各類型について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 06:38 UTC 版)
旧・刑法第208条の2の規定と比較して構成要件と類型の一部が改正、拡大されている。 酩酊運転致死傷・薬物運転致死傷 第2条第1号。アルコール(飲酒)または薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。 「正常な運転が困難な状態」とは、道路交通法の酒酔い運転罪の規定(同法第117条の2第1号)にいう「正常な運転ができないおそれがある状態」では足りず、現実に前方注視やハンドル、ブレーキ等の操作が困難な状態であることを指す。 本法律に言う「薬物」については、特定の薬効成分は指定されていない。薬効成分の種類を問わず、薬物の影響下で正常な運転が困難な状態、または正常な運転に支障が生じる恐れがある状態に陥るものすべてが該当し得る。例えば、一般の市販薬であっても、眠気を誘発する副作用を持つために服用後に自動車の運転を控えるように明記されている抗ヒスタミン薬(第1世代抗ヒスタミン薬に限る)を服用して、眠気による意識低下により人身事故を起こした場合にも、本法律の各条に触れる場合がある。麻薬及び向精神薬取締法・大麻取締法・覚醒剤取締法・あへん法の薬物四法による規制薬物や、脱法ドラッグ・脱法ハーブに類する意識や運動能力に作用する薬物を摂取した場合も同様である。 準酩酊運転致死傷・準薬物運転致死傷 第3条第1項。独立法制定時に新設。アルコール(飲酒)又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を予め認識していながら自動車を運転し、その結果として第2条第1号に規定する状態(アルコール(飲酒)または薬物の影響により正常な運転が困難な状態)に陥った場合。 この点で、原因行為において正常な運転が困難となる認識可能性が要求される第2条第1号の規定と差異がある。抽象的危険性を認識していて具体的危険を惹起して、よって結果を惹起した点について、二段階の結果的加重犯の構成となっている(この点は次の病気運転致死傷についても同様)。 そのため、第2条第1号(従来規定)については「酒酔い運転」程度の酩酊や「薬物等運転」の認識性が標準とされうるが、第3条第1項(新設)においては、「酒気帯び運転」程度の酩酊等であっても、結果的に「正常な運転が困難な状態」(前述)であれば、本罪が成立することになる。 病気運転致死傷 第3条第2項。独立法制定時に新設。政令に定める特定の疾患の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を予め認識していながら自動車を運転し、その結果として当該疾患の影響により正常な運転が困難な状態に陥った場合。 準酩酊運転致死傷や準薬物運転致死傷と同様に、抽象的危険性を認識していて具体的危険を惹起して、よって結果を惹起した点について二段階の結果的加重犯の構成となっている。 特定の疾患とは、運転免許証の交付欠格事由を標準として、以下が定められている。運転に必要な能力を欠く恐れがある統合失調症 覚醒時に意識や運動に障害を生じる恐れがあるてんかん 再発性の失神障害 運転に必要な能力を欠く恐れがある低血糖症。 運転に必要な能力を欠く恐れがある躁鬱病(単極性の躁病・鬱病を含む) 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害 上記各疾患の影響により、運転前または運転中に発作の前兆症状が出ていたり、症状が出ていなくても所定の治療や服薬を怠っていた場合で、事故時に結果的に「正常な運転が困難な状態」(前述)であれば、本罪が成立することになる。なお、病気を原因とした「正常な運転が困難な状態」については、前述のほか、発作のために意識を消失している場合や、病的に極端な興奮状態、顕著な精神活動停止や多動状態、無動状態など、幻覚や妄想に相当影響されて意思伝達や判断に重大な欠陥が認められるような精神症状を発症している場合も含まれる。認知症は含まれていない。 制御困難運転致死傷 第2条第2号。進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。 単に速度制限違反というだけで成立するものではなく、直線道路等では、制限速度をおおむね50km/h以上超えたときに適用が検討される。カーブ等では、限界旋回速度を超過したとして制限速度を40-60km/h超えた場合に適用した事例、路面の縦断線形が長周期の凹凸になっている場所に制限速度を30km/h超えて進入し転覆等を起こした事故に適用した事例などがある。また、意図的なドリフト走行やスピンターンを行い事故を起こした場合も対象になりうる。 未熟運転致死傷 第2条第3号。進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。 単に無免許運転であるだけでは足りず、運転技能を有していない状態を指す。 一方で、運転技能を有するが免許が取消・停止・失効になっている状態は含まない。したがって、免許を一度も取得していなくとも、日常的に事故を起こすことなく無免許運転している場合には運転技能ありとみなされ、これには該当しない。なお、法的に無免許運転である場合には、第6条の加重規定が適用されることとなった。 妨害運転致死傷 第2条第4号。人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。刑法の旧規定と同様。 