特定国立研究開発法人
独立行政法人通則法(独法通則法)に加えて特例法が適用される「国立研究開発法人」の中で、国家を代表する研究機関として特に指定され、さらなる特例が設けられる法人。
独立行政法人通則法に基づく従来の制度は、主に事務的・定型的な業務を効率的に行うことに重点を置くものであったことから、より研究機関の性質に馴染んだ新しい制度が望まれてきた。そこで、2010年から、一部の研究機関を「国立研究開発法人」に指定し、評価期間や予算の運用などについて、他の独立行政法人と異なる制度を設けることが検討された。さらに、国立研究開発法人の中から、特に重要な2-3法人を指定し、「特定国立研究開発法人」として追加の特例措置を設けることが検討された。
特定国立研究開発法人に指定された研究機関は、国家を代表する研究機関として位置づけられ、「世界最高水準の成果」を挙げることが期待される。総合科学技術会議や関係省庁からの影響力は他の国立研究開発法人よりも強いものとなり、国家戦略に基づく基礎研究や国家的に重要な技術の研究が行われることになる。民間や大学などでは実現困難な大規模研究、大規模プロジェクトの推進主体となることも期待されている。また、特定国立研究開発法人の指定にあたって、独立行政法人一般に求められてきた事業費、人件費の削減方針が見直されたことから、優れた研究者への給与増加なども可能になると見られている。
2014年3月に、文部科学大臣や科学技術大臣など4閣僚の間で合意が形成され、産業技術総合研究所(産総研)と理化学研究所(理研)が特定国立研究開発法人に指定される運びとなった。両機関は、論文の質や量などが国内の研究機関の中でトップレベルであり、特定国立研究開発法人に相応しい機関として認められた。
他方、特定国立研究開発法人の指定とほぼ同時期に、理化学研究所(理研)では「STAP細胞」の研究論文の是非を巡る問題が持ち上がり、大騒動であるかのように連日取り沙汰された。5月1日時点でSTAP細胞論文問題には決着がついておらず、理研の特定国立研究開発法人への指定も先送りとなる可能性が出つつある。
関連サイト:
4関係閣僚 合意内容 - 首相官邸ホームページ
研究開発法人に係る制度見直しに関する検討状況 - 総務省
国立研究開発法人(仮称)制度の在り方に関する懇談会における主な指摘事項 - 文部科学省
国立研究開発法人
(特定国立研究開発法人 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/20 15:03 UTC 版)
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国立研究開発法人(こくりつけんきゅうかいはつほうじん、英語: National Research and Development Agency[1])とは、日本の独立行政法人のうち主に研究開発を行う法人で、個別法によって定められたもの。
独立行政法人通則法の一部を改正する法律(平成26年法律第66号)によるもので、2015年(平成27年)4月1日より施行された。独立行政法人は、その業務の特性によって中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人(従前の特定独立行政法人に対応[2])の3つに区分されることとなった[3]。
研究開発を主たる事業とする独立行政法人は、研究開発の長期性、不確実性、予見不可能性、専門性などの特性を持つことから、該当する法人は、国立研究開発法人に変更され[3]、国立研究開発法人は3区分の中で最も自由度が高い[4]。
研究開発の成果を最大化することが望まれている一方で[5]、「導入される主務大臣の関与強化が縄張り意識や省益の維持に向かう」[6]、「(法人の評価が)お手盛り」[4]になる、などの懸念も示されている。
特定国立研究開発法人
国立研究開発法人のなかでも、特に世界トップレベルの成果が期待される法人、具体的には理化学研究所と産業技術総合研究所に対しては「特定国立研究開発法人(スーパー法人)」として、特例法を設け特別な措置が取られる予定であったが[4][7][8]、いわゆるSTAP細胞論文問題によって先送りとなった[9]。
2015年(平成27年)12月18日、総合科学技術・イノベーション会議は「特定国立研究開発法人(仮称)の考え方の改訂(案)」を公表し、これまでの「総合的な研究機関」のほか「特定分野で卓越した研究機関」を追加した。これに伴い上記2機関の他に物質・材料研究機構を加えるとした[10][11]。選定に際しては「研究成果の質」「研究分野の広がり」「研究成果の実用化」「自ら主体的に創造的な研究開発活動を行うことを主たる業務とする」の4条件が考慮された[12]。2016年(平成28年)5月には、これら3機関を特定国立研究開発法人に指定する新法が成立し、同年10月1日より施行となった[13]。
特定国立研究開発法人の特徴として、理事長の裁量によって研究者の給与を高額に設定することができるほか、日本国政府が特定の研究の実施を法人に要求することができること、また研究成果が十分でない場合には、監督省庁の国務大臣が理事長を解任する権限を持つことなどが規定されている[11][12][13]。
類似の制度として、国立大学法人においては指定国立大学法人制度が整備されてきている。特定国立研究開発法人に指定される機関が法律で定められているのに対し、指定国立大学法人は文部科学大臣が指定する制度となっており、指定先の追加や廃止は法改正が不要となっている[14]。
法律上の定義
