精神病質 特徴

精神病質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 19:57 UTC 版)

特徴

行動・情動面での特徴

オックスフォード大学の心理学専門家ケヴィン・ダットンは、精神病質者(サイコパス)の主な特徴を以下の様に定義している[13]

中でも、最大の特徴は「良心の欠如」であり、他人の痛みに対する共感が全く無く、自己中心的な行動をして相手を苦しめても快楽は感じるが、罪悪感は微塵も感じない[14][要ページ番号]。「人の人権尊厳を平気で踏みにじる行動をしながら、そのことに心が動かない」という特徴があり、良心の呵責なく他者を傷つけることができる[15]。精神病質者の大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者(=マイルド・サイコパス(※後述))であるとされている。このようなマイルド・サイコパスは、社会的成功を収めることも多いとされている。

犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは以下のように定義している。

中野信子により以下のような具体的な特徴が挙げられている[16][要ページ番号]

  • 「良心の欠如」「表面的な愛想の良さ」「言葉の巧みさ」「節操のなさ」「長期的な人間関係の欠如」という特徴がある。
  • ありえないようなウソをつき、常人には考えられない不正を働いても、平然としている。ウソが完全に暴かれ、衆目に晒されても、全く恥じるそぶりさえ見せず、堂々としている。それどころか、「自分は不当に非難されている被害者」「悲劇の渦中にあるヒロイン」であるかのように振る舞いさえする。
  • 外見は魅力的で社交的。トークやプレゼンテーションも立て板に水で、抜群に面白い。だが、関わった人はみな騙され、不幸のどん底に突き落とされる。性的に奔放であるため、色恋沙汰のトラブルも絶えない。
  • 長期的なビジョンを持つことが困難なので、発言に責任を取ることができない。過去に語った内容とまるで違うことを平気で主張する。矛盾を指摘されても「断じてそんなことは言っていません」と、涼しい顔で言い張る。経歴を詐称する。
  • 残虐な殺人や悪辣な詐欺事件をおかしたにもかかわらず、まったく反省の色を見せない。そればかりか、自己の正当性を主張する手記などを世間に公表する。
  • ネット上で「荒らし」行為をよくする。
  • 愛情の細やかな人の良心をくすぐり、餌食にしていく。自己犠牲を美徳としている人ほどサイコパスに目をつけられやすい。
  • 脳の一部の領域の活動・反応が著しく低く「不安恐怖を感じにくい」「モラルを感じない」「痛々しい画像を見ても反応しない」などの特徴がある。脅威への自動検出と対応に問題があるにもかかわらず、恐れを感じることがある[17]
  • 他者への共感は欠如しているが、国語の試験問題を解くかのように、相手の目から感情を読み取るのは得意である。しかし他人の恐怖や悲しみを察する能力には欠ける[18]
  • 都会を好む、都会と相性がいい[19]

コーセラのオンライン対談講座で、イェール大学の心理学専門家ポール・ブルームは精神病質者について

「私が思うに世界を良くも悪くも変えている人の心理機構は、感情移入においては中度から低度である反面、その他の倫理的感情においてしばしば高度な人です。」


(I think the psychology of somebody who changes the world for better or worse is somebody who is medium to low in empathy, but often high in other moral emotions.)

と述べている[20]。対談者のクリスティーナ・スターマンズ(Christina Starmans)から紹介された質問「精神病質者たちは世界の最悪な人々の一部です。彼らは酷いことをしています。では私たちは、低感情移入的または精神病質的な人々の手に世界を委ねるべきでしょうか?」[* 2]に対し、ブルームは次の発言で回答している[20]

「すると精神病質者たちは実に感情移入が欠如〔不足〕していて、精神病質者たちは悪い人々です、定義上は。しかし、感情移入が欠如している他の個々人は悪い人々ではありません。

自閉症を持つ個々人がその一例で、感情移入が欠如しています。ほとんどの検査では、精神病質者たちよりもはるかに低感情移入的です。でも彼ら〔自閉症患者たち〕は悪い人々ではありません。彼らは世界を悪化させません。彼らはしばしば犠牲者たちです、その、残酷なことの。でも残酷な加害者たちになることは滅多にありません。そしてそれが示唆するのは、感情移入の欠如それ自体が人間を悪い人にすることはないということです。
それと、それとこれも覚えておいてください。つまり、つまり人は精神病質者たちや攻撃的な人々の中に感情移入が欠如しているのを見出しますが、それはしばしば状況次第なんです。言い換えると、彼らの脳が低感情移入的だから彼らが悪いことをするわけではありません。むしろ、彼らが悪いことをするのは多種多様な理由があるからです。衝動制御の低さ。しばしば害意がある欲求など。そうして悪いことをしていく途中で、彼らは自らの感情移入を引き下げるのです。」


