人外に対する叙位
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 07:17 UTC 版)
動物に対して叙位が行われたという記録もいくつか残っている。ただし脚色された物語や伝承等である物が多い。 ゴイサギ(トリ) - 『平家物語』巻五「朝敵揃」では、9世紀末 - 10世紀初めの天皇、醍醐天皇が叙位を行ったとしている。ある時、天皇はこのサギを捕えるよう六位の蔵人に命じた。蔵人が「宣旨ぞ」と声をかけると、鳥は動かなくなり、蔵人に捕らえられた。天皇は宣旨にしたがったことを褒めて五位を授け、「サギの中の王」であると記した札を付けて飛び立たせた。 ネコ -10世紀末 - 11世紀初めの天皇一条天皇は愛猫家であり、飼っていたネコに「こうぶり給いて(叙爵されて)」「命婦の御許」と呼ばれたと『枕草子』に記述されている。このネコは長保元年(999年)9月に生まれ、9月19日には「産養」と呼ばれる祝宴が執り行われた。これは本来人間の赤子が生まれてから数日を経過したことを祝うものであり、一条天皇の母・東三条院藤原詮子や左大臣藤原道長といった貴人も参列している。 伏見稲荷大社の命婦狐(キツネ) - 複数伝承があり、1つは鎌倉時代の東寺の縁起書の記述として、老いた命婦(五位以上の女官)が稲荷社に参詣できなくなり、その代わりにキツネが参ってほしいと願い、命婦の称号を譲ると約束したというもの。2つは、江戸期の伝承で、後三条天皇(11世紀末)が伏見稲荷大社に行幸した際、老いキツネに命婦の官を授けたとする。 ウマ - 平家物語巻之十一「嗣信最期の事」には「判官(義経)五位尉になられし時、五位になして大夫黒と呼ばれし馬なり」とされる「大夫黒」というウマが登場する。 ゾウ - 19世紀の文政年間に出版された『江戸名所図会』では、享保13年(1728年)、広南(ベトナム)から連れてこられたゾウに、「従四位」の位が授けられ、「従四位広南白象」と称されたと言う記述がある。この叙位は中御門天皇に拝謁するにあたって行われたとされるが、同時代の資料には叙位についての記載はなく、記述を疑問視する意見がある。 狆(イヌ) -『耳嚢』「犬に位を給はりし事」では、以下のような叙位の話が記載されている。姫路藩主酒井忠以が光格天皇の即位式と元服のために上洛する際、愛犬の狆がどうしても忠以の駕籠から離れず、ついに京都までついてきてしまった。光格天皇はこの犬の忠義をほめ、六位を授けたという話が記載されている。ただし実際の忠以の上洛は馬でおこなわれているだけではなく、忠以自身の日記『玄武日記』には狆の事は一切書かれておらず、『耳嚢』著者の根岸鎮衛も「根なしこと(根拠のないこと)」と記している。 また、無機物に対する叙位もあった。 佐伯 (船) - 遣唐使執節使(大使より上位)の粟田真人の乗船。無事往復をこなした船に対し、慶雲3年(706年)2月22日、従五位下の位が授けられた。 播磨と速鳥 (船) - 天平勝宝6年(754年)、鑑真らを乗せ、帰還に成功した遣唐使船。二隻共に従五位下の位が授けられた。 能登 (船) - 奈良時代の遣渤海使船。763年に従五位下の位階と錦冠を授かった(『続日本紀』)。 神津島の天上山 - 火山が噴火した際、山神をなだめる意味で、山に対して神階を与える場合(叙位)があり、838年(9世紀中頃)の神津島の噴火により島民が全滅したことを隣の新島が報告してきたため、神津島の神(天上山)に従五位下が与えられたとされる(その50年後には新島も噴火し、島民が全滅するが、朝廷に報告する者がいなかったため、叙位はなかった)。 伝承上、名槍日本号は天皇から三位を与えられたとされる武器である。 備考として、人外に対して位を授けるという故事・行為自体は日本独特の文化という訳ではなく、中国にも例はあり、『史記』秦始皇帝本紀には、始皇帝が雨宿りした松の木に対して、「五太夫」の位を授けた故事(松の別名を五大夫という)が記述されており、このことは日本の能の演目「老松」においても語られている(権藤芳一 『能楽手帳』 1979年 p.60)他、明代では、大砲に「安国全軍平遼靖膚将軍」の号位を授け(貝塚茂樹 『中国の歴史 下』 岩波新書 1970年 p.52.『増補改訂版 日本史に出てくる官職と位階のことがわかる本』 p.54)、清代では、古錨が祟りを成すとして、「鉄猫将軍(錨と猫の音が通じるため、いつの間にか呼ばれるようになった)」の封号を賜ったとされる(『日本史に出てくる官職と位階のことがわかる本』 p.54)。西洋諸国でも動物に対し、軍の階級を与えている例はみられ、ローマ皇帝のカリグラは、インシタテュスという愛馬を執政官に任じた(『日本史に出てくる官職と位階のことわかる本』 p.54)他、ポーランド軍のクマ兵・ヴォイテクやノルウェー軍のペンギンマスコット・ニルス・オーラヴなどは階級と共に騎士号を授与されている。
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