映画芸術とは? わかりやすく解説

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映画芸術

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/11 21:18 UTC 版)

映画芸術』(えいがげいじゅつ)は、映画芸術が発行する日本の映画雑誌である。季刊誌。発行人兼編集長は脚本家の荒井晴彦

概要

1946年清水光[1]、京都で[2]創刊する。

一度休刊しているところを、1955年[3]、後の沢村貞子の夫であり京都・都新聞(みやこしんぶん)[4]出身の大橋恭彦が編集・発行人となって、東京で再刊[5]。なお、各種二次資料で「大橋恭彦が創刊」とされているが[6][7][8][9]、本人の著作と矛盾している内容である。

1963年頃の執筆陣は、吉本隆明埴谷雄高花田清輝いいだもも、斎藤龍凰、三島由紀夫武田泰淳ら。社長が大橋恭彦で、編集長が小川徹という体制で、後に映画監督となる神山征二郎がレイアウトのアルバイトで参加していた[7][10]1964年には6,000部だった発行部数は、1969年末には13,000部に伸びた[11]

しかし、1970年6月から経営難のためストライキが勃発して、従業員たちが経営者の大橋と対立。大橋は手を引き、発行も編集長の小川徹が行うようになった。従来の映画雑誌が取り上げなかったアングラ映画やポルノ映画も積極的に取り上げて評論するようになる。1960年代末から1970年代にかけての小川編集長時代の『映画芸術』は、佐藤重臣の『映画評論』や松田政男の『映画批評』と並ぶ存在だったが、「政治的に過ぎる」ともみなされる[6][7][11][12]

商業的には低迷して、1972年8月から隔月刊化し[13]、その後、季刊を経て休刊となる。休刊の際には葬式パーティーが開かれた[7][14]

1989年に脚本家の荒井晴彦が癌で死の直前の小川徹から引き継ぐ形で、発行人兼編集長となって、季刊誌として復刊した。執筆陣は、荒井の人脈で、田中陽造大川俊道桂千穂佐治乾神波史男など脚本家仲間が多く参加して、映画評論家から映画人に比重を移した[6]。金欠のために編集スタッフは無報酬のボランティアであり、新宿ゴールデン街でクダを巻いているような映画人の愚痴ばかりと揶揄されるような誌面作りの一方、個人雑誌の強みから、映画業界誌的な『キネマ旬報』には不可能な業界タブーを書けるとも評価されている。1997年夏には、執筆陣が大量に離反して、浅田彰鹿島徹といった学者を起用して誌面をリニューアルした[7]

発行元は、星林社、第一出版社、共立通信社出版部、映画芸術社などを変遷している。

日本映画ベストテン&ワーストテン

映画芸術ベストテン
受賞対象作品
開催日翌年1月下旬
日本
主催映画芸術
初回1964年
最新回2023年
最新受賞者花腐し

映画芸術ベストテンは総合的な順位ではなく、選者個々人の過去1年間の映画批評を総括したベストテン[15]。映画評論家、映画監督、脚本家、プロデューサー、劇場スタッフ、一般の会社員からなる選者[16]。特に、ワーストテンを発表するのが、他のベストテンとの大きな違いとなっている[15]

第1回(1964年度)と第2回(1965年度)は、早慶など有名私大を中心とした大学映研によってベストテンを決定した[17]。第3回(1966年度)からは映画評論家による選考に変更された[17]。また、ワースト作品の選出は第5回(1968年度)から行われているが、ポイントの合計でワースト順位を決めるようになったのは、第10回(1974年度)から[17]

対象となるのは、前年12月から当該年11月までに公開された映画[15]。12月下旬に投票締切、1月下旬発売の冬号で発表[15]

発行人である荒井晴彦自身や荒井の弟子による監督・脚本作品が高い順位を得る反面、『おくりびと』や『万引き家族』など、他の映画賞で高評価の映画をワースト1位にすることが多々ある。また、本ランキングは「ベスト票の点からワースト票の点数分を引いて、その結果をベストランキングとする」という方式[18]であるが、『映画秘宝』の常連ライターである柳下毅一郎は、「荒井晴彦の都合の良い結果にするためのシステムである」という趣旨の批判をブログでしている[19]。それに対しては、『映画芸術』側も公式サイトで反論している[20]