(So psychopaths do lack empathy, and psychopaths are bad people, by definition. But other individuals who lack empathy are not bad people.
Individuals who have autism for instance lack empathy. By most tests are far less empathetic than psychopaths. But they're not bad people. They don't make the world worse. They're often the victims of, of cruelty but very rarely the perpetrators of it. And what that suggests is, that lack of empathy per se doesn't make you into a bad person.

Also, also keep in mind that, that the lack of empathy you see in psychopaths and in aggressive people is often a situational thing. In other words, it's not that their brains are low empathy and then they do bad things. Rather, they do bad things for all sorts of reasons. Low impulse control. Often malevolent desires and so on. And then in the course of doing bad things they turn down their empathy.)[20]

マイルド・サイコパス[21]

サイコパスの症状はグレーゾーン的であり「サイコパス的な脳のつくりを持ちながら、反社会性傾向はなく、攻撃性が社会的に許容される程度(重犯罪を犯さない[22])」のサイコパス(→#原因、脳の特徴)も存在しており、身近な日常に紛れ込んでいる可能性も高い。このような、社会的に適合・成功しているケースを「マイルド・サイコパス(または成功したサイコパス)」と呼ぶこともある。

影響力

人がサイコパスに騙されやすい理由として、人間の脳には以下3つの特性があるため、もともと自身で意思決定を行わず、何かを信じ、信じたことに従っていた方が、脳に負担がかからず楽という習性がある為である[25][要ページ番号][26]

  • 認知的負荷(自分で判断することが負担で、それを苦痛に感じる)
  • 公正世界誤謬(人間の行いに対して公正な結果が返ってくるものである、と考える思い込みである)
  • 認知的不協和(自身の中で矛盾する認知を同時に抱えて不快感(葛藤)をおぼえると、その矛盾を解消しようと、都合のいい理屈をつくりだす)

なぜサイコパスは魅力を有するのかという疑問のひとつの答えとして、南カリフォルニア大学における神経学的研究結果が挙げられる[27]。それによると、犯罪的な嘘つきは、通常の人と違い、脱抑制状態になることなく嘘をつけるようにできているという。

女性の心理学者が診断していた男性のサイコパスに恋して彼の逃亡を幇助したという話が知られている(『診断名サイコパス』,p.213-214)。

ロバート・ヘアは「世の中の全ての本を読んでも、サイコパスの破壊的影響力から守られるということはない。専門家も含めて、誰もが騙され、操られ、ペテンにかけられ、当惑の果てに取り残される。優秀なサイコパスは、どんな相手の心の琴線でも協奏曲を奏でることができる。」と述べている(『Without Conscience』,Ch.13 A Survival Guide, p.207)。

サイコパスと結婚した経験があり、『Just Like His Father?(父親と同じ?)』の著者でもあるリアン・リーダム精神科医は、「サイコパスと一緒に住むと、サイコパスと同じ視点で世の中を見るほどに変わりうるものなのでしょうか?」という問いに対して、「答えは確実にイエスです。それは、あなたが如何にサイコパスを知っていようとも、サイコパスと一緒に生活をする、しないに関わらず、サイコパスといかなる関係をもつときにも起こることです。」と述べている[28]

サイコパスと職業、組織内のサイコパス

ケヴィン・ダットンの調査による、サイコパスの多い職業の上位10位は次のとおり[13]

また、ヘアは、次のような職業の者に多いと推測している[29]

また、他にも次のような者にも多いとしている[29]

企業内のサイコパス

彼らの特性が原因で、サイコパスは、組織内の位置としては組織下層部よりも上層部に多いと考えられており、とりわけ企業に存在するサイコパスはコーポレート・サイコパス (corporate psycopath) と呼ばれ、長年安定して営まれてきた企業をときに破滅へと導く原因になり得ると考えられはじめている[30]。コーポレート・サイコパスには以下の様な特徴がある[31][要ページ番号]

