枕
『神道集』巻8-46「釜神の事」 甲賀郡由良の里の百姓が、山中で野宿し、木の根を枕に寝る。光る物が飛来し、それにむかって木の根の下の何物かが問いかける声が、枕を通して聞こえる。「今夜、由良の里に男児と女児が生まれ、男児は貧運、女児は福運の持ち主だ」との情報を、百姓は得る。百姓が里へ帰ると、自分の家に男児が、東隣の家に女児が生まれていた→〔同日・同月〕1a。
『炭焼き長者』(昔話)「再婚型」 東(あがり)長者と西(いり)長者が、磯の寄木を枕に寝る。西長者は眠れずに、にら(龍宮)の神と寄木が話し合うのを聞く。「今夜、東長者の家に生まれた女児に塩1升の位(=福運)をつけ、西長者の家に生まれた男児に竹1本の位(=貧運)をつけた」というので、西長者は驚き、「自分の貧運の息子を、東長者の福運の娘と結婚させよう」と考える(鹿児島県大島郡)。→〔同日・同月〕1a。
『創世記』第28章 旅の途中、ヤコブは石を枕として眠り、夢を見る。天に達する梯子を神の使いたちが上り下りし、神がヤコブに「この地を汝と子孫に与えよう。汝の子孫は繁栄するだろう」と語る。ヤコブは目覚めてから枕の石を立てて柱とし、油をそそいだ。
*膝枕を通して、神からのお告げを聞き、夢を見る→〔膝〕3の『大鏡』「兼家伝」・『古事記』中巻。
『太平広記』巻283所引『幽明録』 楊林という男が焦湖廟に参拝し、廟巫から「良縁を望むか?」と聞かれて、「はい」と答える。廟巫は楊林を、廟内にある枕のところへ連れて行く。枕には裂け目があり、楊林がそこから中に入ると、趙大尉という人物の邸があった。楊林はそこの娘と結婚し、6人の子をもうけて、数十年の間、幸せに暮らす。ふと目覚めると、楊林はもとどおり枕の傍にいた。
『枕中記』(唐・沈既済) 青年盧生が邯鄲へ向かう途中、街道の茶店で道士呂翁に出会い、自らの平凡な生活を嘆き訴える。呂翁は青磁の枕を渡し、盧生は枕に頭を乗せる。枕の両端の穴が大きくなり、彼は穴の中の世界へ入って行く。盧生は結婚し財をふやし、官吏として出世する。50年の栄華の後、臨終を迎えたところで、彼は目をさます。そこはもとの茶店の中だった〔*『邯鄲』(能)では、過去と未来を悟る不思議な枕で眠る。『金々先生栄花夢』(恋川春町)では、そばにたまたまあったふつうの枕で眠る〕→〔夢オチ〕5。
★3.枕の場所を変える(*枕に乗っている頭部の位置も変わる)と、体外に出ていた魂が身体に戻れなくなる。
『大鏡』「伊尹伝」 少将義孝は、皰瘡(もがさ)をわずらい重態になった時、「私が死んでも、通常の死者を扱う作法をしないで下さい。必ずこの世に戻って来ますから」と、母に遺言する。しかし、母が茫然としている間に、誰かが北枕にするなど義孝の遺体を動かしたため、彼の魂は身体に戻れなくなった〔*類話である『今昔物語集』巻15-42では、義孝の兄挙賢が病死し、閻魔王から「まだ余命がある」と言われて現世へ帰ったが、枕の位置を変えられたので、魂の入る所がなくなっていた、と記す〕。
『源氏物語』「葵」 葵の上は、息子夕霧を出産した後に急死した。以前にも、もののけが葵の上を何度も意識不明の状態におとしいれたことがあったので、左大臣家の人々は、葵の上の枕を動かさないようにして蘇生を願った。しかし、2~3日すると死相がはっきり現れてきたので、やむなく遺体を鳥部野へ運び、火葬した。
ざしきわらしの伝説 ザシキワラシは、夜中に寝ている人の枕を返す。小さい子供で、一本足・一つ目である。人に姿を見せずに、部屋の中を箒で掃除しているものだそうだ(岩手県江刺市稲瀬)。
枕返しの伝説 7人の杣(そま)が、山中で檜の大木を伐った。その後、7人は枕を並べて寝ている時に、枕返しにあって皆死んでしまった。伐られた檜の精のしわざだ、といわれた(和歌山県日高郡龍神村)〔*枕には、それを使っている者の魂がこもる、と考えられていた。枕を返すと、その枕で眠っていた者を死に追いやることになる〕。
★5.枕の下から金貨。
『二人兄弟』(グリム)KHM60 串焼きにした黄金の鳥の心臓と肝臓が、鍋の中へ落ちる。腹をすかせた双子の兄弟がそれを食べると、翌朝から、彼らの枕の下に金貨が1枚ずつ見つかる〔*黄金の鳥は伯父が食べるつもりだったので、伯父は怒る。双子の兄弟は家を追われて、旅に出る〕→〔生命指標〕1。
★6.枕の下に宝船の絵。
『日本永代蔵』(井原西鶴)巻4-1「祈る印の神の折敷」 染物屋が正直一途で長年勤勉に働き、正月には福運を願って枕の下に宝船の絵を敷いて寝るが、いっこうにその甲斐がない。あまりの貧乏のため染物屋は、「いっそ人の嫌う貧乏神を祀ろう」と考える→〔貧乏神〕1。
『太平広記』巻368所引『集異記』 劉玄という男のところに、黒衣の人物がやって来た。顔に七孔(目・耳・鼻・口)のない、のっぺらぼうだった。占い師が「古い器物が妖怪化したもので、あなたを殺そうとしている。まだ目がついていないうちに、退治せねばならない」と言うので、劉玄は妖怪を刀で斬った。すると妖怪は正体を現した。それは、祖父が使っていた古い枕だった。
『奇談異聞辞典』(柴田宵曲)「物に数あり」 ある人が陶(すえもの)で造った枕で昼寝をする顔の上へ、天井から鼠が転げ落ちて来た。鼠はこそこそと梁(うつばり)へ這い上がったので、枕を投げつけると、鼠には当たらず、枕が3つに割れた。枕の中に文字が染め付けてあり、「この枕、某の紀年に造る。これより幾年を経て、某の甲子、鼠に抛(なげう)つが為に壊る」と記されていた(『黒甜瑣語』3編ノ2)。
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