1960年代以降のカーデザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/28 03:18 UTC 版)
「自動車」の記事における「1960年代以降のカーデザイン」の解説
1950年代初頭、アメリカの自動車ブランドの経営陣たちは、戦後の好景気と自動車の大衆化に煽られて、従来のコンサバティブなデザインからの完全な脱却を図ろうとしていた。そこで1950年代中頃から後半にかけて誕生したのが、「フルサイズ」としてカテゴライズされる、異彩を放った高級車群である。これらは、車高が低く、幅広・長大でエッジの効いたボディ、豪勢なテールフィンなど、今までの主流のデザインとは一線を画していた(ただし初期デザインに関しては、フェンダーの峰やボンネットの隆起など、フロントマスクに未だクラシカルな趣が残されていた)。その特徴の多くは国内のより安価な乗用車に対しても適用されていったが、後にそれらからテールフィンが取り除かれ、フロントノーズもフェンダーの峰が無くなり「フラットデッキ」化が図られたことで、隆起・丸みのない完全にモダンな箱型のデザインへと移行していく。アメリカ国内におけるこれらのスタイリングの流行は国外に多大な影響を与え、特に後者の角張った箱型のデザインは1960年代以降の世界的な主流となった。その起因は、製造技術の進化によって角張ったデザインでも十分な強度を確保できるようになったという技術的な理由の他に、好景気によって自動車をステータスシンボルとして扱うようになったことでデザインに対して強さや大きさを求めはじめたという心理的な理由などからであった。これら一連のデザインがいわゆる「アメ車」のイメージを確立させたとも言われ、テールフィン時代のアメリカ車は、ベトナム戦争泥沼化以前のアメリカにおける"娯楽に時間を費やした楽しい時代"の象徴として、またフラットデッキ時代のアメリカ車は、ローライダーなどのカスタムや映画のカーチェイスに使用されるような頑丈・屈強でアウトローな自動車として(マッスルカーなど)、或いは一貫して見られるその重厚感から「アメリカン・ドリーム」を具現化するものとしてイメージされている。 1960年代後半からはマイナーなコーチビルダーの消滅が顕著に見られはじめた。それは、この時期あたりからモノコック構造がスポーツカーや高級車にも普及しはじめ、ボディの架装という概念が無くなりつつあったためである。或いは、同じく1960年代後半から3次元CADが自動車製造業界に参入したことで、自動車設計のデジタル化も徐々に見られるようになっている。 ウェッジシェイプを纏った1970年代のスーパーカー、ランボルギーニ・カウンタックLP400とフェラーリ・512BBi。 1970年代になると、ジウジアーロやガンディーニによる「ウェッジシェイプ」デザインが注目を浴びる。空気抵抗の低減を目的とした「フラッシュサーフェス」化の確立とも言える近未来的でシャープなスタイリングは、スポーツカー業界を席巻した。その特徴は、ノーズ全体がくさび形(三角形)をした平滑な前傾型ノーズや、ウエストラインが後方にかけて持ち上がっていく、その前傾姿勢の形状にある。ダウンフォースを生み出し高速性能を向上させるほか、重心が後ろ側に加わった戦闘態勢のようなスタイリングにより、スピード感や躍動感が演出される効果があった。また前照灯をボディ内に格納するリトラクタブル・ヘッドライトは、フラッシュサーフェスを成し遂げ、かつノーズの傾斜を強めるのに最適な構造であったため、ウェッジシェイプデザインと見事に融合し、その双方の流行を加速させた。日本ではこのスタイリングが1970年代の少年らに大人気となり、「スーパーカーブーム」を引き起こした。因みに「スーパーカー」という名称もこの時点で誕生したため、この時代以前の高性能車に対して「スーパーカー」と呼ぶことはほとんどない。 1980年代以降は、1970年代の2度のオイルショックによるガソリン価格高騰や排ガス規制によって空力の重要性が量産車にも意識されはじめたことに加え、プレス成型技術も進化したことから、空気抵抗を意識しながらも室内を広く設計できる、「丸」と「角」を組み合わせたデザインへと自動車業界全体が徐々にシフトしていく。そのため、角張った箱型のデザインは姿を消しはじめ、ウェッジシェイプも以前のような明確なエッジを用いなくなり、滑らかなものとなった。また鉄・メッキ製であった前後バンパーは樹脂製となり、ボディ全体の一体感がより増すことになる。1990年代後半には、ATの普及や電子制御化によるイージードライブが自動車のブラックボックス化を加速させたために、デザインに「プロダクト・セマンティクス(製品意味論)」を注視しはじめ、ヘッドライトに有機的な意匠(人間の目や猛禽類の目をモチーフにしたデザイン)を取り入れていく。また自動車部品の標準化やプラットフォームの共通化も1990年代から加速の一途を辿っている。 2000年代には、大衆車や量産車においてもウェッジシェイプ化が加速したほか、従来の「丸」や「角」といった業界全体のトレンドがなくなり、デザインの多様化が進んだ。ただし安全規則が増えたことでフロント部分ないしボディ全体が膨らみ・厚みを持つようになり、以前のように自由なデザイン性を見出すことは難しくなった[101]。