化物世界誌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/05/18 21:28 UTC 版)
(1) ヒッポポデス 馬の足を持つ人類。 (2) スキアポデス 大きな一本足を持つ人類。素早く走ることができ、休息する際にはその足を高く掲げ、日陰を作るという。 (3) 巨人 犬の顔と尻尾を持つ巨人。 (4) 長耳人 長く大きな耳たぶを持ち、寒い時にはそれを身体に巻きつけて暖を取るという。描かれている場所は中国沖の島であり現在の日本に相当するが、当時のヨーロッパ人が日本列島を認識していた証拠は無い。 (5) フン族 (6) ピグミー (7) ドラゴン (8) アマゾーン (9) ガンギネス 口を持たず、リンゴのにおいだけで生きる種族。リンゴ以外のにおいを嗅ぐと死ぬとされる。 (10) ゴグ・マゴグ ともに北端の、閉じ込められた地に住む民族の名とされる。旧約聖書では終末の時に悪魔サタンの手先として現われ、殺戮に明け暮れると描写されている。 (11) キコーネス 頭と脚が鳥の形をした人類。別名コウノトリ人。 (12) マンティコラ 人面獅子身の凶暴な怪物。身体は赤く、サソリの尾を持つ。 (13) グリフィン (14) ミノタウロス (15) アンバリ 耳が無く、よじれた脚を持つ人類。 (16) アリマスピ またはアリマスポイ人(en)。一つ目の種族。グリフィンが守る黄金を奪うべく戦っている。 (17) エアレ 馬の体、象の尾、山羊の顎、巨大な二本の角を前後に一本ずつ向け、前向きの角のみで戦う動物。 (18) 大唇人 巨大な唇も持つ人類。陽の光を唇を突き出して防ぐとされる。 (19) 口細人 一つ目、一本足の人類。口が小さいためストローで飲む液体だけから栄養を取る。 (20) プシュリ族 妻の貞操を試すため、新生児を蛇に与える習慣を持つ民族。嫡出の赤ん坊には蛇がまきつかないとされる。 (21) バジリスク 翼や足を持たず、蛇の尾を持つ怪鳥の姿で描かれている。 (22) ブレミエ 頭が無く、胸部に眼と口を持つ人類。凶暴な食人族とされる。このような頭が無い描写は、野蛮性と凶暴性を象徴していると言われる。 (23) トログロデュテス 別名は穴居人。穴に住み、蛇やトカゲを食すとされる。図版では捕らえるために猛獣の背に乗っている。カール・フォン・リンネの『自然の体系』(Systema Naturae、1735年出版の初版)ではヒトとサルの中間種と定義され、現在のチンパンジーの学名であるパン・トログロデュテス(Pan troglodytes)の元となっている。 (24) 海岸エチオピア人 表記はエチオピアだが、現在のエチオピアとは全く関連しない場所に描かれている。四つの眼を持ち、これはアフリカ人の視力の高さを象徴していると言われる。 (25) アグリオファギ人 ヒョウとライオンだけを食べるとされる民族。
※この「化物世界誌」の解説は、「ヘレフォード図」の解説の一部です。
「化物世界誌」を含む「ヘレフォード図」の記事については、「ヘレフォード図」の概要を参照ください。
化物世界誌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 15:08 UTC 版)
このように、中世の普遍史に入り込んだ「化物世界誌」は、その源流をセビリャのイシドールスが7世紀に著した『語源論』(『語源』(en))に求めることができる。一種の百科事典と言えるこの著作は、第20巻で世界の地誌・民族誌を記している。イシドールスは、クテシアスやメガステネス、ヘロドトス、プリニウス、ガイウス・ユリウス・ソリヌスらの著述を参考にこれを纏めているが、当時はこのような先人の知識は教会が独占していたため、『語源論』第20巻は絶対的な典拠とみなされ、その影響は13世紀ごろまで続いた。この背景には、当時の西ヨーロッパがイスラム帝国の支配下にあり、イベリア半島の後ウマイヤ朝やアフリカのファーティマ朝などによってヨーロッパのキリスト教国家は封じ込められた状態にあり、アジアやアフリカの新情報を入手できなかったことがある。そのために、遠隔地の認識は古代ギリシアやローマの情報に頼らざるを得なかった。 これも、13世紀以降に東西交流が盛んになったことで、実際にアジアを訪れた人物から新たな知識がヨーロッパにもたらされ始めた。その代表例がアジアを広く旅したマルコ・ポーロであり、1299年頃の著作『東方見聞録』は写本が130点以上現存していることから広く読まれたと推測される。『東方見聞録』そのものがマルコ・ポーロの見聞にどこまで忠実かには疑念も挟まれているが、その著述は、例えばサラマンダーが実は鉱物(石綿)であった(2-64)など、部分的であれ「化物世界誌」観に風穴をあける内容を含んでいた。 しかし、彼の著作も「化物世界誌」を根底から覆すには至らなかった。14世紀に入ると百年戦争の勃発や黒死病蔓延などでヨーロッパは疲弊し、またオスマン帝国勃興もあり、またも東方の情報は入りづらくなった。1362年にフランス語で書かれ印刷技術を用いて出版されたジョン・マンデヴィルの『東方旅行記』は、ラテン語翻訳を皮切りにヨーロッパのほぼ全言語に訳されつつ18世紀まで版を重ねた著名な本だが、その内容には『東方見聞録』などを参照した事実もあるが、「エチオピアにいる大きな一本足の人類」(17章)や「アンダマン諸島の一つ目巨人や胸に眼と口がある無頭人、または大きな唇で顔を覆って眠る人類」など(22章)、明らかに「化物世界誌」を引き継いだ内容が見られた。 マルコ・ポーロら東洋との接触者がもたらした新知識は、カタロニア図(en)のような従来のTO図形式に依らない世界地図が作られるなど一定の意識改革をヨーロッパにもたらしたが、旧来の「化物世界誌」も根強く残り、例えば18世紀のカール・フォン・リンネ著『自然の体系』にさえ、その痕跡が窺えた。
※この「化物世界誌」の解説は、「普遍史」の解説の一部です。
「化物世界誌」を含む「普遍史」の記事については、「普遍史」の概要を参照ください。
- 化物世界誌のページへのリンク