「独立行政法人通則法の一部を改正する法律」は第186回国会で審議され、2014年6月に可決された[7]。以下に改正された独立行政法人通則法第二条第三項より抜粋する。
法人一覧
太字は、2016年10月1日より特定国立研究開発法人。[16]
内閣府所管
総務省所管
文部科学省所管
- 物質・材料研究機構[19]
- 防災科学技術研究所[20]
- 量子科学技術研究開発機構[21]
- 科学技術振興機構[22]
- 理化学研究所[23]
- 宇宙航空研究開発機構[24]
- 海洋研究開発機構[25]
- 日本原子力研究開発機構[26]
厚生労働省所管
- 医薬基盤・健康・栄養研究所[27]
- 国立がん研究センター[28]
- 国立循環器病研究センター[29]
- 国立精神・神経医療研究センター[30]
- 国立成育医療研究センター[31]
- 国立長寿医療研究センター[32]
農林水産省所管
経済産業省所管
国土交通省所管
環境省所管
脚注
出典
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- “新着情報《お知らせ》”. 農業生物資源研究所 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- “研究所の概要:ごあいさつ”. 農業環境技術研究所. 2015年5月16日閲覧。
- “沿革”. 電子航法研究所. 2015年5月16日閲覧。
- “沿革”. 港湾空港技術研究所. 2015年5月16日閲覧。
- ^ 科学技術振興機構 経営企画部 (2015年4月1日). “国立研究開発法人がスタートしました”. サイエンスポータル. 科学技術振興機構. 2015年4月6日閲覧。
- ^ 平成26年6月13日付(号外 第132号) - 官報
- ^ a b “国立研究開発法人審議会(仮称)について” (PDF). 文部科学省科学技術・学術政策局 (2015年2月3日). 2015年4月1日閲覧。
- ^ a b c “(社説)独立法人改革 省庁の別動隊では困る”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社): p. 14. (2015年2月5日)
- ^ 中村道治 (2015年3月). “3月号 理事長メッセージ「国立研究開発法人への移行に際して」”. JST news(広報誌). 科学技術振興機構. 2015年4月1日閲覧。
- ^ “(社説)研究開発法人 組織間の連携を急げ”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社): p. 8. (2015年2月23日)
- ^ a b 渡部晶 (2014年9月). “独立行政法人改革について〜3度目の国会提出で成立した独立行政法人通則法改正法案を中心に” (PDF). 財務省広報誌「ファイナンス」. 財務省. 2015年12月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月1日閲覧。
- ^ “研究開発法人に理研と産総研指定 4閣僚が合意”. 日本経済新聞. (2014年3月5日)
- ^ “「特定国立研究開発法人」の来年4月発足は困難に”. 日本経済新聞夕刊 (日本経済新聞社): p. 3. (2014年8月29日) 2015年4月1日閲覧。
- ^ “総合科学技術・イノベーション会議(第14回)”. 総合科学技術・イノベーション会議 (2015年12月18日). 2015年12月21日閲覧。
- ^ a b 理研など 高額雇用可能に 特定法人に指定、政府が新法提出へ 日本経済新聞 2015年12月18日
- ^ a b 3研究機関対象の特定法人法案を閣議決定 優れた研究者を好待遇 サイエンスポータル(科学技術振興機構) 2016年2月26日
- ^ a b 特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法 2016年5月11日成立
- ^ 指定国立大学(仮称)について 2016年4月7日閲覧
- ^ “第186回国会 「独立行政法人通則法の一部を改正する法律」”. 衆議院. 2015年4月1日閲覧。
- ^ “独立行政法人一覧(令和7年4月1日現在)” (PDF). 総務省. 2025年4月15日閲覧。
- ^ “機構概要”. 日本医療研究開発機構. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “沿革”. 情報通信研究機構. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “「国立研究開発法人」への名称変更のお知らせ”. 物質・材料研究機構 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “沿革”. 防災科学技術研究所. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “量子科学技術研究開発機構について”. 量子科学技術研究開発機構 (2015年4月1日). 2016年4月14日閲覧。
