現代の銃剣
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 08:12 UTC 版)
軍隊では依然として銃剣の戦闘訓練が行われており、銃の故障や弾切れが起こった際でも戦闘能力を完全に喪失することからは免れるため、兵士の士気の支えとして銃剣は依然重要である。また、外見の威圧感は治安任務においても有用である。教育面では、新兵の基礎訓練の一環として、銃剣で古タイヤや藁人形・紙製の仮標などを繰り返し突かせることで、相手の顔が見える距離で人を攻撃して殺傷する行為への訓練を積むために用いられる。死んだふりをする敵兵をチェックするための道具としても使用される。 戦後のドイツ連邦軍では国民に対して威圧的な印象がある銃剣を制式配備せず、多目的ナイフ(カンプメッサーないしフェルトメッサー)のみで近接戦闘を行うものとしている。儀仗用のKar98k小銃と最新式のG36アサルトライフルには着剣装置があるが、依然として銃剣は廃止されたままで、銃剣格闘の訓練も行われていない。 銃剣を装着したまま発砲すると、銃口のジャンピングが抑制されるため、弾道が低落する。しかし手から最も離れた銃口近くに重量物をとりつけるとモーメントが大きく、保持が難しくなるので、射撃精度を上げる目的で着剣することはない。保持、また、発射時に衝撃波が銃剣に反射して、銃弾に干渉するため、集弾密度が拡散する。また、発射薬に含まれる硫黄、硝酸などの酸化粒子が銃剣に付着し、発錆を促進する弊害もある。 現代の銃剣は剣形銃剣がほとんどである。塹壕を掘るためのスコップの代用とする想定は以前からなされていたが、AKシリーズの銃剣に見られるように、近年では銃剣の多機能化が進んでいる。M9A1 銃剣のように、コンバットナイフに着剣装置をつけたといったほうが妥当な製品も登場している。すなわち手持ちのナイフとしての性能が高く、なおかつ多くの機能を併せ持つ。鉄条網などを切断するワイヤーカッター、ドライバー、鋸などに使用でき、サバイバルナイフのように中空の鞘に雑具を収納できる。現代では、工具としての利用にも適したサイズのナイフを歩兵が携帯し、銃剣と兼用する運用がなされている。 日本の自衛隊は発砲が非常にまれなことから(海外活動においても、弾倉内に弾を入れておくことが禁止されている場合すらある)、カンボジアでのPKO活動の際に、隊員が64式小銃から弾倉を外しているのに気付いた政府軍兵士や現地人から「案山子」などと馬鹿にされる場合もあったといわれる(杉山隆男『兵士に聞け』など[信頼性要検証])。そのような場合でも、着剣した小銃の威嚇効果は大きく、現地の自衛官が「一番頼りになった道具は銃剣でした」と言った、というジョークも生んだ[要出典]。 ロシア語で銃剣をштык(シュティク)と言うが、銃剣と共に「兵士」を指すこともあり、複数形штыки(シュティキ)が「兵士たち(軍隊)」を意味することがある。 イギリス軍においては、第二次世界大戦後に銃剣突撃が実施された事例が複数知られている。フォークランド紛争中、マウント・ロングドンの戦い(英語版)においてはイギリス陸軍落下傘連隊第3大隊(英語版)B中隊第3小隊所属のイアン・マッケイ(英語版)軍曹が銃剣突撃を指揮し、マウント・タンブルダウンの戦い(英語版)ではスコッツガーズの兵士が銃弾を使い果たした末にアルゼンチン軍陣地に対する銃剣突撃を行った。2000年代に入ると、イギリスでも銃剣は軍の近代化の中で廃れていく装備と捉えられるようになったが、以後も何度かの銃剣突撃が行われている。2004年、イラクに展開していたイギリス陸軍アーガイル・アンド・サザーランド・ハイランダーズ連隊(英語版)がマフディー軍による待ち伏せ攻撃を受けた際、同連隊は彼らを砲撃していたマフディー軍の迫撃砲陣地に銃剣突撃を敢行した。2009年にはアフガニスタンにてイギリス海兵隊第45コマンド部隊(英語版)所属のブラッドリー・マローン伍長(Bradley Malone)が武装勢力に対する銃剣突撃を指揮した。2011年、アフガニスタンにて陸軍プリンセス・オブ・ウェールズ・ロイヤル連隊(英語版)所属のショーン・ジョーンズ下級伍長(Sean Jones)は、パトロール中に武装勢力の待ち伏せを受け、銃剣突撃によってこれを撃退した。 アメリカ陸軍における大規模な銃剣突撃は、現在まで1951年にルイス・ミレット大尉が指揮したものが最後の事例とされている。1970年代初頭には当時の主力小銃M16に銃剣格闘に耐えうる強度が無いとされたことなどから一時銃剣格闘訓練が停止されたが、1980年代初頭にはフォート・ベニング基地に新たな銃剣訓練コースが建設され、戦闘の基礎としてだけではなく士気および体力を向上させる訓練の1つとして、訓練用模擬銃を使う銃剣訓練が再開された。その後、2010年に基礎戦闘教練(Basic Combat Training)の大規模な制度改革が行われ、この際に銃剣格闘の課程が廃止された。初等訓練副司令(Deputy Commanding General for Initial Military Training)として改革を主導したマーク・ハートリング(英語版)将軍は、銃剣格闘課程の廃止に関して退役軍人からの反発があったことや、これらの訓練に精神的なメリットがあるとする主張に触れつつ、「銃剣格闘が重要であるならば、何故それを基礎教練でしか教えないのか」「戦時には優先して教えるべき事項が多数ある」と語った。ただし、新制度においても白兵戦訓練の一環として銃剣やナイフを用いた訓練が実施されているという。また、アメリカ海兵隊では全ての隊員を対象とした銃剣格闘訓練が続けられている(民間人を兵士として作り上げる為、銃剣で古タイヤなどを繰り返しつかせることで目の前に敵がいたら本能的に攻撃するように鍛え込まれる目的で特に新兵訓練で重要視されている)。 訓練としてはパジルスティックを使うスポーツ型、木銃を使う銃剣道などの武道型がある。実物の剣付き銃を使う場合、単独または組手方式による型稽古のほか、紙・布で作られた仮標や、古タイヤや人形を実際に突く方法がある。
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