これは、何らかの理由により故意に「人又は車の通行を妨害する」目的で行った場合のことである。具体的には、過度の煽り行為や、故意による割り込み・幅寄せ・進路変更などが該当しうる。 「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、相手方と接触すれば大きな事故を生ずる速度をいい、20km/h程度でも該当する。 令和2年改正法で第5号の類型が追加された。第4号と比較して「走行中の車」の「前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転」する行為等が追加された。 高速道路等妨害運転致死傷 第2条第6号。高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の「前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転」することにより、走行中の自動車に停止または徐行をさせる行為。令和2年改正法で追加された。 上述の第5号と共に、あおり運転の多発や、特に東名高速夫婦死亡事故の発生を受け改正された。高速道路等において、妨害目的で、「走行中の車」の「前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転」する行為等により、他の車を停止または徐行させる行為が該当する。 信号無視運転致死傷 第2条第7号。赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し(信号無視)、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。刑法の旧規定と同様。 交差交通が青信号であるのに「殊更に」赤信号を無視した場合に適用され、見落とし・誤認などの過失はもとより、ただ信号の変わり際(黄信号→赤信号へと変わる瞬間、全赤時間)などに進んだ場合などは含まれない。 「重大な交通の危険を生じさせる速度」については前述と同様である。 通行禁止道路運転致死傷 第2条第8号。自動車の通行が禁止されている政令に定める道路(道路の一部分を含む)を自動車によって通行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。独立法制定時に新設。 なお、通行禁止道路の通行は故意が要件であるため、道路標識の見落とし等の過失による場合や、認知症などによる場合は適用されない。 通行禁止道路とは、政令により以下が定められている。(一)道路標識等により通行が禁止されている道路。例として「通行止め」、「車両通行止め」、「歩行者専用」(歩行者天国を含む)、「自転車及び歩行者専用」、「自転車専用」などがある。 道路標識等であっても、「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」するものについては適用外となる。例として、「車両の種類」(大貨等、二輪など)、「最大積載量」、「重量・高さ・横幅の制限」などがある。ただし、「車両の種類」については、「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」していない場合は適用対象となるので注意が必要である。たとえば、「軽車両を除く」「自転車及び歩行者専用」「自転車専用」などの標識がある場合は、通行禁止対象から軽車両や自転車を除外しているに留まり、自動車(原付を含む)についてはすべて通行禁止対象なので、この規定の適用対象となる。 さらに、通行の日付・時間帯のみを条件とする道路標識等についても対象となる。例として「歩行者専用 7~9時」などがある。したがって、通学時間帯などを理由とした歩行者専用道路等規制に故意に違反して死傷事故を起こすと、危険運転として厳罰に処されうるので、注意が必要である。 なお、「指定方向外進行禁止」は原則として対象外であるが、それが上記の「通行止め」等の道路標識の反射として交差点に設置されている場合や、「一方通行」「車両進入禁止」の反射として交差点に設置されている場合に、それらに新たに違反した場合には、それぞれ(一)、(二)により、この規定の適用対象となる。 (二)道路標識等により、「自動車の通行につき一定の方向にするもの」が禁止されている道路。いわゆる一方通行の規制で、一方通行の逆走事故が該当する。一方通行以外の具体例としては、「車両進入禁止」がある。 一方通行についても、規制に条件が付されている場合には(一)と同様になる。例として「大貨等」「二輪を除く」は逆走禁止の対象として「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」しているため適用対象外となり、逆に、「一方通行 7~9時」「自転車を除く」などの場合は、自動車についてはすべて逆走禁止となっているため、この規定の適用対象となる。 (三)高速自動車国道または自動車専用道路の道路右側部分。逆走事故が該当する。なお、上下線分離の場合の逆走は、道路標識等が正しく設置されていれば(二)に該当する。 一般道路の場合には、道路右側部分の逆走は対象外になる。ただし一般道路でも上下線分離の場合には、高速道路・自動車専用道路と同様、道路標識等が正しく設置されていれば(二)の対象となる。 (四)安全地帯または「立入り禁止部分」(道路交通法第17条第6項) なお、「重大な交通の危険を生じさせる速度」については前述と同様である。
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