- ^ “国立研究開発法人科学技術振興機構法”. 科学技術振興機構. 2015年5月16日閲覧。“JSTの沿革”. 科学技術振興機構. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “研究所名称変更のお知らせ”. 理化学研究所 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “沿革”. 宇宙航空研究開発機構. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “組織概要”. 海洋研究開発機構. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “機構概要”. 日本原子力研究開発機構. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の設立について” (PDF). 医薬基盤・健康・栄養研究所 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “理事長ごあいさつ”. 国立がん研究センター. 2019年2月17日閲覧。
- ^ “理事長からのご挨拶”. 国立循環器病研究センター (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “法人名称の変更(国立研究開発法人化)について”. 国立精神・神経医療研究センター (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “国立研究開発法人国立成育医療研究センター中長期計画” (PDF). 国立成育医療研究センター (2015年4月1日). 2019年2月17日閲覧。
- ^ “沿革”. 国立長寿医療研究センター. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “農研機構の名称変更について”. 農業・食品産業技術総合研究機構 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “JIRCASについて:JIRCASとは”. 国際農林水産業研究センター. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “森林総合研究所へようこそ。”. 森林総合研究所 (2015年4月17日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “水産総合研究センターの名称変更のお知らせ”. 水産総合研究センター (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “研究所概要”. 産業技術総合研究所. 2015年5月16日閲覧。
- ^ “法人名称変更のお知らせ”. 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “平成27年4月1日に土木研究所は「国立研究開発法人土木研究所」としてスタートしました。” (PDF). 土木研究所 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “建築研究所は、平成27年4月1日に「国立研究開発法人建築研究所」としてスタートしました。”. 建築研究所 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “【お知らせ】独立行政法人から国立研究開発法人へ名称変更”. 海上技術安全研究所 (2015年3月31日). 2015年5月16日閲覧。
- ^ “法人名称の変更に関するお知らせ”. 国立環境研究所 (2015年4月1日). 2015年5月16日閲覧。
外部リンク
- 第186回国会 「独立行政法人通則法の一部を改正する法律」 - 衆議院
- 朝日新聞掲載「キーワード」『特定国立研究開発法人』 - コトバンク
- 日本大百科全書『国立研究開発法人』 - コトバンク
特定国立研究開発法人
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/07 19:15 UTC 版)
「国立研究開発法人」の記事における「特定国立研究開発法人」の解説
国立研究開発法人のなかでも、特に世界トップレベルの成果が期待される法人、具体的には理化学研究所と産業技術総合研究所に対しては「特定国立研究開発法人(スーパー法人)」として、特例法を設け特別な措置が取られる予定であったが、いわゆるSTAP細胞論文問題によって先送りとなった。 2015年(平成27年)12月18日、総合科学技術・イノベーション会議は「特定国立研究開発法人(仮称)の考え方の改訂(案)」を公表し、これまでの「総合的な研究機関」のほか「特定分野で卓越した研究機関」を追加した。これに伴い上記2機関の他に物質・材料研究機構を加えるとした。選定に際しては「研究成果の質」「研究分野の広がり」「研究成果の実用化」「自ら主体的に創造的な研究開発活動を行うことを主たる業務とする」の4条件が考慮された。2016年(平成28年)5月には、これら3機関を特定国立研究開発法人に指定する新法が成立し、同年10月1日より施行となった。 特定国立研究開発法人の特徴として、理事長の裁量によって研究者の給与を高額に設定することができるほか、日本国政府が特定の研究の実施を法人に要求することができること、また研究成果が十分でない場合には、監督省庁の国務大臣が理事長を解任する権限を持つことなどが規定されている。 類似の制度として、国立大学法人においては指定国立大学法人制度が整備されてきている。特定国立研究開発法人に指定される機関が法律で定められているのに対し、指定国立大学法人は文部科学大臣が指定する制度となっており、指定先の追加や廃止は法改正が不要となっている。
※この「特定国立研究開発法人」の解説は、「国立研究開発法人」の解説の一部です。
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