^ ヴェーア 1994, p. 224.
- ^ 河合 1994, pp. 180–181.
- ^ C.G.ユング 著、河合隼雄監訳 訳『人間と象徴』 上、河出書房新社、1975年。"序文"。
- ^ 篠原道夫「夢分析,能動的想像法,箱庭療法 ― 分析心理学の臨床」『東洋英和女学院大学人文・社会科学論集』第26巻、東洋英和女学院大学、2009年、40頁。
- ^ 湯浅赳男『面白いほどよくわかる現代思想のすべて』日本文芸社〈学校で教えない教科書〉、2003年1月、29頁。ISBN 453725131X。
- ^ エレンベルガー 1980b, p. 308.
- ^ 河合隼雄『ユングの生涯』第三文明社レグルス文庫100、1978年、pp.52-56。
- ^ 平田武靖「ユンク心理学の系譜 -ユンク・ナチス・ユダヤ人-」『is No.1』ポーラ文化研究所、1978年。
- ^ ノル 1998, pp. 201–202, 382–383, 415–417.
- ^ ユング 1972a, p. 127.
- ^ 上山 1989, pp. 483, 488–491.
- ^ 林道義 『ユング思想の真髄』 朝日新聞社、1998年。[要ページ番号]
固有名詞の分類
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