2016年ベストテンにおいてアニメーション映画『この世界の片隅に』を第1位に選出していたが、2017年からアニメーション映画を対象外とした[21][22]。この方針に抗議した『別冊映画秘宝』編集部は、2018年6月に『アニメ秘宝 発進準備号 オールタイム・ベスト・アニメーション』を「アニメでなぜ悪い 映画狂のためのアニメーション必携」と副題をつけて刊行した。ほとんどの寄稿者が『映画芸術』を非難していたが、映画監督の金子修介は「カッとなった人も冷静になったほうがいい、と思った。アニメは裾野や記憶が広がりすぎているし、もともと実写とは別なところから発生している芸術で、(略)優劣の基準を同一にして芸術的評価はできないと感じるのは、当然の話だと思う」[23]とコメントした。また、映画芸術の極端な運営方針は世間から忘れられないようにするためであったり、雑誌の発行部数を伸ばすための炎上商法なのではないかという指摘も存在している[24]

第1回(1964年度) - 第10回(1973年度)

第1回(1964年度)

第2回(1965年度)

第3回(1966年度)

第4回(1967年度)

第5回(1968年度)

第6回(1969年度)

第7回(1970年度)

第8回(1972年度)

第9回(1973年度)

第10回(1974年度)

第11回(1975年度) - 第20回(1984年度)

第11回(1975年度)

第12回(1976年度)

第13回(1977年度)

第14回(1978年度)

第15回(1979年度)

第16回(1980年度)

第17回(1981年度)

第18回(1982年度)

第19回(1983年度)

第20回(1984年度)

第21回(1985年度) - 第30回(1994年度)

第21回(1985年度)

第22回(1986年度)

第23回(1987年度)

第24回(1988年度)

第25回(1989年度)

第26回(1990年度)

第27回(1991年度)

第28回(1992年度)

第29回(1993年度)

第30回(1994年度)

第31回(1995年度) - 第40回(2004年度)

第31回(1995年度)

第32回(1996年度)

第33回(1997年度)

第34回(1998年度)

第35回(1999年度)

第36回(2000年度)

第37回(2001年度)

第38回(2002年度)

第39回(2003年度)

第40回(2004年度)

第41回(2005年度) - 第40回(2014年度)

第41回(2005年度)

第42回(2006年度)

第43回(2007年度)

第44回(2008年度)

第45回(2009年度)

第46回(2010年度)

第47回(2011年度)

第48回(2012年度)

第49回(2013年度)

第50回(2014年度)

第51回(2015年度) - 第58回(2022年度)

第51回(2015年度)

第52回(2016年度)

第53回(2017年度)

第54回(2018年度)

第55回(2019年度)

第56回(2020年度)

第57回(2021年度)

第58回(2022年度)

第59回(2023年度)

