転生する男女
★1.男が女と死別するが、女はまもなくこの世に再誕して、恋しい男と結ばれる。
『あま物語』(御伽草子) 左近中将兼光は難波の海女と契るが、やがて兼光は帰京し、海女は悲嘆して投身する。後、彼女は右大臣の娘として再誕し、兼光と結婚する。
『お貞のはなし』(小泉八雲『怪談』) 新潟の医師の息子・長尾長生(ちょうせい)は、お貞と婚約していたが、お貞は肺病になり、長尾に「もう1度会えます」と予告して死ぬ。その時、長尾は19歳、お貞は15歳だった。後に一時期、長尾は妻帯するが、死別する。お貞の死から17年後、長尾は旅に出て伊香保の宿に泊まる。そこで彼の給仕をする若い女が、転生したお貞であった。2人は結婚し、幸福に暮らした。
*同じ小泉八雲の『伊藤則資のはなし』では、男が転生し、女は霊のままで男との再会を待つ→〔転生する男女〕3。
*この世に生き続けた夫と、転生した妻との年齢差が大きすぎる場合、幸福な結婚生活を送ることは困難である→〔老翁〕1dの『子不語』巻13-336。
*『深い河(ディープ・リバー)』(遠藤周作)では、妻が「転生するから探して」と言い、夫はインドへ旅する→〔旅〕6h。
*妻が死後、若い女に憑依して、再び夫と結ばれる→〔憑依〕1の『椿説弓張月』続篇巻之4第40回。
『貴船の本地』(御伽草子) 鬼国の姫は、恋人定平中将を鬼国から日本へ逃がし、彼の身代わりに父大王の餌食となる。姫は中将の叔母の娘となって再誕し、成長後、中将と結婚する。
『太平広記』巻388所引『会昌解頤録』 劉立は妻を亡くし、10年余を経たある日、郊外へ花見に出かけ趙氏の荘園を訪れる。趙氏の15~16歳の娘が、劉立を一目見て卒倒し「自分は前世で劉立の妻だった」と言う。劉立は娘の婿となる。
『鶴の草子』(御伽草子)板本系 宰相右衛門督の妻は、「かつて命を救われた鶴である」と夫に明かして飛び去るが、後、三条内大臣の娘玉鶴姫として再誕し、宰相右衛門督と結婚する。
*『浜松中納言物語』の河陽県の后も、転生して再び中納言と結ばれるかもしれない(*→〔声〕1a)。しかしその前に、中納言はこの世を去る可能性が高いであろう。
*男が千年以上も生き続け、死んだ女の生まれ変わりを捜す→〔人柱〕7の『イアラ』(楳図かずお)。
*女が2千年以上も生き続け、死んだ男の生まれ変わりを捜す→〔長寿〕2bの『洞窟の女王』(ハガード)。
『宝物集』(七巻本)巻5 愛し合う男女が、「生まれ変わっても夫婦でいよう」と約束した。しかし、女は人間に生まれたが、男は蛇に生まれてしまった。女が池のほとりを通った時、蛇は女にまきついて犯した。
*→〔転生先〕5の『転生』(志賀直哉)も、夫婦の転生の悲劇。
★2b.相思相愛の男女が結婚できなかった。その孫の世代の二人も、互いを慕いつつ結婚できなかった。
『趣味の遺伝』(夏目漱石) 江戸時代の終わり頃。河上才三と隣家の小野田家の娘は相思相愛でありながら、結婚できなかった(*→〔横恋慕〕1b)。数十年後の、明治37年(1904)某日。2人の孫の世代にあたる河上浩一と、小野田家の令嬢とが、本郷の郵便局へ来合わせた。2人は互いのことを知らず、言葉を交わすこともなかった。ただ1度の出会いだったが、浩一は令嬢を忘れられず、彼女の面影を抱いて日露戦争で戦死した。令嬢は何者かに導かれたかのごとく、浩一の墓に参り、彼の好きだった白菊を手向けた。
★3.男は死後、転生してこの世に再誕するが、女は死後、転生せず霊界にとどまる。
『伊藤則資のはなし』(小泉八雲『天の河物語』) 平重衡の娘が石山寺で美貌の男を見かけ、恋わずらいして死ぬ。そのため娘は、転生することも成仏することもできず、霊のまま長い年月を過ごす。美貌の男は何度か転生し、伊藤則資という武士になった。娘の霊は伊藤則資と出会い、一夜の契りを交わして、10年後の再会を約束する。10年後、病み衰えた伊藤則資を、死の世界へ迎える駕籠が来る。
