種類・様態
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/15 15:27 UTC 版)
日本には、「(一般)旅券」、「公用旅券」、「外交旅券」及び「緊急旅券」の4種類のパスポートがある。ただし旅券法上は、「一般旅券」と「公用旅券」となっており、「外交旅券」は公用旅券、「緊急旅券」は一般旅券に含まれる。 旅券の寸法は、国際民間航空機関の勧告を受け、平成4年(1992年)にB7サイズ(ISO規格に準じており、JIS規格には準じていない)に改められた。 表面に記載されている「日本国旅券」の文字は、篆書体で印刷されている。 いずれの旅券にも、皇室の紋章でもあり、日本の在外公館において国章に代わり慣例的に使用されている十六八重表菊(じゅうろくやえおもてきく)と同類の菊花紋章の一つである十六一重表菊(じゅうろくひとえおもてきく)が表紙中央に印刷されている。 また、身分事項ページの顔写真上部には、首相、政府(内閣)、皇室の慣例的な紋章である五七桐花紋(ごしちぎりかもん)が印刷されている。 なお、天皇と皇后は国際慣習における君主国への元首待遇により、海外渡航する際に旅券の所持・携行は不要となっている。 (一般)旅券 (PASSPORT) ((いっぱん)りょけん) - 一般的なパスポートに該当有効期間は、「5年用」(紺色)と「10年用」(赤色)の2種類がある。申請・取得の際、成人者(20歳以上)は「5年用」か「10年用」を選択できるが、未成年者(19歳以下)は「10年用」の発行はできず、「5年用」に限定される。これは「未成年者は、成長に伴う容貌の変動が著しい」と見做されているためである。 現在は、期限内なら何度でも出帰国できる「数次旅券」が原則となっているが、1989年(平成元年)の旅券法改正までは1回の渡航のみに使用できる「一次旅券」も自由に申請・取得できた。現在も一次旅券制度自体は旅券法上残っているが、例外的運用となっている。 通常は、渡航先が全ての国家と地域となっているが、犯罪を犯したり検察庁から公訴を提起されている者、仮出所中、執行猶予中など事情がある日本国籍者については、渡航先や有効期限が制限されたパスポート(限定旅券)が交付されたり、申請を却下される事もある。 公用旅券 (OFFICIAL PASSPORT) (こうようりょけん) - 国会議員(衆議院議員及び参議院議員)や国家公務員、公的機関の職員(例として、国際協力機構のエージェントや青年海外協力隊の隊員、学術研究機関の学者など)、文化庁の承認する在外研修員が、公務で外国へ渡航する場合に交付される。「OFFICIAL PASSPORT」表記で緑色の表紙 赴任・帰朝の往復のみ有効な一次旅券が原則だが、渡航が頻繁な者に限って数次公用旅券が発給され、またヨーロッパなどへの派遣の場合、申請によって渡航先を増やす事も出来る。政情不安な国への渡航の場合は、外務省の退避勧告が発動された場合に備えて、周辺国へも移動可能になるように定められている。 一般旅券とは内容も異なり、身分証欄には名義人の官職名や旅行目的(普通は「政府(所属機関)の命による」である)が記載されている。 外交旅券 (DIPLOMATIC PASSPORT) (がいこうりょけん) - 皇后を除く皇族、三権の長(行政府の長:内閣総理大臣、立法府の長:衆議院議長及び参議院議長、司法府の長:最高裁判所長官)、国務大臣(閣僚)等政府高官、特命全権大使、外交官(外務省職員)等が公務で渡航する場合に交付される。つまり、皇族(皇后を除く)以外の国民は個人で所持する一般旅券と、必要に応じて外交旅券や公用旅券の両方を取得する事になる。「DIPLOMATIC PASSPORT」表記、濃茶色の表紙 任地までの往復の一次旅券が原則だが、渡航が頻繁な者(職業外交官など)に限って、数次外交旅券が発給される。公用旅券同様、政情不安な国への赴任の場合は、外務省の退避勧告が出た場合に備えて、周辺国へも移動出来るように定められている他、身分証欄には名義人の官職名があり、「注意」の欄には、旅券法違反時の罰則についての説明書きが無い。 