30大綱での検討
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 13:51 UTC 版)
「海上自衛隊の航空母艦建造構想」の記事における「30大綱での検討」の解説
2018年には防衛計画の大綱の改定が予定されていたことから、同年3月、自由民主党の安全保障調査会が政府への提言骨子案に「多用途防衛型空母」の保有・検討を盛り込んでいることが公表され、同会会長の中谷元元防衛相は、いずも型護衛艦を空母に改修する案を念頭に置いているとした。その後、11月からは自民・公明の与党両党による「新たな防衛計画の大綱等に関するワーキングチーム(WT)」が設置されて会合を重ねていたが、12月の会合ではこの問題も俎上に載せられており、専属の戦闘機部隊は設けず、航空自衛隊が新たに導入するF-35Bで構成する部隊の常時艦上展開は行わないことや、戦闘機の補給・整備能力を攻撃型空母並みとはしないことなどを説明して、公明党の了承を得ようとしていることが報じられた。改修後の呼称について、12月5日に行われたWTの会合では「多用途運用護衛艦」と呼ぶこととされており、また艦種記号については航空機を表す「A」を付して「DDA」に変更されるのではないかとの見方も出ていたが、同月13日にまとめられた確認書では「多機能のヘリコプター搭載護衛艦として従事する」とされており、「多用途運用護衛艦」の呼称は撤回され、艦種記号も「DDH」のままとなった。ただし12月14日、安倍晋三首相は改修後のいずも型について「わかりやすい名称を検討すべきだ」との認識を示したとされ、艦種呼称・記号については変更される可能性を残した。 これらの議論を経て、同年12月18日に発表された30大綱では「戦闘機の運用の柔軟性を更に向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる」とし、あわせて発表された31中期防では、必要な場合にSTOVL機を運用できるようにいずも型の改修を行う旨が明記された。なお、改修後も同型が多機能の護衛艦として多様な任務に従事することや、憲法上保持し得ない装備品に関する従来の政府見解に変更がないことが確認された。なお、フォトジャーナリストの柿谷哲也によれば同年の時点で航空自衛隊では既にF-35Bをいずも型で運用する準備に着手しており、2018年春に航空自衛隊百里基地で行われた取材の際、第301飛行隊のパイロット談話室に、海上自衛隊のひゅうが型護衛艦の2番艦である「いせ」のイラストが飾ってあったという。第301飛行隊はすでに「いせ」の艦上で研修を受けているという。2019年2月6日には、海上自衛隊の幹部が佐世保基地に配備されているアメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦「ワスプ」を訪れ、F-35Bなどを視察したことをアメリカ海軍第7艦隊が発表した。 なお改修の目的として、防衛省防衛政策局防衛政策課の松尾友彦企画調整官は太平洋の防空を挙げており、衆議院安全保障委員会の岸信夫委員長も、太平洋上で戦闘機が離着陸できる基地が硫黄島にしかないことを指摘するとともに、複数事案対処およびローテーションの維持の観点から追加建造に言及している。2019年8月に来日したバーガーアメリカ海兵隊総司令官は記者会見で、「(日米の)どちらもF-35を飛ばし、着艦可能な艦艇を持っていれば、運用は柔軟になる」、「自衛隊のパイロットがアメリカ海軍の艦艇に着艦し、アメリカ海兵隊のパイロットが海上自衛隊の艦艇に着艦する。これが最終目標だ」と発言し、事実上の空母に改修される「いずも型」を日米で共同運用する方針を明らかにしている。 軍事ジャーナリストの竹内修によると、いずも型の事実上の空母への改修とF-35Bの導入は海上自衛隊主導ではなく、内閣総理大臣官邸と国家安全保障会議(NSC)、自由民主党国防部会の主導で決まったとされる。いずも型の改修とF-35Bの導入という結論に落ち着くまでの過程では、強襲揚陸艦の新規建造案や、F-2後継機(将来戦闘機)を国内開発し艦載機型を開発し、カタパルトを備えたより本格的な空母を建造する案が俎上に載せられていた。いずも型の改修とF-35Bの導入が採用された理由として、空母を保有することに対する国内外の批判への配慮や、厳しい財政状況への考慮など複合的な理由のほか、いきなり本格的な空母や強襲揚陸艦を導入する前に、いずも型を改修してF-35Bを運用し、ノウハウの蓄積や問題点を洗い出した上で、次に進むべきかどうかを検討すべきとの、慎重かつ合理的な意見が決め手となったという。このため竹内は、改修後のいずも型は海上自衛隊が固定翼機の運用ノウハウを蓄積する「練習空母」としての役割と、将来建造される固定翼機を運用する艦艇の仕様を定めるための「実験艦」としての役割を担うことになるとしている。 2021年9月15日、空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群の指揮官であるイギリス海軍のスティーブ・ムーアハウス海軍准将は読売新聞のインタビューにおいて、日本とイギリスが空母を共同使用することや、日英のF-35Bを統合的に運用することを提案し、日英関係を新たな段階に引き上げる具体策として模索するべきだとしている。また、同年4月26日にイギリスのシンクタンクである国際戦略研究所(IISS)の上席フェローであるニック・チャイルズはインド太平洋に日本を含む同盟国合同の空母打撃群を創設する構想を発表している。この構想はアメリカ、イギリス、フランスの3ヶ国の空母を中心に、日本、オーストラリア、韓国の空母を加えて多国間の空母打撃群を編成し、アメリカ海軍の空母の不在によるインド太平洋地域での自由主義諸国のプレゼンスの低下を防ぐというものである。前出の竹内によると、日本の政府与党の中にもチャイルズと同様の構想が存在するとされ、航空自衛隊のF-35Bは日本の防空能力や継戦能力の強化だけでなく、日本政府の外交方針である「自由で開かれたインド太平洋」を実現するためのツールとしての役割も期待されており、海上自衛隊のいずも型と組み合わせて同盟国や友好国と協力することで得られるプレゼンスによりインド太平洋の秩序を維持し、海洋支配を強める中国との紛争を未然に防ぐために有効なツールとなり得るとしている。 上記の通り、いずも型に搭載するF-35Bは航空自衛隊が運用するが、元海上自衛隊呉地方総監の池田徳宏は航空自衛隊のF-35B導入は海上自衛隊の欠落機能である艦隊防空における縦深性確保を目的とするものではなく、日本周辺における航空優勢確保が目的であることを指摘した上で、今後いずも型護衛艦に航空自衛隊のF-35Bを搭載して南シナ海からインド洋における長期展開行動である「インド太平洋方面派遣訓練(IPD)」を継続すれば、海上自衛隊は艦隊防空における欠落機能獲得というゴールに近づいていくだろうとしている。ほか、海上自衛隊第1護衛隊群司令の小牟田秀覚海将補は、「海上作戦においてどうSTOVL機を使うかを考え、作戦遂行可能なレベルにまで部隊を鍛え上げなければならない」とした上で、「その過程では、航空自衛隊やアメリカ軍の力も必要となる」として含みを持たせた発言をしている。
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