ベースオイル(基油)による分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 14:25 UTC 版)
「エンジンオイル」の記事における「ベースオイル(基油)による分類」の解説
エンジンオイルはベースオイルの種類や割合などにより次のように分類される。消費者が得られる情報として、化学物質等安全データシート(MSDS(Material Safety Data Sheet))に製品のブレンド内容および毒性などの情報が記されている。 鉱物油(ミネラル) 石油を精製する過程で得られるもの。分子量などは厳密にそろえることができないが比較的安価に製造でき、一般的にはこれが多用される。原油にはナフテン系とパラフィン系があり、一般的な鉱物油の元となる原油は中近東の混合原油、ベネズエラ・オーストラリア・アメリカのメキシコ湾・ガルフコーストから産出されるナフテン系原油、アメリカ・ペンシルベニア州などから産出されるパラフィン系原油などがある。 パラフィン系は直鎖の部分が多く粘度指数が高いため、広い温度の範囲で粘度変化が小さい。ナフテン系は環状構造が多く粘度指数が低いが低温での流動性に優れる。かつてはペンシルバニア産原油から精製したパラフィン系オイルの粘度指数が100で高品質とされていた。今では出量が非常に少なくあまり販売されていない。また、ペンシルベニア産エンジンオイルだと偽り、他国のオイルを販売しているケースもある。 現在では精製技術や改質技術、添加物の性能が向上しているので、パラフィン系油田やナフテン系油田といった原油の産地だけで品質の良し悪しは決まらない。現時点ではベースオイルは殆どがパラフィン系オイルであり、これを高度水素化分解(ハイドロクラッキング)などの改質を行ったものをVHVI油・グループIII基油と呼んでいる。これを、従来からのPAO系やエステル系と同様に化学合成油と呼ぶかについては論議は分かれており、メーカーにより呼称は異なっている。グループIII基油は部分的な性能はPAOに匹敵もしくは凌駕する面もあり、また比較的安価である事から利用が増えている。 部分合成油・半合成油(セミシンセティック、パートシンセティック、シンセティックブレンド) 鉱物油や高度水素分解油にPAOやエステル(あるいは水素化分解油)を混合し、品質を高めたもの。その配合率や基油は日本では規定がなく(海外においても明確な規定はない)、表示義務もないためその詳細は消費者側は不明である。従来、鉱油と合成油をブレンドしたものをグループIII基油に置き換える事もあり、グループIIIベースオイルを部分合成油や半合成油と呼ぶケースもある。グループIIIを合成油とした場合、グループI/IIにグループIIIをブレンドした場合も部分合成油や半合成とする事も可能であり、グループIIIとPAOのブレンドは後述の全合成と呼ぶこともあるので、消費者からの判断はますます困難となっている。 フィッシャー・トロプシュ法により一酸化炭素と水素ガスから触媒反応を用いて合成された基油。 原油価格高騰のために単価としては石油よりも安価な天然ガス (GTL) から作られることが多い。通常は半合成油に属するが、全合成油とする場合もある。 化学合成油・全合成油・合成油(シンセティック) PAO(ポリアルファオレフィン)は工業的には石油から分留したナフサ、もしくは天然ガスから得たエチレンを合成することでαオレフィンとし、それを重合することで成分や分子量を一定にしたもので、重合度を調整することで幅広い粘度を比較的自由に作れる。鉱油に比べると低温流動性、せん断安定性などが安定しており、鉱油に比べ製造コストは高いものの合成油としては比較的低コストで大量生産が可能な点、鉱油と同様に無極性の炭化水素で鉱油からの置き換えも行いやすいなどという点から、エンジンオイルにおいて(グループIII基油を除き)一時は最も多用される化学合成油であった。 エステルはポリオールエステル、ジエステル、コンプレックスエステルなどがあり、一般的には動植物の脂肪酸とアルコールを化合して生成される。組み合わせ次第で様々なエステルが存在するため性能や特性は千差万別となる。エステル結合部分のカルボニル基が極性を持ち、特にその酸素原子にあるδ-(負の極性)は、オイル自身を金属表面に吸着させる効果があるが、加水分解によって劣化しやすい欠点があるが、現在ではこの欠点を改良したポリオール系のエステルが使われるようになっている。極性が高い場合は添加剤の働きを阻害する事もあり、鉱油やPAOに比べコストも高く寿命も短いことから、エステルを100%使用する事は一般的ではなく、配合の成分として使われることが多い。 エステル系とPAO系はともに化学合成油だが、化学的安定性や粘度抵抗など異なった性質をもつ。一般的には化学的安定性の非常に高いPAOに粘度抵抗の小さいエステル系を一部混ぜたものを基油として用いることが多い。100%エステルと宣伝表示されていても、一般用途の100%エステルのオイルは存在しない。 その他化学合成油の基油(ベースオイル)として、アルキルナフタレン、ポリブデンなどがある。また、アメリカの広告審議会 (NAD) の採決により、高温高圧下で水素、触媒を用いて鉱物油を分解・異性化精製する、ハイドロクラッキングオイル(高度精製油、高粘度指数油、超精製油、グループIIIベース油とも表記される。商品目ではVHVI、MCなど)も化学合成油(シンセティック)として表示される場合が増えている。このため国内においてグループIIIベース、またはPAOにグループIIIをブレンドしたものを化学合成油でなく、全合成油や合成油と表示される事がある。近年流通している安価な全合成油・部分合成油の多くは基本的にこのグループIIIベースである。 植物油 ひまし油など。エステル系であり潤滑性はたいへん優れておりレースに用いられるが、酸化しやすいために現在の一般車ではほとんど用いられない。オイルメーカー(ブランド)のカストロール(Castrol)は、エンジンオイルの原料としてこのひまし油(Castor Oil)を用いていたことにその名を由来する。 一般ユース向きの製品としてはフックス(FUCHS)が植物油ベースの生分解性オイルを販売している。フックスは日本では知名度が低いがポルシェカップのサプライヤーをはじめクライスラー BMW VW OPEL ポルシェ等の欧米の自動車メーカーやビルシュタインの新車充填油、承認油(指定油)となっている大手メーカーである(指定油脂が生分解性オイルというわけではない)。また、ベースオイルとしてではなく添加剤としての利用もあり、モチュール(Motul)には化学合成油に植物油と動物脂肪酸を添加した製品が存在する。 なお上記の分類はあくまで基油におけるものであり、添加剤の溶剤には基本的に鉱油が用いられるため、例えPAOやエステルベースの化学合成油であっても鉱油を全く含まないというケースはエンジンオイルにおいては極めて限られる。
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