  • 「変化」と「スリル」を好むため、様々なことが次々起こる状況に惹かれる。
  • 自由な社風になじみやすい。ラフでフラットな意思決定が許される状況を利用する。
  • 他人を利用することが得意な為、リーダー職に適正がある。スピードが速い業界などでは、本性が暴かれる前に、周りの状況が変化するため都合が良い。一般社会ではサイコパスの発生率は1%だが、組織の指導的地位にいる人で見ると4%になるという研究がある[32]
  • 口ばかりうまくて地道な仕事はできないタイプが多い。
  • 職場の環境を「協調し合う場所」というより「競争的なもの」であると捉える。

サイコパスと考えられる著名人


注釈

  1. ^ 良心をもたない人たち』では、訳者あとがきにも述べられているように、ソシオパス、反社会性パーソナリティ障害、サイコパスがほとんど区別されていない。
  2. ^ 原文は“Psychopaths are some of the worst people in the world. They do terrible things. So should we be putting the world in the hands of people who are low empathy or psychopathic?”
  3. ^ ハーバード大学の専門家グループによる非専門家向けの啓蒙書『サイコパスとサイコパシーに関する考察:よくある質問に対する答えと事例 ("Thinking About Psychopath and Psychopathy: Answers to Frequently Asked Questions With Case Examples")』(2006) - iUniverse によれば、「ジム・ジョーンズが何の精神疾患を有していたかは多少の議論の余地はある。彼について知られている全てのことに基づいて言えば、彼は完全サイコパスであったように思われる」(同、148頁)とある。ジム・ジョーンズは、子供の頃から猫を殺してお葬式ごっこをするなどの行為障害がみられた(Stanley Nelson, “Jonestown: The Life and Death of the People’s Temple,” Fireflight Media, October 20 2006, compact disk, https://www.youtube.com/watch?v=ydHRESPjBxg.)が、成人後はインディアナポリス人権委員会(Indianapolis Human Rights Commission)委員長、サンフランシスコ住宅管理委員会(San Francisco Housing Authority Commission)委員長といった公職を歴任し、当時の大統領夫人ロザリン・カーター(Rosalynn Carter)の表敬訪問も受けている(Reiterman, Tim, and John Jacobs. Raven: The Untold Story of Rev. Jim Jones and His People. Dutton, 1982. ISBN 978-0-525-24136-2,p.66,p.266,p.303)ので、成功したサイコパスであったともいえる。ジム・ジョーンズは、成功したサイコパスと完全サイコパスが必ずしも相反する概念ではないことを示す好例である。
  4. ^ テッド・バンディは、サイコパシーのポスターボーイとして有名であるが、実際には少年期犯罪や早期の行為障害がなく、PCL-R の得点もサイコパスと呼ばれるには少し足りない。サイコパシーの特性を示さなかったわけではないが、典型的なサイコパスとはいえない(『Thinking About Psychopath and Psychopathy: Answers to Frequently Asked Questions With Case Examples』, p.204)。
  5. ^ 内田クレペリン精神検査の元となる「作業曲線」を発見した人物。
  6. ^ ただし、クレックレー自身は「部分的サイコパス(: partial psychopath)」という言い方をしている。このタイプのサイコパスは、例えば、『社内の「知的確信犯」を探し出せ』において、「デイヴ」というキャラクターを用いて素人向けに説明されている。

