保存的治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 04:19 UTC 版)
発症して時間が経って血栓溶解療法適用外となったアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞であれば、オザグレルナトリウム(抗血小板剤)・アルガトロバン(抗トロンビン薬、スロンノンHIなど)などを発症早期に投与する。ただし心原性塞栓症ではこれらは禁忌でありヘパリンなどが用いられる。2枝病変(前大脳動脈領域と中大脳動脈に及ぶ広範な梗塞など)や感染性心内膜炎が存在する場合は出血のリスクが高く抗血栓療法は控えるのが一般的である。抗血栓薬の併用療法はよくおこなわれ、アスピリンと硫酸クロピドグレルは発症3か月以内の併用が、出血を増加させることなく再発予防に有効であった(推奨グレードB)。アスピリンとワーファリンの併用は出血のリスクが高く一般的ではない。また、1年間以上の抗血小板薬の併用は、再発抑制効果が実証されておらず、出血のリスクは高まるために行わないよう勧められる(推奨グレードD)。その一方でアスピリンまたはクロピドグレルのどちらかにシロスタゾールを追加しても安全性に差はなく、シロスタゾールを追加したほうが脳梗塞再発予防効果も高いという報告もある。 薬剤留意点エダラボン脳保護薬であるエダラボン(Edaravone)(ラジカット(Radicut)など)は発症後24時間以内であれば全ての病型で適応がある。推奨グレードB。腎機能障害が認められるときは禁忌となる。フリーラジカル消去作用にて細胞性浮腫を減少させる効果があると考えられており、1回30mgを生理食塩水などに溶解し1日2回30分で点滴する。14日間投与可能である。近年はt-PAと併用することも多い。症状に応じて短期間で終了することも考慮する。発症後1 - 4日経過した場合の浮腫では血管性浮腫でありエタラボンは効果的ではなくグリセオール(グリセレブ)が用いられることがある。 オザグレルナトリウムトロンボキサンA2合成酵素阻害薬(抗血小板薬)であるオザクレルナトリウム(カタクロット、キサンボン)は心原性脳塞栓症では禁忌となるが、急性期(発症5日以内)アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞では適応がある。適応症例の推奨グレードB。本剤80mgを維持液200mgに溶解し、1日2回2時間かけて点滴を行う。投与は2週間まで可能である。特にラクナ梗塞急性期などはオザグレル(Ozagrel)とアスピリンを併用することが多い。 アルガトロバン選択的トロンビン阻害薬であるアルガトロバン(Argatroban)(スロンノンHIやノバスタンHI)は心原性脳塞栓では禁忌であるがアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞で用いられることが多い。保険診療上はラクナ梗塞には適応はない。発症48時間以内に投与を開始し、アルガトロバン60mgを維持液500mlで溶解し、24時間で1本2日間投与を行い、その後アルガトロバン10mgを維持液200mlで溶解し1日2回3時間かけて投与する。これを5日間継続する。適応病型への推奨グレードB。投与直後は出血性合併症に注意し、3日目以降は脳梗塞の悪化が疑われたら、抗血小板薬の追加やヘパリンへの変更を検討する。アテローム血栓性脳塞栓症急性期ではアルガトロバンとアスピリンを併用することも多い。半減期が15分〜30分であり、持続点滴終了後に効果が低下すると考えられる。 ヘパリンナトリウム抗凝固薬であるヘパリンの扱い方は病型によって異なる。心原性脳塞栓症の場合は発症から24時間以内は出血(血腫形成)をきたし、出血性梗塞となる場合がある。そのため発症から24時間経過した時点で頭部CTを施行し、血腫形成がなければ、急性期の再発予防としてヘパリンを1万〜1万5千単位/dayの低用量持続点滴を行い、ワーファリンによる抗凝固療法に切り替えてゆく。ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では進行型脳梗塞の場合に1万〜1万5千単位/dayの低用量持続点滴やAPTTを基準値の1.5〜2倍にコントロールする。いずれも推奨グレードC1。 ワルファリンカリウム抗凝固薬であるワルファリン(ワーファリン)は急性期にヘパリンを用いた場合に引き続き、慢性期管理によく用いられる。アテローム血栓性脳梗塞では高度狭窄病変が認められる場合はアルガトロバンやヘパリンに引き続き投与を行う。心原性脳塞栓症ではPT-INRを2.0〜3.0(高齢者や低リスクでは1.6〜2.6)にコントロールする。深部静脈血栓症を伴う奇異性脳塞栓症などでも用いられる。慢性期の心原性脳塞栓症で推奨グレードA。 アスピリン作用発現の早さから急性期にも好まれる。急性期と慢性期では投与量が異なり、急性期は160〜300mg/dayであり2週間程度で75〜150mgへ減量する。原因不明の脳梗塞や奇異性脳塞栓でもアスピリンが選択されることが多い。アスピリン喘息などアスピリン不耐症やアスピリン内服中に発症した場合はその他の抗血小板薬への切り替えや併用を検討する。48時間以内の急性期では全ての病型で推奨グレードA。慢性期では非心原性脳梗塞では推奨グレードA。心原性脳塞栓症ではワルファリンが第一選択となるため、ワルファリンが禁忌の病型に限って推奨グレードBとなる。 塩酸チクロピジン塩酸チクロピジン(Ticlopidine)(パナルジンなど)は急性期には200〜300mg/dayの投与がされることがある。慢性期は200mg/day。慢性期では非心原性脳梗塞への適応で、推奨グレードB。後発薬の硫酸クロピドグレルと薬効は同等だが、副作用が強いため本薬剤の適用は減りつつある。 シロスタゾールシロスタゾール(Cilostazol)(プレタールなど)は急性期に200mg/dayで投与される。鬱血性心不全では禁忌であり、虚血性心疾患でも慎重投与である。慢性期では非心原性脳梗塞への適応で、推奨グレードA。 硫酸クロピドグレルクロピドグレル(Clopidogrel)(プラビックスなど)は急性期に50〜75mg/dayで投与される。慢性期は非心原性脳梗塞で、75mg/day投与が推奨グレードAである。 ウロキナーゼ血栓溶解薬であるウロキナーゼの静脈注射は原則としては心原性脳塞栓には禁忌である。しかし脳底動脈閉塞症などの場合はカテーテル下動注を行うことがある。ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では発症5日以内であれば6万単位/dayの静注や超急性期の動注が行われる。推奨グレードC1。 デキストラン血漿増量薬。デキストランの最も良い適応は血行力学性機序の関与が疑われるアテローム血栓性脳塞栓である。Ht高値のラクナ梗塞でも用いられることがある。500ml/5hrで5日間使用する。すべての症例で使用を「考慮してもよい」が、有効性は十分な科学的根拠がなく、推奨グレードC1となる。 グリセオールアテローム血栓性脳梗塞であればグリセオール200mlを1日2回、1回2時間で投与する。心原性脳塞栓や脳出血ならば1日3から4回投与する。脳浮腫が著明な場合は6回ほど用いることもある。適応病型への推奨グレードB。心不全ではNa負荷となるため慎重投与が必要である。グリセオールより脳圧効果作用が強いマンニトール(マンニゲン、マンニットールなど)の使用はエビデンスによる裏付けに乏しい。推奨グレードC1。 アテローム血栓性脳梗塞 アテローム血栓性脳梗塞の場合は抗血小板療法と抗凝固療法のいずれも選択肢となりうる。抗血小板療法としてはオザクレルナトリウム(カタクロット、キサンボン)160mg/dayの点滴投与またはアスピリン160 - 300mg/dayの経口投与となる。一方抗凝固療法としては、ヘパリンの静脈内投与(APTTで調整)や選択的トロンビン阻害薬であるアルガトロバン(スロンノンHIやノバスタンHI)がある。