快楽主義・虚無主義とオカルティズムの萌芽
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「鬼畜系」の記事における「快楽主義・虚無主義とオカルティズムの萌芽」の解説
薬物(ドラッグ)が成分抽出・化学合成される以前は、向精神物質は自生植物から調合され世界中の文化で宗教的儀式において使用されていた。 19世紀にはドイツなどで化学が発展し、さまざまな向精神物質が植物より成分抽出・化学合成された。モルヒネ(1804年)、カフェイン(1820年)、ニコチン(1828年)、コカイン(1860年)など。1888年に長井長義がドイツ留学中に漢方薬の麻黄から抽出に成功したメタンフェタミン(商品名ヒロポン)は、第二次世界大戦中に兵士の疲労回復や士気向上に用いられ、戦後に多くの中毒者を出した。戦前は中毒性の強い薬物でも、エネルギー剤として市販されていたりした。戦後のアメリカでは、若者の間のドラッグ中毒が蔓延している。 1904年には、オカルティストのアレイスター・クロウリーが『法の書』を出版し、「汝の意志することを行え」というセレマ思想を提唱した。クロウリーは『法の書』(II,28) に対する「新しい注釈」の中でこう書いている。 「これが正しい」という基準などない。倫理とは戯言である。それぞれの星は独自の軌道を行くべきである。「道徳原理」などクソ食らえ。そんなものはどこにもないのだ。 古代から存在する、自己の快楽(欲望)を追求する利己的快楽主義は、19世紀・20世紀初頭のオカルティズムにて再解釈され宗教・社会的道徳に反逆する悪魔崇拝カルトなども生まれ、20世紀後半のカウンターカルチャー運動によって再評価されるようになった。例えば、快楽主義の一派キュレネ派のヘゲシアスは、人生は苦痛であり、自殺こそが快楽を追求する道だと説いた。利己的快楽主義者では、極端なケースでは、自己の快楽のためならば姦淫、同性愛、児童性愛、近親相姦、快楽殺人、自殺、安楽死、などなんでも正当化され許されてしまうことが議論されてきた。また、悪魔崇拝では、自己の快楽が目的ではなくても、積極的に社会に対するあらゆる悪(破壊、殺人、強姦、暴力、強奪、拷問、裏切り、虚言)を働くことが推奨される(自殺をすると悪を働けなくなるため自殺を推奨しない一派もあるし、より強力な悪に生まれ変わるため自殺を推奨する一派もある)。自殺予防の観点では、悪魔崇拝への傾倒は自殺の前兆の一つとも考えられている。 心理学からの分析では、利己的・非倫理的・非社会的で、犯罪を起こし、社会的苦痛を引き起こし、組織にとって重大な問題を与える傾向がある悪の気質は「ダークトライアド」(自己愛、マキャヴェリズム、サイコパシーの3つのパーソナリティ特性の総称)が関与していると考えられている。一方で、共感・思いやり・利他心といった社会にとって好ましい気質は「ライトトライアド」(カンティアニズム、ヒューマニズム、人間性信仰)を持つとも言われている。しかし、ライトトライアドは悪人に騙されたり、搾取されやすいという弱みがある(寛容のパラドックス)。逆にダークトライアドは自己保存のために計算高く、創造的で、リスクを取ることもできるという強みもある。 19世紀には反ユダヤ主義のプロパガンダとして、フリーメイソンやイルミナティを世界支配(新世界秩序、NWO)をもくろむ悪魔崇拝結社とする陰謀論も生まれた。このプロパガンダはナチスにも利用された(詳細は「シオン賢者の議定書」および「ナチズムにおけるオカルティズム」も参照)。1950年代にはウィリアム・ガイ・カーが同様の陰謀論「影の政府」を普及させた(後にディープステート/DSとも)。このスキームは、ユダヤ教、共産主義、合衆国政府、国際金融機関などを攻撃するプロパガンダとしても利用されることになる。 19世紀のもう一つのトレンドは、ニーチェによって有名になった虚無主義(神の死)である。これは、人生に意味はない、世界に価値はない、客観的な真実や善悪(道徳)など存在せず全ては相対的である、全ては無に帰するため無意味である、すなわち「事実などない。あるのは解釈だけだ」などという態度である。 たとえば1912年に刊行された『変身』は、ある男が目覚めるとグロテスクな虫になるという不条理なストーリーであったが、これはカフカなりのニヒリズムが反映された寓話と見る向きもある。一方で、ユングによる「分析心理学」、フロイトによる「精神分析学」、フレデリック・マイヤーズによる「超心理学」(超能力)の研究も19世紀末から20世紀初頭に発表され、日本にもすぐさま伝わった。さらに、19世紀アメリカの民衆宗教思想「ニューソート」は、引き寄せの法則やポジティブシンキング(積極思考)など、自己啓発の源流とも言われている。これらの理論は、オカルトにて好まれて用いられている。また自らの魂・霊性を進化・向上させることを説く「神智学」の思想もこの時期に生まれた。
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