出典

  1. ^ 小学館 2020, p. 「精神病質」.
  2. ^ Britannica Japan Co., Ltd. 2020, p. 「精神病質」.
  3. ^ 赤羽 2012, p. 108.
  4. ^ 加戸 et al. 2013, p. 15.
  5. ^ Lykken, D. T. "The Antisocial Personalities", Psychology Press, 1 edition (May 3, 1995), 7頁。
  6. ^ http://karapaia.com/archives/52252648.html
  7. ^ 原田隆之による書籍の抜粋記事、100人に1人がサイコパス?!──身近な「冷血」とどう付き合うか 原田隆之『サイコパスの真実』より じぶん堂
  8. ^ 『サイコパス』中野信子,文春新書
  9. ^ 『サイコパスの真実』(原田隆之、ちくま新書)
  10. ^ CG77: Antisocial personality disorder: Treatment, management and prevention (Report). 英国国立医療技術評価機構. (2009-01). http://www.nice.org.uk/guidance/cg77/. 
  11. ^ 『サイコパス』文春新書P194
  12. ^ サイコパス-冷淡な脳-、25p
  13. ^ a b 英国心理学者 サイコパスが多い職場上位10を発表
  14. ^ 『サイコパスの真実』(原田隆之、ちくま新書)
  15. ^ https://www.shigotoba.net/expert_interview_1906_tamerainaku.html
  16. ^ 『サイコパス』文春新書
  17. ^ Psychopaths do feel fear” (オランダ語). Radboud Universiteit. 2021年10月10日閲覧。
  18. ^ Saikopasu : Reitanna nō. James Blair, Derek Robert Mitchell, Karina Blair, Hiroki Fukui, 裕輝 福井. Tōkyō: Seiwa Shoten. (2009). ISBN 978-4-7911-0713-1. OCLC 674623454. https://www.worldcat.org/oclc/674623454 
  19. ^ 『サイコパス』文春新書P221
  20. ^ a b c Moralities of Everyday Life Week 2 Office Hours (2015) https://www.coursera.org/lecture/moralities/week-2-office-hours-2015-5Ohrr
  21. ^ https://www.shigotoba.net/expert_interview_1906_tamerainaku.html
  22. ^ https://www.shigotoba.net/expert_interview_1906_tamerainaku.html
  23. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  24. ^ https://keiei.proweb.jp/news/1/1375/1883/
  25. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  26. ^ Lerner, M.J. & Montada, L. (1998). An Overview: Advances in Belief in a Just World Theory and Methods, in Leo Montada & M.J. Lerner (Eds.). Responses to Victimizations and Belief in a Just World (1–7). Plenum Press: New York.
  27. ^ Liars' Brains Wired Differently https://news.usc.edu/22586/Liars-Brains-Wired-Differently/
  28. ^ Can victims become like the psychopath?(サイコパスの犠牲者はサイコパスのようになりますか?) http://www.lovefraud.com/2008/10/03/can-victims-become-like-the-psychopath/
  29. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x 『Snakes in suits』p194、診断名サイコパスp32
  30. ^ Clive R. Boddy (2011). “The Corporate Psychopaths Theory of the Global Financial Crisis”. Journal of Business Ethics (Springer) 102 (2): 255-259. doi:10.1007/s10551-011-0810-4. http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10551-011-0810-4. 
  31. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  32. ^ ためらいなくハラスメントを起こす「職場のサイコパス」があなたの隣にもいる?~筑波大学人間系教授 原田 隆之氏インタビュー アスクル みんなの仕事場
  33. ^ 『サイコパス』文春新書 P24~30
  34. ^ Moralities of Everyday Life
  35. ^ サイコパス-冷淡な脳-第二章
  36. ^ Hare, Robert D.; Neumann, Craig S. (2008). “Psychopathy as a Clinical and Empirical Construct”. Annual Review of Clinical Psychology 4 (1): 217-46. doi:10.1146/annurev.clinpsy.3.022806.091452. PMID 18370617. http://www.hare.org/references/HareandNeumannARCP2008.pdf. 
  37. ^ Handbook of Personology and Psychopathology Stephen Strack, John Wiley & Sons, 21 Jan 2005. Chapter 15: Psychopathy as a Personality Construct (Ronald Blackburn).
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  39. ^ Hare RD. Manual for the Hare Psychopathy Checklist-Revised. Multi-Health Systems, 1991.
  40. ^ Skeem JL, Cooke DJ, "Is Criminal Behavior a Central Component of Psychopathy? Conceptual Directions for Resolving the Debate", Psychological Assessment, Volume 22, Issue 2, June 2010, Pages 433-445.
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  42. ^ a b 日経サイエンス2013年2月号サイコパス特集
  43. ^ CG77: Antisocial personality disorder: Treatment, management and prevention (Report). 英国国立医療技術評価機構. (2009-01). http://www.nice.org.uk/guidance/cg77/. 
  44. ^ サイコパス・インサイド117p
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  46. ^ 中野信子『サイコパス』文春新書
  47. ^ https://www.thats.pr.kyoto-u.ac.jp/2019/09/26/8535/
  48. ^ https://toyokeizai.net/articles/-/60647?page=2
  49. ^ a b c 英国国立医療技術評価機構 2009, Chapt.1.5.
  50. ^ Moralities of Everyday Life https://www.coursera.org/learn/moralities/
  51. ^ "Handbook of Psychopathy", Christopher J. Patrick PhD (Editor), The Guilford Press; 1 edition (October 18, 2005), 23, The "Successful" Psychopath, Jason R. Hall & Stepen D. Bennings, Conceptualization of noncriminal psychopathy, 460頁。






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