脚注

注釈

出典

  1. ^ 井川徳道 (2007年5月). “映画に魅せられ この道一筋”. 日本 映画・テレビ 美術監督協会. 2011年12月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月31日閲覧。
  2. ^ westedition (2009年5月10日). “星林社”. 関西の出版社. 2020年1月31日閲覧。
  3. ^ 沢村貞子『老いの道づれ』(岩波現代文庫、P.84)
  4. ^ 大橋恭彦『テレビ注文帖』(光文社文庫)「まえがき」より。これは東京で発行されていた都新聞とは別物。この「都新聞」は大阪毎日新聞の姉妹機として京都で創刊されたもの。
  5. ^ 大橋恭彦『テレビ注文帖』(光文社文庫)「まえがき」及び日外アソシエーツ人物情報
  6. ^ a b c 谷岡雅樹『Vシネマ魂 二千本のどしゃぶりをいつくしみ……』四谷ラウンド、1999年、p.367
  7. ^ a b c d e 山本修構成・文「キネマ旬報対映画芸術 老舗映画誌はつらいよ」『別冊宝島345 雑誌狂時代!』宝島社、1997年、pp.165-167
  8. ^ 斎藤茂太骨は自分で拾えない集英社文庫・今月の新刊ちょっと立ち読みコーナー 集英社公式サイト
  9. ^ 田中純一郎『日本映画発達史3 戦後映画の解放』中央公論社、1980年、p.416。
  10. ^ 神山征二郎『生まれたら戦争だった。 映画監督神山征二郎自伝』シネ・フロント社、2008年、pp.47-48。
  11. ^ a b 佐藤千穂「シカゴにて『映画芸術』の歴史を想う」『映画芸術』1996年春 NO.378、p.55
  12. ^ 黒沢清『黒沢清の映画術』新潮社、2006年、p.15。
  13. ^ 田中純一郎『日本映画発達史5 映像時代の到来』中央公論社、1980年、p.382。
  14. ^ 中島貞夫著、河野真悟編『遊撃の美学 映画監督中島貞夫』ワイズ出版2004年、p.140。
  15. ^ a b c d e f g h i 日外アソシエーツ 2009, p. 21.
  16. ^ 映画芸術が2023年のベスト&ワースト発表、ベスト1は荒井晴彦×綾野剛の「花腐し」」『ぴあ映画』ぴあ、2024年1月25日。2024年8月28日閲覧。
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av aw ax ay az ba bb bc bd be bf bg bh bi bj bk bl bm bn bo bp bq 石原良太 編『映画賞・映画祭日本・外国受賞作品大全集 : 栄光と虚栄・アカデミー賞からヨコハマ映画祭』芳賀書店、1986年6月、169頁。ISBN 4-8261-0520-7 
  18. ^ 2007年度に廃止されたが、2008年度には復活している
  19. ^ 映画評論家緊張日記 2009-02-03
  20. ^ 映芸ダイアリーズ座談会 柳下毅一郎氏のブログ発言から、ベストテン&ワーストテンを考える
  21. ^ 映画芸術が2017年ベストテン&ワーストテン発表、ベスト1位に「夜空はいつでも」”. 映画ナタリー (2018年1月27日). 2018年2月2日閲覧。
  22. ^ アニメファン反発 「映画ランキングの対象外に」の理由に納得せず”. J-CASTニュース (2018年2月1日). 2018年2月2日閲覧。
  23. ^ 『アニメ秘宝 発進準備号』P.234
  24. ^ 雑誌「映画芸術」がベスト映画から「アニメ」を除外したtogetter 閲覧日2025年1月29日
  25. ^ 白昼の通り魔 - 作品情報・映画レビュー”. キネノート. 2023年7月17日閲覧。
  26. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 22.
  27. ^ 戦争は終った : 作品情報”. 映画.com. 2023年7月17日閲覧。
  28. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 23.
  29. ^ にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活 : 作品情報”. 映画.com. 2023年7月23日閲覧。
  30. ^ a b 日外アソシエーツ 2009, pp. 23–24.
  31. ^ 四畳半襖の裏張り しのび肌 : 作品情報”. 映画.com. 2023年7月23日閲覧。
  32. ^ a b c d 日外アソシエーツ 2009, p. 24.
  33. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 25.
  34. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 26.
  35. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 27.
  36. ^ ニッポン国・古屋敷村 : 作品情報”. 映画.com. 2023年7月26日閲覧。
  37. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 28.
  38. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 29.
  39. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 30.
  40. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 31.
  41. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 32.
  42. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 33.
  43. ^ 棒の哀しみ(1994):作品情報”. 映画.com. 2024年8月25日閲覧。
  44. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 34.
  45. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 35.
  46. ^ a b c d e f 日外アソシエーツ 2009, p. 36.
  47. ^ a b c d e f g 日外アソシエーツ 2009, p. 37.
  48. ^ a b c d e 日外アソシエーツ 2009, p. 38.
  49. ^ 「映画芸術」ベストテンワーストテン決定 - ウェイバックマシン(2008年1月17日アーカイブ分)
  50. ^ 2008年日本映画ベストテン&ワーストテン発表! - ウェイバックマシン(2009年1月21日アーカイブ分)
  51. ^ 2009年日本映画ベストテン&ワーストテン: 映画芸術 - ウェイバックマシン(2010年1月24日アーカイブ分)
  52. ^ 2010年日本映画ベストテン&ワーストテン: 映画芸術 - ウェイバックマシン(2011年1月23日アーカイブ分)
  53. ^ 2011年日本映画ベストテン&ワーストテン: 映画芸術 - ウェイバックマシン(2013年4月5日アーカイブ分)
  54. ^ 「映画芸術」2012年日本映画ベストテン&ワーストテン決定 ! ! : 映画芸術 - ウェイバックマシン(2013年1月22日アーカイブ分)
  55. ^ 「映画芸術」2013年日本映画ベストテン&ワーストテン決定 ! ! - ウェイバックマシン(2014年1月18日アーカイブ分)
  56. ^ 「映画芸術」2014年日本映画ベストテン&ワーストテン決定 ! ! - ウェイバックマシン(2015年1月19日アーカイブ分)
  57. ^ 「映画芸術」2015年日本映画ベストテン&ワーストテン発表! - ウェイバックマシン(2016年1月21日アーカイブ分)
  58. ^ a b c d 映画芸術458号発売!: 映画芸術 - ウェイバックマシン(2017年6月15日アーカイブ分)
  59. ^ a b c d e f 映画芸術462号 - ウェイバックマシン(2018年8月19日アーカイブ分)
  60. ^ 映画芸術466号 - ウェイバックマシン(2019年2月12日アーカイブ分)
  61. ^ 映画芸術470号 - ウェイバックマシン(2020年1月31日アーカイブ分)
  62. ^ 「映画芸術」2022年ベスト&ワースト10を発表(2023年1月26日)
  63. ^ 映画芸術が2023年のベスト&ワースト発表、ベスト1は荒井晴彦×綾野剛の「花腐し」(2024年1月25日)

参考文献

外部リンク


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