【AH-64】(えーえいちろくじゅうよん)
Hughes AH-64 "Apache(アパッチ)"
アメリカ陸軍で使用されてきたAH-1の後継として、1980年代にヒューズ社が開発した攻撃ヘリコプター。
(メーカーの吸収合併により製造権がマクダネル・ダグラスへ移行し、さらに現在はボーイングへ委譲されている)
特に武装の面で画期的なのは、撃ちっ放し能力を持つAGM-114「ヘルファイア」対戦車ミサイルの搭載で、攻撃時に被弾する危険を大幅に減らしている。
その他にもAIM-92対空ミサイル(小型地対空ミサイル「スティンガー」を機載型としたもの)や2.75インチ口径ロケット弾ポッドを搭載可能で、固定武装としてはM230 30mmチェーンガンがあり、さまざまな作戦に対応できる。
(ただしAIM-92の運用能力は、日本向け以外の機体では省略されている)
また、TADS/PNVSと呼ばれる目標捕捉・照準装置により全天候攻撃能力を持っている。
キャノピーを含め、セミモノコック構造の胴体には装甲が施され、後退角がついたメインローターも非常に頑丈に作られており、23mm程度の砲弾の直撃を受けても直ちに飛行不能になることはないという。
エンジンには1,660馬力のT700ターボシャフトを双発で搭載し、最大で360km/hを超える速度を出すことができ、機動性も非常に高い。
初期のAH-64Aは湾岸戦争でイラク機甲部隊を一方的に破る活躍をし、現在ではその改良型でエンジンやアビオニクスを強化したD型、そして、このD型のローターマスト上にミリ波レーダーを搭載して全周囲索敵力を獲得した、通称「アパッチ・ロングボウ」が主力となっている。
本機は、その戦闘力の高さが評価される一方、機体部品の耐久性が不足していることが指摘されている。
これは元来、ヨーロッパの戦場でワルシャワ条約機構軍(ソ連軍が主体)の戦車と戦うことを前提として設計されていたにもかかわらず、冷戦終結と中東情勢の悪化にともない、砂漠での戦闘に駆り出されるようになってしまったためである。
この欠点はD型においても根本的に解決されておらず、この点では、世界各地への緊急展開を前提に改良されているAH-1の海兵隊型に劣ると言わざるを得ない。
日本において
日本においては、陸上自衛隊が使用しているAH-1Sの後継としてAH-64DブロックⅡを「AH-64DJP」という名称で導入することが平成13年度に決定された。
この選定にあっては、比較対照としてAH-1Zが存在した。
争点はC4ISRに対応した情報収集能力およびコスト・パフォーマンスであった。
AH-1Z勢は新型FLIRによる探知能力の強化や長寿命部品によるライフサイクルコストの低減を謳ったが、防衛庁はAH-64の導入を決定した。
これは
「ロングボウ型を混成させることで比較的安価に全周囲索敵力を得ることができること」
「(砂漠での耐久性問題が指摘されているものの)AH-1Zとは異なり長年の運用実績が蓄積されていること」
などによるといわれている。
こうして、ボーイング社で先行量産されたAH-64DJPが富士重工へ引き渡され、平成18年1月26日に国内での初飛行を果たした。
以後は富士重工がライセンス生産によって防衛省へ納入することになり、62機の調達が計画されたが、納入ペースの遅さとコストの高さ、また、ボーイング社がAH-64DブロックⅡの生産ラインを閉鎖したこともあって、この日本向けアパッチは13機で調達を中断されることが決定された。
これにより全てのAH-1Sと交代することは不可能となってしまい、不足分は別の機体で補うことが必要とされる。
代替機の候補としては、OH-1を攻撃ヘリコプターへ設計変更したもの、AH-64Eの新規調達、ユーロコプター・タイガーなどが検討されている。

スペックデータ
乗員 | 2名(前席:コパイロット兼ガナー、後席:パイロット) |
主ローター直径 | 14.63m |
全長 | 17.76m |
全高 | 4.66m(主ローター・センサー頂部まで) 4.95m(AH-64D、FCR頂部まで) |
回転円盤面積 | 168.1㎡ |
空虚重量 | 5,165kg 5,352kg(AH-64D) |
設計ミッション総重量 | 8,006kg |
最大離陸重量 | 9,525kg 10,107kg(AH-64D) |
エンジン | GE T700またはチュルボメカRTM332ターボシャフト×2基 AH-64A:GE T700-GE-701(軸出力1,265kW) AH-64D:GE T700-GE-701C(軸出力1,409kW) AH-64E:GE T700-GE-701D(軸出力1,490kW) WAH-64:チュルボメカ RTM332(軸出力1,566kW) |
速度 (最高/水平) | 197kt/158kt |
海面上昇率 | 762m/min 474m/min(AH-64D) |
実用上昇限度 | 6,400m |
ホバリング高度限界 | 4,570m(IGE)/3,505m(OGE) 4,115m(IGE)/2,990m(OGE) (AH-64D) |
航続距離 | 260nm(機内燃料のみ)/1,024nm(フェリー時増槽最大) 220nm(機内燃料のみ)/1,024nm(フェリー時)(AH-64D) |
兵装 | 固定武装:M230A1 30mmチェーンガン×1門 AGM-114 AIM-92 AGM-122 AIM-9 スターストリーク(WAH-64) ハイドラ70 FFAR ロケット弾ポッド CRV7 70mmロケット弾ポッド(WAH-64)等 |
AH-64のバリエーション
- YAH-64A:
試作型。
- AH-64A"Apache(アパッチ)":
初期量産型。GE T700ターボシャフトエンジン2発を搭載。
- AH-64B:
海兵隊向けにローターブレードやGPSの搭載、一部アビオニクスを強化した型。
計画のみ。
- AH-64D:
エンジンやアビオニクスなどを大幅に強化したもの。旧称AH-64C。
ミリ波レーダーは搭載していない。
- AH-64D"Apache Longbow(アパッチ・ロングボウ)":
D型にグラスコックピット化やT700-GE-701Cターボシャフトエンジンへの交換、AN/APG-78「ロングボウ」ミリ波火器管制レーダーを追加する改修を行った型。
この改修により全周囲索敵能力や複数目標へのロックオン能力を獲得した。
- AH-64DN:
オランダ空軍向けのロングボウ・レーダー非装備型。
- WAH-64D:
アパッチ・ロングボウを英国ウェストランド社でライセンス生産したもの。
ロールスロイス/チュルボメカRTM332ターボシャフトエンジン(1,566kW)への変更や揚陸ヘリ空母での運用能力付加等、独自性が強い。
イギリス陸軍内での呼称は「アパッチAH.1」。
- AH-64D ブロックII:
アパッチ・ロングボウにC4ISR能力を付加したもの。
- AH-64DJP:
ブロックIIを富士重工でライセンス生産したもの。
AIM-92の運用能力が付加されている。
- AH-64E"Apache Guardian(アパッチ・ガーディアン)":
ブロックIIのエンジンやアビオニクスを更に強化し、無人機運用能力等が付加されている。
アメリカ陸軍に納入が開始されたほか、台湾陸軍に採用される予定。
旧称はAH-64D ブロックIII。
納入・運用した国
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