重症例、進行例にはアルガトロバンをがしばしば選択され、軽症、安定例ではオザクレルナトリウムが選択される傾向がある。アルガトロバンとアスピリンの併用、ヘパリンとアスピリンの併用もしばしば行われる。 発症24時間以内であれば脳保護薬であるエダラボン(ラジカットなど)が用いられることもある。フリーラジカル消去作用にて細胞性浮腫を減少させる効果があると考えられている。近年はt-PAと併用することも多い。 発症後治療開始までかかる時間で分けると3時間以内ならばrt-PA,24時間以内であればエダラボン(ラジカットなど)、48時間以内ならばアルガトロバン(スロンノンHIやノバスタンHI)、7日以内ならばオザクレルナトリウム(カタクロット、キサンボン)といった使い分けも存在する。 発症後1 - 4日経過した場合の浮腫では血管性浮腫でありエタラボンは効果的ではなくグリセオール(グリセレブ)が用いられることがある。アテローム血栓性脳梗塞であればグリセオール200mlを1日2回、1回2時間で投与する。心原性脳塞栓や脳出血ならば1日3から4回投与する。グリセオールより脳圧効果作用が強いマンニトール(マンニゲン、マンニットールなど)の使用はエビデンスによる裏付けに乏しい。 ラクナ梗塞 ラクナ梗塞の場合はアスピリンかオザクレルナトリウム(カタクロット、キサンボン)が推奨されている。BAD(branch atheromatous disease)が疑われる場合はラクナ梗塞の診断の下、トロンボキサン合成酵素阻害薬であるオザグレルナトリウム(カタクロットやキサンボン)にて治療が行われることが多い。本剤80mgを維持液200mgに溶解し、1日2回2時間かけて点滴を行う(約2週間まで)。投与開始直後は出血性合併症を示唆する理学所見に注意し、脳梗塞の症状が悪化するようならばアルガトロバンやヘパリンへの変更や併用を検討するのが一般的である。またははじめからアテローム血栓性脳梗塞の治療法で、アルガトロバン(スロンノンHIやノバスタンHIなど)を使用する場合もある。投与直後は出血性合併症に注意し、3日目以降は脳梗塞の悪化が疑われたら、抗血小板薬の追加やヘパリンへの変更を検討する。 心原性脳塞栓 心原性脳塞栓症の場合は抗血小板療法の治療適応はなく、rt-PAの適応ではなく発症後24時間以上経過していればヘパリンの投与を開始する。ヘパリンの使用は出血の合併の有無によっても異なるが5000 - 10000単位/dayの低用量の使用も多い。
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保存的治療
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/20 05:38 UTC 版)
消毒剤の口内洗浄液:0.02%のクロルヘキシジン水溶液や生理食塩水などの口内洗浄液は、急性骨壊死において鎮痛薬や抗炎症薬と併用できる 。 抗生物質:テトラサイクリンは骨に選択的に取り込まれるため、感染予防のために処方することができる 。ペニシリン抗生物質は口腔細菌による表面の汚染に対しても使用できる 。 超音波療法:1992年に治療法として最初に導入された。血管新生を誘発し筋肉の血液循環を改善するために高周波音が用いられる。Harrisは、デブリードマンと組み合わせつつ、骨壊死の影響を受けた皮膚に毎日15分の超音波治療を行うと、症例の48%で治癒が見られたと示した 。 高気圧酸素療法(HBO):1973年に最初に報告されたHBOは、放射線性骨壊死の補助治療となることを目的としていた。この治療の背後となる理論的根拠は、HBOが組織の酸素分圧の上昇とコラーゲン合成、血管新生および上皮化の改善を生じることである。ただし、骨壊死の治療においてこれのみを用いることについては物議を醸している。臨床的利益を示す証拠はほとんどなく、治療上の意義がプラセボ以下である可能性もある。
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