EU指令とフランス国内法改正
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「著作権法 (フランス)」の記事における「EU指令とフランス国内法改正」の解説
「著作権法 (欧州連合)」も参照 フランスは欧州連合 (EU) 加盟国として、EUの各種著作権指令に基づき、必要に応じて国内法化を行っている。EU指令の国内法化とは、既存の国内法ではEU指令の求める結果・水準を満たせない場合、国内法を改正あるいは新たに立法する手続を指し、既に国内法で満たしている場合は、特に国内法化は発生しない。EU指令が発効してから、各国が国内法化を完了させるまでの導入期限は、指令ごとに個別設定されている。以下、代表的なEU著作権指令 (左) とフランス国内法化 (右) を対比してまとめる。 1993年の欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令 (93/98/EEC指令) -- 1997年3月27日法を成立させて、フランスでもすべての著作物の著作財産権保護期間を70年に延伸させた。音楽著作物のみは、1985年7月3日法ですでに70年に延伸していたが、1997年3月27日法によって音楽以外も70年に合わせている。なお、93/98/EEC指令はその後2006/116/EC指令により改廃され、さらに2011/77/EU指令で改正されている。2011/77/EU指令に伴い、フランスでは2015年に国内法化の改正を行っているが、国内法化の期限である2013年1月11日から2年以上遅延したことになる。 2000年の電子商取引指令(英語版) (2000/31/EC指令) -- インターネット・サービスを提供したISPなどに対して、侵害コンテンツを削除するよう求めるデジタル経済法(フランス語版) (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)が2004年6月21日に成立している。またデジタル経済法以外にデクレ (政令) 1本とオルドナンス(英語版、フランス語版) (大統領による委任立法) 1本が発せられている。電子商取引指令はEU加盟各国で国内法化の期限日が個別に設定されており、フランスは2002年1月17日であったことから、2年以上遅延した。 2001年の情報社会指令 (2001/29/EC指令) -- WIPO著作権条約を具現化するために成立した、EU著作権指令の根幹を成す指令である。フランスでは2006年8月1日法、通称: DADVSI(フランス語版、英語版)で情報社会指令を国内法化し、さらに2009年制定のHADOPI法で強化・補完した。詳細は後述する。 2001年の再販権指令(英語版)(2001/84/EC指令、追求権指令とも) -- フランスは世界で初めて追及権を認めた国であり、追及権指令が出る前に基礎的な法制度は整っていた。2006年8月1日法により、部分的に改正している。 2004年の知的財産権の執行に関する指令(英語版) (2004/48/EC指令) -- 当指令を受けて、フランスでも著作権侵害の救済に関して国内法化を行っている。2007年10月29日法 (法令番号: 2007-1544) および2008年6月27日法 (法令番号: 2008-624) により、民事訴訟手続上、著作権侵害者の個人情報を得ることを合法化したほか、金銭賠償に関しフランス著作権法が改正されている。当指令の国内法化期限は2006年4月29日に設定されており、1年以上遅延した。 2014年の著作権集中管理指令 (2014/26/EU指令) -- フランスは世界初の著作権管理団体発祥の地であり、既に2000年から著作権管理団体を統制するために監督委員会が設けられていた。2014年のEU指令を受け、監督委員会の役割を拡大させる法改正を2016年7月7日に成立させている。 2019年のDSM著作権指令 (2019/790/EU指令) -- DSM著作権指令は2001年の情報社会指令以来の大型改革である。2019年6月7日に発効し、フランスを含む各国は2年後の2021年6月7日までに国内法化を完了させる義務を負っている。 情報社会指令と国内法化の遅延 インターネットを介した著作物の流通における技術的保護 (いわゆるデジタル著作権管理、DRM) を定めた情報社会指令 (2001/29/EC指令) は、フランス国内でも著作権法の改正が複数回発生している。2006年制定のDADVSIでは、個人による違法ファイルの共有を初めて刑事罰として規定した。しかしDADVSIが成立する過程で紛糾し、法案は修正・削除が繰り返された結果、国内法化の期限である2002年12月から3年半以上も遅延した。その結果、2004年2月に欧州委員会はフランスを欧州司法裁判所に提訴し、2005年1月にフランスへ制裁金を科す判決が下っている。なお、情報社会指令の国内法化に苦戦したのはフランスだけではない。国内法化の期限に間に合ったのはギリシャとデンマークの2か国のみであり、特に遅延が著しかった国々 (ベルギー、スペイン、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン) はフランス同様に提訴されている。 国内法化がフランスで大幅に遅れた要因は複合的であるが、もともとフランスは著作権に限らず、EU指令全般で国内法化の遅延比率が他国よりも高いことが欧州委員会から指摘されている。その文化・政治的背景として、自国で決めていない指令を導入することへの抵抗感、政治的圧力団体によるロビイングによって立法過程が複雑化していること、そして国会提出法案の入念なチェック手続の3点が挙げられる。 DADVSIを巡っては、フランスで紛糾の種となったのが法案の第1条に盛り込まれていた「グローバル・ライセンス」(仏: licence globale) である。これはインターネットユーザが毎月一定額を著作権者に支払うことで、音楽や映画などのデジタルファイルを合法的にPeer-to-peer (P2P) で共有できるようにする制度であった。フランス政府は反対したものの、著作権管理団体や消費者団体などからの強い支持を背景に、中道左派の社会党や、後の大統領を務めたニコラ・サルコジを擁する保守系の国民運動連合などが賛成に回り、2005年12月にフランス国民議会 (下院) はグローバル・ライセンス条項を含む法案を可決した。しかしながら政府が多数派党に法案反対を働きかけた結果、最終的にグローバル・ライセンスは廃案に追い込まれている。対案として一般ユーザではなくISPに対して賦課金を課す提案が提出されるも、こちらも廃案となった。 また、DADVSI法案の第7条は欧米メディアから「iPod法」と呼ばれて批判を受けた。この条項では、楽曲ファイルをダウンロードした一般ユーザが他社製の再生機器を使って鑑賞できるよう、アクセスコントロール技術に互換性を持たせることを義務化する内容であった。そのため、iTunesで楽曲配信し、iPodで楽曲再生するビジネスモデルを展開していた米国アップル社などに打撃を与えると懸念されていた。しかし、相応の金銭的補償なしに楽曲配信事業者に互換性の義務を負わせてはならないとして、フランスの司法機関である憲法評議会が当条項の違憲性を指摘して、大幅な修正に至っている。 さらにDADVSIを補完する形で、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的としたHADOPI法が2009年に制定されている。しかしこれらの改正法の内容を巡って、利害関係者や世論の間で激しい論争が起こった。HADOPI 1法については、その一部が憲法評議会にて違憲と判示され、これに修正対応したHADOPI 2法が追加成立した経緯がある。
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