TO図とは? わかりやすく解説

TO図

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/01 04:11 UTC 版)

初期に印刷された古典的なTO図の例(ギュンター・ツァイナーによる、アウクスブルク、1472年)。セビリャのイシドルス『語源』の第14章の最初のページより。3大陸がそれぞれノアの3人の息子―Sem(セム)、Iafeth(ヤペテ)、Cham(ハム)―の領域とされている。
ヘレフォード図」、1300年頃、ヘレフォード大聖堂、イングランド。エルサレムを中央に配置し、東を上にして、ヨーロッパを左下にアフリカを右下に配置した古典的なTO図である。

TO図(ティーオーず)あるいはOT図orbis terrarum[注 1])は、西洋中世に用いられた世界地図である。8世紀のスペインの修道士リエバナのベアトゥス英語版が作成したとされる初期の代表的なTO図「ベアトゥスの世界地図英語版」にちなんでTO図全体をベアトゥス図と呼ぶこともある。ベアトゥスの世界地図は『黙示録』に対する彼の12巻の注釈書の冒頭に登場する。

歴史と解説

TO図は経験的世界を表す地図で、7世紀の学者セビリャのイシドルスが著書『語源』(第14章、de terra et partibus)に描いたものが初出である。

ラテン語: Orbis a rotunditate circuli dictus, quia sicut rota est [...] Undique enim Oceanus circumfluens eius in circulo ambit fines. Divisus est autem trifarie: e quibus una pars Asia, altera Europa, tertia Africa nuncupatur.
日本語: [人が住んでいる]しっかりした陸地の塊は円のまるさに準えてまるいと言われるが、それは車輪に似ているからである[...] このため、陸地の周囲を流れる大洋は円形に区切られており、また陸地は三つの部分に分かれていて一つがアジア、もう一つがヨーロッパ、残る一つがアフリカと呼ばれている。[1]

イシドルスが『語源』中で地球は「まるい」と教えていることに関して、彼の意味するところは曖昧だが、彼は円盤状の地球に言及したと考える著述家もいる。しかし、イシドルスは他の著作では自身が地球は球形だと考えていることを明らかにしている[2]。実際のところ、少なくともアリストテレス[注 2]以降の西洋の教養人の間では一般に地球球体説が事実だとみなされていた。

TO図は球状の地球の上半分だけを表している[3]。これは暗黙に地球の北側の温帯の人が住んでいる地域を描くための簡易な投影法としてなされたものと考えられる。南側の温帯には到達不可能で人が住んでいないと考えられたため、世界地図にそれらの地域を描く必要はなかった。赤道灼熱帯を越えて地球の逆側の未知の陸地に到達することは不可能だと信じられていた。こういった南側の想像上の陸地は対蹠地と呼ばれていた[3][4]

Tとは大陸をアジアヨーロッパアフリカの三つに分ける地中海ナイル川、そしてドン川(かつてはタナイス川と呼ばれた)で、Oとはその周囲を取り巻く大洋である。エルサレムは通常地図の中央に配置される。アジアは概して他の二つの大陸を合わせた大きさである。太陽が東から昇るため、楽園(エデンの園)は一般的にはアジアにあるものとして描かれ、またアジアは地図の上方に位置づけられる。

中世の世界地図の理想的な再現図(Meyers Konversationslexikonによる、1895年)。アジアが右に配置されている。
現代の地図作製法による「TO図」

この質的で抽象的な中世の地図作製法はシンプルな表現に付け加えて非常に詳細な地図を作ることもできる。初期の地図にはほとんど都市が描かれず最も重要な川のみが記載された。聖地の四つの聖なる川は必ず記載された。旅行者にとってより便利な道具は、二つの地点の間の町の名前を順番に並べた旅行案内書や沿岸の目印や港を順番に並べたペリプルスであった。より後の時代の地図は同じ構想に沿っていても西欧と同じほど東方の都市や川、その他のものを記載しているが、これは十字軍の際に知られたものであった。新しい地理的な事物だけでなく装飾的なイラストも加えられた。最も重要な都市はその都市名と共に他と区別できる要塞で表され、空いたスペースには神秘的な生物が描きこまれた。

ギャラリー

脚注

注釈

  1. ^ 大地の球もしくは円を意味する。またOの中にTがあるようなこの地図の形状をも表す
  2. ^ アリストテレスは球状の地球を極地方の寒帯、赤道付近の灼熱帯、その間の温帯といった気候帯に区分した
  3. ^ 上の船はノアの方舟で、アジアの中央はノアの長男セムドン川ナイル川で世界が分けられていて、左のヨーロッパにいるのは次男ヤペテ、右のアフリカにいるのは三男ハム

出典

  1. ^ Isidore of Seville (c. 630). “14”. Etymologiae. http://www.thelatinlibrary.com/isidore/14 
  2. ^ Stevens, Wesley M. (1980). “The Figure of the Earth in Isidore's ‘De natura rerum’”. Isis 71 (2): 268–277. JSTOR 230175. 
  3. ^ a b Michael Livingston, Modern Medieval Map Myths: The Flat World, Ancient Sea-Kings, and Dragons, 2002.
  4. ^ Hiatt, Alfred (2002). “Blank Spaces on the Earth”. The Yale Journal of Criticism 15 (2): 223–250. doi:10.1353/yale.2002.0019. 

参考文献

  • Crosby, Alfred W. (1996). The Measure of Reality: Quantification in Western Europe, 1250-1600. Cambridge: Cambridge University Press. ISBN 0-521-55427-6 
  • Lester, Toby (2009). The fourth part of the world: the race to the ends of the Earth, and the epic story of the map that gave America its name. New York, NY: Free Press. ISBN 9781416535317 

関連項目


TO図 (7世紀)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/04 02:40 UTC 版)

初期の世界地図」の記事における「TO図 (7世紀)」の解説

詳細は「TO図」を参照 7世紀神学者イシドールス著書語源論(英語版)』の中に当時使われていた著しく簡略化された世界地図収録している。これはTO図と呼ばれている。この図は円の中にTの字に水域描かれているもので、円部分オケアノス、Tの縦棒地中海、Tの横棒の左半分タナイス川(現ドン川)、右半分ナイル川意味している。タナイス川は黒海北東流れ大河で、この図ではヨーロッパとアジア境界となっている。つまり上半分がアジア左下ヨーロッパ右下アフリカであり、東を上に書かれている。 この図は聖地エルサレムが図の中心に位置し、図の最上部に東の楽園エデンの園が来るように工夫されている。また、この図に描かれているのは北半球のみである。TO図は現代にもいくつも伝わっている。

※この「TO図 (7世紀)」の解説は、「初期の世界地図」の解説の一部です。
「TO図 (7世紀)」を含む「初期の世界地図」の記事については、「初期の世界地図」の概要を参照ください。

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