加えて、コンピュータによって空力性能の解析が著しく発展したことにより、デザインの幅が却って狭まることに繋がった。その他に、異型ヘッドライトの高度化によって縦に引き伸ばされたような前照灯の巨大化とそのLED化によって照明類のデザインの自由度が増したことで、各メーカーは前照灯や尾灯でその自動車の個性を見出しはじめ、かつてのボディの造形に注力する姿勢は相対的に少なくならざるを得なかった。 2010年代に入ると、今までの単なる直線的なプレスラインを使用しなくとも、ボディに奥行きを持つ立体的かつ複雑なシェイプを持たせることが可能になり、それによってシンプルな造形でありつつもボディ各部に波打つような局部的な陰影が発生するようになった。或いは、1990年代からクラシック、ローテクノロジーを注視する兆しが各分野で見られはじめており、パイクカーの発売を筆頭に、2010年代になると高級車やスポーツカーにおいても、かつての伝統的なクラシックカーのイメージを彷彿させるデザイン性が潮流となっている。2020年代以降は、自動運転の実用化により、インテリアデザインの造形がより注目されるようになる可能性や、完全自動運転によって自動車事故が全く起こり得なければ、カーデザインに対して自由度が格段に上昇するという可能性もあり、自動車の存在意義が左右される新たなデザイン時代に突入しようとしている。 @media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .mod-gallery{width:100%!important}}.mw-parser-output .mod-gallery{display:table}.mw-parser-output .mod-gallery-default{background:transparent;margin-top:.3em}.mw-parser-output .mod-gallery-center{margin-left:auto;margin-right:auto}.mw-parser-output .mod-gallery-left{float:left;margin-right:1em}.mw-parser-output .mod-gallery-right{float:right}.mw-parser-output .mod-gallery-none{float:none}.mw-parser-output .mod-gallery-collapsible{width:100%}.mw-parser-output .mod-gallery .title,.mw-parser-output .mod-gallery .main,.mw-parser-output .mod-gallery .footer{display:table-row}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div{display:table-cell;text-align:center;font-weight:bold}.mw-parser-output .mod-gallery .main>div{display:table-cell}.mw-parser-output .mod-gallery .gallery{line-height:1.35em}.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div{display:table-cell;text-align:right;font-size:80%;line-height:1em}.mw-parser-output .mod-gallery .title>div *,.mw-parser-output .mod-gallery .footer>div *{overflow:visible}.mw-parser-output .mod-gallery .gallerybox img{background:none!important}.mw-parser-output .mod-gallery .bordered-images .thumb img{outline:solid #eaecf0 1px;border:none}.mw-parser-output .mod-gallery .whitebg .thumb{background:#fff!important} 1973年のクリーブランドの様子。走行するほぼ全ての自動車が箱型デザインであることがわかる。 2006年のデンマークにおける、カー・オブ・ザ・イヤーの選考対象車。大部分がウェッジシェイプを占め、またフロント部分ないしボディ全体が膨らみ・厚みを持つようになっている。 コンセプトカーのマツダ・RX-VISION(2016年)。ボディ各部に波打つような陰影が見られる。
※この「1960年代以降のカーデザイン」の解説は、「自動車」の解説の一部です。
「1960年代以降のカーデザイン」を含む「自動車」の記事については、「自動車」の概要を参照ください。
- 1960年代以降のカーデザインのページへのリンク