代表的な溶接方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/27 15:51 UTC 版)
被覆アーク溶接(SMAW) アーク溶接の基本。いわゆる溶接棒を使う溶接のこと。半自動溶接と区別するために手棒溶接や手溶接と言うこともある。ワイヤに比べて風に強いことから、建築など屋外でのアーク溶接には大体この溶接が使われる。また溶接に必要な機材が簡単で安価であるが、使用する溶接棒は太く、比較的大電流のアーク放電で行うため薄板溶接は不可能。他の溶接方法と比べて技術を要する。 半自動アーク溶接 アーク溶接の一種。溶接ワイヤとシールドガスが手元に自動的に供給されるので、被覆アーク溶接より作業性が良い。風に弱いので屋内でのアーク溶接に使われることが多い。ガスの種類により、MIG溶接、MAG溶接、炭酸ガス溶接に分類される。溶接ワイヤが細く、インバータ制御でパルスや極性を適切に調整する機種では比較的容易に溶接が出来る。 サブマージアーク溶接(SAW) アーク溶接の一種。半自動溶接と同じように溶接ワイヤが自動的に供給されるが、シールドガスではなく、特殊な砂のような粒状フラックスで溶接部を覆い、その中でアークを発生させ溶接を行う(従って、溶接中には溶接部の状態を見ることができない。また溶接姿勢は下向きに限定される)。フラックスはアークを大気から保護したあと、固まって溶接ビードを保護する。3.2mm以上の太い溶接ワイヤが使われることが多い。そのため極めて高能率で品質の高い溶接になるが、設備が大型化するので、船や建物の鉄骨、パイプラインなど大きな構造物や、圧力容器等溶接部の品質を特に要求する場合の溶接に使われる。 ティグ溶接(TIG溶接) アーク溶接の一種。融点の非常に高いタングステン棒からアークを出し、その熱で母材を溶かす。半自動溶接と同じようにシールドガスを用いる。溶加材を足すことも可能。ロケットエンジンなど精密な溶接に向く。高圧パイプや精密機器の溶接などに使われる。高融点のタングステンを電極にしているため電極自体は減りづらいが、アーク熱を発生させるだけで溶着金属を付加するために、左手で溶接棒を添加しなければならない。両手を使うため熟練が必要であり、比較的難易度は高いが、非鉄金属に対する溶接に適応力が広い。実際にアルミやステンレスの溶接を行うと、アークがプラズマ状になりガス溶接やハンダ付けのような溶け込みをするので、基本的な突合せ溶接であれば最も簡単な方法である。唯一、溶接作業時火花が散らない特徴がある。 スポット溶接 抵抗溶接の一種。薄い板金を両側から抑えつつ電気を流し、その抵抗熱で板金を溶かし接合する。主に自動車のボディの接合に使われている溶接。溶接時間が短く生産性が高い。大きなものを人が扱うのは大変なので、産業用ロボットが使われる。 シーム溶接 抵抗溶接の一種。ローラーの形をした電極で複数の板金を抑えると同時に、抵抗熱で溶接を行う。スポット溶接と違い、線状の溶接が可能。薄い板金を連続的に接合する。主に水密や気密を要する箇所に使用され、缶詰やジュースの缶などに使われている。 鍛接(たんせつ) 圧接の一種。圧接は固相溶接とも言う。真っ赤に焼いた金属を重ねて、ハンマーで叩いて接合する。古い技法で青銅器時代から見られる。現代でも鋼管や鎖などの製造に普通に使われる。 ろう接(ろうせつ) 母材より融点の低い金属で接合する方法。ろう付け(融点が450度以上の硬ろう)、はんだ付け(融点が450度以下の軟ろう)貴金属アクセサリーでは部品同士の固定にろう付(ろうづけ)・ろう接(ろうせつ)を用いることが多い。古い技法で、古代エジプトの装飾品などからも見つかる。加熱する方法により、アークろう付、抵抗ろう付、炉内ろう付、トーチろう付などがある。 ガス溶接 可燃性ガスを燃焼させて溶接部を加熱する。普通はアセチレンガスと酸素を使う。溶接速度が遅く、アーク光が発生せず溶接部が見やすいので、溶接不良が発生しにくいと言われている。そのため高圧力のかかる油圧、空圧の配管などに使われる。溶接速度が遅く、機材の取り扱いにも免許が要るなどの短所があるため、あまり一般的な溶接とは言えない。関連資格に(ガス溶接作業者)などがある。またガスの燃焼熱により溶融接合をするわけであるが、添加盛り上げする溶着金属は左手で供給しつつ進行せねばならず、両手を使うためアーク溶接より熟練を要するが、発生温度が比較的低く温度調整も容易で薄板の接合に適している。 