*同じ小泉八雲の『お貞のはなし』では、男は現世に生き続け、女が転生して男と再会する→〔転生する男女〕1。
『剪燈新話』巻4「緑衣人伝」 宋の大臣・賈似道に仕える男女が恋仲になる。これを知った賈似道は、2人を処刑する。男は死後、元の時代に転生して「趙源」という者になった。女は転生せず、あの世にとどまっていた。女の霊は緑の衣を着て趙源の前に現れ、2人は夫婦になる。しかし3年たって女の精気は尽き、臥して動かなくなった。趙源は泣く泣く女を棺に納めるが、埋葬の時に見ると、遺体は消えていた。
『池北偶談』(清・王士偵)「張巡の妾」 清の康煕年間。会稽の徐藹(じょあい)という25歳の書生が、腹に塊ができる病気にかかった。白衣の女が枕元に立ち、彼に告げた。「貴方の前世は張巡で(*→〔飢え〕3b)、私は貴方の愛妾だった。9百年前、貴方に殺された私は、恨みを報いるべく13代にわたって貴方をねらったが、貴方は偉い人にばかり生まれ変わったため、機会を得なかった。今の貴方は一介の書生に過ぎないので、ようやく多年の恨みを晴らすことができる」。徐藹はまもなく死んだ。
『桜姫東文章』 僧自久と稚児白菊丸は、男色の関係を清算するために心中する。白菊丸は「どうぞ女子(おなご)に生まれてきて、夫婦になりとうございます」と言う。自久は、磯の松に衣がひっかかって死にきれず、生きのびて高僧清玄となる。白菊丸は吉田家の息女桜姫に生まれ変わり、17年後に清玄と再会する。その時、桜姫は釣鐘権助を夫としていたので(*→〔夫殺し〕4)、清玄を拒絶する。清玄と桜姫が争ううち、清玄は刃物がささって死んでしまう。
『杜子春伝』(唐代伝奇) 杜子春は悪鬼・夜叉・猛獣に苦しめられ、首をはねられて地獄へ落ちる。地獄では、火の穴・釜の湯・針の山など、ありとあらゆる責め苦を受ける。責め苦が終了した後、閻魔が杜子春を女に変えてこの世に転生させる。杜子春は成長して、ある人の妻となり男児を産んだ。
『今昔物語集』巻11-2 和泉国大鳥郡に住む人に、1人の姫君がいた。その家の下童・真福田丸(まふくたまろ)が仏道修行を志したので、姫君は、旅の袴を片方縫って送り出してやる。その後、姫君は病死し、同じ和泉国大鳥郡に男児として再誕する。男児は成長後、出家して薬師寺の僧・行基となる。一方、真福田丸は元興寺の僧・智光となり、盛名が高かった。智光は法会の場で行基に会うが、それが姫君の転生した姿とは気づかなかった〔*→〔誘惑〕5bの『古本説話集』下-60に類話〕。
『慕情』(キング) 新聞記者マークは、朝鮮戦争の現地取材に派遣されることになる。彼は恋人の女医スーインと、病院裏手の丘で、別れの前の一時を過ごす。空を飛ぶ鳥を見てスーインは言う。「来世は鳥に生まれ変わりましょう」。マークは言う。「輪廻の法則では、来世は僕が女で、君は男だ」。スーインは言う。「来世も女のままで、あなたに寄り添って生きるわ」〔*マークは前線で、爆撃を受けて死ぬ〕。
*男が死んで、ただちに女児に転生する→〔転生〕5の『聊斎志異』巻12-483「李檀斯」。
『発心集』巻4-5 肥後の国の僧が、中年を過ぎて妻帯した。妻は心をこめて僧の世話をしたが、僧は病気になった時、なぜか妻を遠ざけ、妻に臨終を知らせることなく、西を向いて往生した。しばらくして妻は僧の死を知り、怒って叫んだ。「私は狗留孫仏(くるそんぶつ)の昔から、こいつの悟りを妨げるために、何度も妻となり夫となって生まれ変わり、まとわりついてきたのに、今回は取り逃がしてしまった。悔しいことだ」。
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