加速器 加速器開発の歴史

加速器

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/07 06:40 UTC 版)

加速器開発の歴史

1952年12月に完成した「理研・第3号サイクロトロン」のイオン加速器(国立科学博物館の展示)[6]

初期の加速器は粒子の加速に高電圧を利用するものであった。1928年にRolf Widerøeが線形加速器の実験に成功して[7][8]、その論文に触発されたアーネスト・ローレンスとDavid H. Sloanにより線形加速器を製造されたものの、当時の高周波電源の周波数では加速が不十分だったので、1931年に高周波の電場と磁場による軌道の保持を使った円型の加速器サイクロトロンが開発され、1934年にローレンスは特許アメリカ合衆国特許第 1,948,384号)を取得した。

1944年に位相安定性原理を加速に用いるシンクロトロンが誕生。1952年に強収束の原理が発見、粒子を加速するエネルギーはそれまでの1 - 10万倍になった。

初期の加速器では粒子を固定標的に当てて出てくる粒子を調べていたが、エネルギー効率が悪かったため2つの粒子をそれぞれ正面から衝突させるようになる。この方法で、エネルギーがより反応へ向けられることとなった。

日本では1933年に、当時は台北帝国大学教授だった荒勝文策がアジアで初めてコッククロフト・ウォルトン型加速器を作り、原子核人工変換の実験を成功させ、続いて大阪帝国大学菊池正士も成功した。1936年に大阪大学でサイクロトロンの建設が始まり、1938年に完成、理化学研究所仁科芳雄博士らが1937年から陽子サイクロトロンを建設した[9][10]第二次世界大戦前・戦中に日本国内に設置されたサイクロトロンは理化学研究所に大小2台、大阪大学に1台、京都大学に1台(建設中)あったが、太平洋戦争大東亜戦争)の敗戦でGHQの指示によりサイクロトロンが破壊された[11][12]。当時の部品で現存するのは、「ポール・チップ」と呼ばれる磁極として使われた鉄製円盤(直径約1メートル、厚さ約0.15メートル、重さ約250キロ)1枚のみである。今まで部品は全て廃棄されていたと思われていたが、京都大学の研究者が保管し続けていたという[13]

1951年5月に来日したローレンスの助言により同年12月、科研(理研)で小型サイクロトロンの建設が始まり、翌1952年12月に運転を始めた。東北大学北垣敏男による機能分離型強収斂の提案がなされる、これにより理論上100億電子ボルト(10GeV)以上の出力が可能になった。1961年に完成したのが東京大学原子核研究所の7億eV(700MeV)電子シンクロトロン。電子シンクロトロンは1966年には13億eV(1.3GeV)に到達。1971年に高エネルギー物理学研究所(KEK、現・高エネルギー加速器研究機構)が発足し、陽子シンクロトロンの建設を開始。そして1976年、120億eV(12GeV)の陽子シンクロトロンが完成した。

超伝導加速空洞モジュール

1986年に完成したKEKのトリスタン電子・陽電子コライダーはそれぞれの粒子を250億eV(25GeV)まで加速して衝突させ、重心系衝突エネルギー500億eV(50GeV)に到達した。1988年から世界で初めて超伝導加速空洞を大規模に導入し、1989年にはビームエネルギー320億eV(32GeV)を達成した(なお超伝導加速空洞はトリスタン実験以来、様々な大型粒子加速実験装置で採用されることになった)[14]

1994年にKEKのトリスタン電子・陽電子コライダーの後続であるKEKB加速器(B-Factory)の建設が開始、1999年に完成。現在に至る。


  1. ^ 豊かな未来を、先端加速器科学技術の力で。一般社団法人 先端加速器科学技術推進協議会(2018年5月9日閲覧)。
  2. ^ ラザフォードの実験により必要なエネルギー量は 7.7MeV 程度必要ではないかと考えられていたが、この実験により結局 200keV 以下でも原子核変換が可能であることが判明した。
  3. ^ 物理学会(1981) pp.2-3
  4. ^ エネルギー電子は軌道を曲げるとを発するので(シンクロトロン輻射)、大強度の高エネルギー光線を得る目的で電子シンクロトロンを用いる場合がある。このような施設を放射光施設と呼んでいる。
  5. ^ a b 新間啓三、ほか「60吋(大型)サイクロトロン建設報告」『科学研究所報告』1951年、第27輯、第3号、pp.156 - 172
  6. ^ 理研・再建サイクロトロンの加速箱 国立科学博物館
  7. ^ Rolf Widerøe. “with sketches and computations on the ray-transformer”. original copy-books from 1923 to 1928 (ETH-Libr.Zurich) Hs 903: 633-638. 
  8. ^ Rolf Widerøe (17 Dec 1928). “Über ein neues Prinzip zur Herstellung hoher Spannungen” (German). Archiv für Elektrotechnik 21 (4): 387–406. doi:10.1007/BF01656341. 
  9. ^ 初期のサイクロトロン覚え書き
  10. ^ cyclotron history
  11. ^ サイクロトロンを米軍が接収海中投棄した経緯と阪大には2台と記録された根拠
  12. ^ 破壊されたサイクロトロンこぼれ書き
  13. ^ サイクロトロン部品が現存 破棄のはず… 戦中に京都帝大開発京都新聞2007年8月14日[リンク切れ]
  14. ^ トリスタン計画報告書
  15. ^ 読売新聞』朝刊2018年5月2日【改革・開放40年】第2部「科技強国」(2)「実験施設狙うは一流」(1面)、「ノーベル賞へ巨額投資」(3面)。


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