テルミット溶接 テルミット法とも言う。アルミニウム粉末と金属酸化物を混ぜて溶接部に詰める。そこで還元反応を生じさせ、その反応熱で母材を溶かし、還元された金属が溶加材になるという仕組み。 エレクトロスラグ溶接 溶接部を銅金で囲いながら連続的に溶接を行う。厚板の突合せの縦なみ溶接に用いることが多い。設備は大掛りで、どうしても溶接部を水平に出来ない大型の化学プラントやタンク、大型船の溶接に用いる。 鋳掛け 溶接部を鋳砂で囲い、母材の縁が溶けるまで湯(溶けた溶加材)を流し込む。古い技法のひとつで青銅器時代の遺物からも鋳掛けの跡が見つかる。今ではほとんど見ることはないが、エレクトロスラグ溶接やサブマージアーク溶接にこの古代技法の面影がある。 電子ビーム溶接 電子ビームを溶接部に当てて加熱する溶接。入熱量が少なく、非常に深い溶け込み深さが得られるので精密な溶接に向く。異種金属の接合も可能。ただし真空中でしか溶接できないので、コストは非常に高い。使用例は人工衛星や深海探査艇、高エネルギー加速器の部品などで、かつてはコストを無視できるような特殊な製品でないと使うことは出来なかった。代表例として、F-14戦闘機の可変翼のチタン部品の熔接に用いられた。当時では極めて高価で高度な技術であった。しかし近年、自動車のAT率の増加に伴い、トランスミッションギアの溶接に使用されるようになり、日本ではほとんどの自動車メーカー及び系列の部品メーカーが採用している。米国の自動車メーカーは、制動X線が発生することから採用せず、レーザー溶接を採用している。 レーザー溶接 レーザーで溶接部を加熱する溶接。レーザービーム溶接とも言う。入熱量が少なく、非常に深い溶け込み深さが得られる。電子ビーム溶接と異なり、シールドガスを使えば大気中でも溶接可能。現在はレーザー光源にYAGレーザーとCO2レーザーを使うものがある。YAGレーザーは光ファイバーが使えるので、産業用ロボットに取り付けて使うことができる。CO2レーザーは光ファイバーを使うことが出来ないが、大きな出力が得られている。既にシーム溶接やスポット溶接の代替技術として導入が進んでおり、さらに、中厚板の溶接が出来るようにレーザー光源の大出力化の開発が進んでいる。自動車部品、航空部品などで応用が進みつつある。 ホットジェット溶接 熱風を当てて母材を溶かして溶接する。プラスチックの溶接に使われるので、プラスチック溶接ともいう。 プラズマアーク溶接 プラズマを利用したアーク溶接の一種である。TIG溶接と同じくタングステン電極棒からアークを発生させるが、プラズマ・ガスを水冷ノズルの穴を通してアークを細く絞った後に、アーク中に噴射させると、プラズマ・ガスは加熱され高温となり解離して原子状(プラズマ状態)となり、その際に多量の熱を発生する。その後、プラズマ・ガスはアークと混合され、その混合物を溶接熱源としたプラズマジェットを溶接部に当ててその熱で母材を溶かす。半自動溶接と同じようにシールドガスを用いており、溶加材を足すことも可能である。精密な溶接に向く。TIG溶接と似ているが、極めて高温なため溶接速度が早く、タングステン電極がノズルより奥にあり、プラズマがノズルにより密度が高く安定しているという利点がある。使い勝手と経済性の問題から、肉盛溶接などに用途が限られている。 摩擦攪拌接合 (FSW) 圧接の一種。回転する円柱状の工具を強い圧力で板金に押し当てて、その摩擦熱と攪拌力で接合する。現在の主な溶接が母材や溶接棒を溶融しながら接合する液相接合であるのに対し、FSWは母材を溶融せずに塑性流動を利用した固相接合である。異種金属接合が可能。スポット溶接の代替技術として開発、導入が進んでいる。FSWは固相溶接とも言われ、広義の溶接に数えられる場合もあるが、伝統的な溶接の概念とは異なる接合法であるため、溶接とは別のものと一般的には考えられている。 摩擦圧接 圧接の一種。摩擦攪拌接合と似るが、母材自体を回転させる。異種金属接合が可能、母材への熱影響が少なく、使用エネルギーが少ないなどのメリットがある。しかし、母材の形が少なくとも片方は円形をしている必要があり、断面形状の制約が厳しい。 超音波溶接 圧接の一種。溶接部に超音波で振動する工具を押し当てて、母材を互いに摩擦することにより接合を行なう。断面形状の制約はない。
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