前近代の心理学的思想
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「心理学の歴史」の記事における「前近代の心理学的思想」の解説
「心の哲学」を参照 古今の多くの文化で心・魂・精神等々に関する思索が行われた。例えば古代エジプトでは、エドウィン・スミス・パピルスに脳に関する初期の記述や脳の機能に関するいくらかの思索が含まれている(が内科的あるいは外科的な文脈においてのものである)。他の古代の医学的文書が病をもたらす悪魔の退散のまじない・祈願やその他の迷信で満たされているのに対して、エドウィン・スミス・パピルスに含まれるほぼ50の病態に関する療法の内一つだけが悪魔よけのまじないである。このためエドウィン・スミス・パピルスは今日常識とみなされているものと同様のものとして称揚されているが、それが全く異なる文脈に起源することを忘れてはならない。 タレス(紀元前550年頃活躍)からローマ時代まで、古代ギリシア哲学者たちは、彼らが「プシュケー」(psychologyという言葉の前半分はこれに由来する)と呼ぶものやその他の「心理学的」述語―「ヌース」、「トゥモス」、「ロギスティコン」等々―に関する精緻な理論を発達させた。中でも最も影響力が高いのはプラトン(特に『国家』)、ピタゴラスとアリストテレス(特に『霊魂論』)による説明である。ヘレニズム哲学者(すなわち、ストア派やエピクロス派)達は古典時代のギリシア諸学派とはいくつかの重要な点で区別される。特に、ヘレニズム哲学者たちは心の生理学的基盤に関する問題に関心を抱いた点で異なる。ローマ時代の医師ガレノスはこういった問題を最も精緻に説明し、以後の全ての人々に影響を与えた。こうしたギリシア哲学がキリスト教やイスラームの心論に影響した。 ユダヤ・キリスト教の流れでは、集団規定(死海文書以降、紀元前21年頃-61年)に人間の本性を二つの性質に区別することが言及されている。 アジアでは、中国が教育システムの一環としての能力試験を管理した長い歴史を有する。6世紀に、Lin Xieが初期の試験を実行し、試験において(明らかに人の気の散ることに対する弱さをテストするために)片手で四角を描いてもう一方の手で丸を描くように要求した。これは最初の心理学実験であり、ゆえに実験科学としての心理学の始まりであると主張した者もいる。 インドもまた、ヴェーダーンタ哲学の著作にみられるように「自己」に関する精緻な理論を持つ。 中世のイスラーム医学者も様々な「心の病」に悩む患者を治療する臨床的な技術を発展させた。 アブー・ザイド・アーメド・イブン・サール・バルキ(850年–934年)はその流れの中でも最初期に位置し、心身両面の病について論じて、「ナフス(プシュケー)」が病を得ると、肉体も生活の中で快を失い、最終的に肉体の病に至る」と主張した。アル・バルキは、肉体も魂も健康であったり病んだり、言い換えれば「バランスを保っていたりバランスが崩れたり」することができると認識していた。肉体のバランスが崩れると発熱、頭痛、その他の肉体的症状を発し、一方魂のバランスが崩れると憤怒、不安、悲嘆、その他の「ナフス」に関係する症状を発すると彼は書いている。今日我々が鬱病と呼ぶようなものには二種類あると彼は認識していた: 一方は喪失や故障といったわかる理由によって起こり、心理学的に治療できる; そしてもう一方はおそらく生理学的原因によるよくわからない理由によって起こり、物理療法によって治療できる。 学者イブン・アル・ハイサム(アルハゼン)は、様々な種類の感受性、触覚的知覚、色の認識、明暗の認識、月の錯視の心理学的説明、両眼視といった、視覚認識やその他の知覚に関する実験を行った。アル・ビールーニーも反応時間の試験にこういった実験手法を用いた。 イブン・スィーナーもまた同様に、初期の研究でナフスに関係する病を取り扱い、内的感覚に連動した心拍数の変化を説明する体系を発展させた。また、今日では精神神経疾患として扱われている現象についてもイブン・スィーナーは書いているが、具体的には、幻覚、不眠症、躁病、悪夢、憂鬱、認知症、てんかん、麻痺、脳梗塞、空間識失調、震顫などがある。 心理学に関係する話題を扱った他の医学思想家は以下: ムハンマド・イブン・シリン、夢や夢解釈を扱った書物を著した; アル・キンディー(アルキンドゥス)、ある種の音楽療法を発達させた[要出典] アリー・イブン・サール・ラッバン・アル=タバリ、「アル=イラジ・アル=ナフス」(心理療法と訳されることがある)を発展させた アル・ファーラービー(アルファラビウス)、社会心理学や意識研究に関する主題を論じた; アリー・イブン=アッバース・アル=マジュシ(ハリュ・アッバス)、神経解剖学や神経生理学に関して著述した; アブー・アル=カースィム・アッ=ザフラウィー(アブルカシス)、脳神経外科学に関して著述した; アブー・ライハーン・アル・ビールーニー、反応時間について著述した; イブン・トファイル、タブラ・ラサの概念や生得論を先取りした。 アブー・メルワーン・アブダル=マリク・イブン・ズール(アヴェンゾアル)は今日で言うところの今日の髄膜炎、血栓静脈炎、縦隔胚細胞腫瘍と同じ病について著述した; イブン・ルシュドは網膜に光受容性があると考えた; そしてモーシェ・ベン・マイモーンは狂犬病やベラドンナ中毒について著述した。 ウィテロは知覚心理学の先駆者とされる。彼の言う「ペルスペクティヴァ」(羅: Perspectiva)には心理学的要素が多く含まれ、近代の観念連合や潜在意識に関する思想に近いものを形作っている。
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