外交旅券を所持している事と外交特権がある事は全く別である。外交特権を得るには、加えて外交官アグレマンも派遣先政府から受けなければならない。また、公用と外交の旅券は、本人の所属機関から外務省に直接発給申請が行なわれ、個人で申請する事は出来ない(旅券事務所にも申請書はない)。取得理由の任務が終了したら、日本帰国後に、速やかに返納する必要がある。申告を行い、消印(「VOID」と表示される穴が専用パンチで開けられる)を受けたうえで、記念に保管することも可能である。 緊急旅券 (EMERGENCY PASSPORT) (きんきゅうりょけん) - 在外公館に設置された旅券作成機が、故障等で交付が不可能で、なおかつ、本国外務省での旅券交付を待機する時間的余裕がない場合や、帰国のための渡航書の交付基準に該当しない者に交付される。「EMERGENCY PASSPORT」表記、茶色の表紙。 有効期限は1年。 一般旅券と同様に利用可能であるが、スタンプによる記載のため、機械式読み取り、ICチップによる読み取りは不可能。そのため、一部の国・地域では、査証免除取極の適用対象外となる。 この他に、渡航先で旅券を紛失して、旅客機が航行するなど再発給を待機する時間が無い理由がある者に対し、在外公館で日本へ帰国する渡航中に使用するため、1回(片道)限り使用可能な渡航文書として「帰国のための渡航書」が交付される。この場合は、当該渡航書の発給と同時、日本の外務省の記録上で、それまで所持していた旅券番号が失効するため、元の旅券が後日発見されても使用することはできず、新たに旅券取得の手続をする必要がある。 また、旅券を所持していない(又は自分の旅券が失効してしまっている)が「親族が外国で急な事故に巻き込まれ救援等に出向く必要がある」「外国で開催される発表展示会や研究・開発の発表や署名式に出席しないと、日本の国益を損ねる」などという事態が発生した際には、即日または翌日発行の「緊急発行」という処理方法がある(通常は申請から交付通知が届くまで1週間ほどかかる)。 日本に到着後の入国審査官による帰国手続の際、船員手帳しか持っていない、旅券(パスポート)の期限が失効していた等々の理由で帰国確認の証印を押せない場合は、「帰国証明書」が交付される。こちらは「帰国のための渡航書」のように外務省が発行する文書でなく、法務省の地方出入国在留管理局に属する入国審査官の判断・都合により交付されるもの(渡航文書の代替でなく証印の代替)に過ぎないため、法令上直ちに元の旅券が失効とはならない。 また、現在の日本で唯一の「住所が本人による手書きで、住民票と異なる住所の記載が許容される、証明写真付きの公的な本人確認書類」である。 なお、アメリカ合衆国による沖縄統治時、沖縄県以外の46都道府県のいずれかに戸籍を置く日本国籍者が、アメリカ合衆国施政権下の沖縄県に渡航する際には、旅券ではなく、日本国政府が発行する「身分証明書」という特殊な書類を要し、逆に沖縄県に戸籍を置く日本国民(「琉球住民」)が46都道府県の日本本土へ渡航する際には、琉球列島米国民政府が発行する「日本渡航証明書」が必要であった。(出入管理庁#渡航手続・アメリカ合衆国による沖縄統治#交通) また、北方四島交流事業において、日本政府が自国領有を主張しているもののロシア連邦により実効支配(日本政府の立場としては、不法占拠)されている歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島(いわゆる北方地域)への訪問団の各個人に向けて、外務省において身分証明書が交付されるが、これも旅券ではない。 これらは、いずれも沖縄県(米国施政下からの復帰前)、小笠原諸島(東京都の一部、米国施政下からの復帰前)、北方領土(北海道の一部、ロシアによる実効支配下)、竹島(島根県の一部、韓国による実効支配下)は『日本固有の領土である』という日本国政府の国是から、これらの地域への渡航のために、旅券を発給できないからである。
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