ニューエイジとオカルトから右派陰謀論、そしてポスト・トゥルースへ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 15:37 UTC 版)
「鬼畜系」の記事における「ニューエイジとオカルトから右派陰謀論、そしてポスト・トゥルースへ」の解説
詳細は「ポスト真実の政治」、「ピザゲート」、および「Qアノン」を参照 カウンターカルチャーの流れで、ニューエイジスピリチュアリティが隆盛した。その題材は、ヨーガ、瞑想、占星術や血液型占いなどの占い、心霊写真、超常現象、チャクラ、オーラ、水晶、前世、スピリチュアル・ヒーリング、サイキック超能力の開発、天使と妖精、象徴表現、民間伝承、古代密儀宗教、世界の宗教の聖典の秘教的な解釈などである。これらは科学に基づかない反知性的な傾向がある。カウンターカルチャーに対抗する保守派の運動もこの影響を受けており、後にインターネットの普及も手伝い、非常に反知性主義的な陰謀論とも結びつくこととなる。この種の陰謀論では、キリスト教原理主義的な世界観(黙示録、天使と悪魔の終末戦争、最後の審判、神の王国到来)に加え、かつてはカウンターカルチャー側だったオカルト的な世界観(古代神・宇宙人・電波系など)も入り混じっている。 1980年代には、保育園などで悪魔崇拝者による児童性的虐待が起きているというデマの告発が相次いだ。これは、社会が異端者を排除しようとするモラル・パニックの心理によるものと考えられている。またテッド・ガンダーソンは、FBIロサンゼルス支局長を引退後に気が狂い、大統領・連邦政府やCIAが悪魔崇拝者の影の政府に乗っ取られて児童売春に関与しているという陰謀論を1980-90年代に広めた。また、ミルトン・ウィリアム・クーパーはUFOオカルト系の陰謀論を提唱し、影の政府は地球外生命と協力関係にあると主張した。 2016〜2017年から英語圏の匿名掲示板「4chan」を舞台に広まった右派陰謀論のピザゲートやQAnonも、悪魔的儀式虐待の典型的な主張を多く取り入れている。この陰謀論では、虐待が行われるとされる場所は、1980〜90年代のパニックで主張された保育園などから、リベラル的なハリウッド俳優や政治家、高位官僚などによる悪魔崇拝者の秘密結社(カバール)へと変わっている。これは、カウンターカルチャー運動以降、保守的な道徳観(家父長制、男尊女卑的宗教観、人種・民族差別、性的マイノリティ差別など)が政治的に正しくないとして時代遅れとなり、道徳面で劣勢に立たされた保守派によるリベラル派やリベラル的自由主義に対する必死の反撃と見なされている。なお、この反撃には、保守主義道徳の柱である愛国心や伝統的家庭だけでなく、4chanや8chanで台頭した、女性を憎悪するインセルやゲーマーゲート、白人至上主義者、さらには反ポリコレ・反新自由主義を奨励するオルタナ右翼やQAnonまでもがプロパガンダに利用された結果、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件に結実する。 このような事態を招いた理由として、政治の機能不全による自由民主主義の失速が背景にある。リベラル層への反感は、そのままリベラル的な価値観とエリート(マスコミや学者など既得権益者)の否定につながり、2010年代後半には排外主義的な右派ポピュリストやオルタナ右翼(文化的多様性や基本的人権を軽視して反フェミニズム運動などを行う差別的なアニオタ集団)の台頭を招いた。さらにこの流れは、鬼畜系雑誌『危ない1号』でも提唱された「正義や真実、普遍的価値など本当は存在しない」というシニカルな相対主義をより加速させ、非倫理的行動ないし病理的な文化理論の正当化を許した。 客観的事実よりも個人の感情や思い込みへの訴えかけのほうが、世論の形成に影響力を与えるような社会状況は、ポスト・トゥルースと呼ばれている。ドイツの哲学者であるマルクス・ガブリエルは、自明の真実を否定するポスト・トゥルースと、その根幹をなすポストモダン的な相対主義について「間違っているというだけでなく、民主主義にとって非常に危険な考え方」「真実がいくつも存在するという相対主義の見方は、事実に直面するのを避けるための言い訳に過ぎない」と厳しく批判した。政治哲学者の斎藤幸平もまた「相対主義に従えば、他者と互いに理解し合うことなどはできない、それぞれ、分断された世界に住んでいるのだということになる」「相対主義者は『他者性』(文化・価値観の違い、よその伝統など)をつくり上げることによって、自分が見たいものだけを見ている」と一蹴した。
※この「ニューエイジとオカルトから右派陰謀論、そしてポスト・トゥルースへ」の解説は、「鬼畜系」の解説の一部です。
「ニューエイジとオカルトから右派陰謀論、そしてポスト・トゥルースへ」を含む「鬼畜系」の記事については、「鬼畜系」の概要を参照ください。
- ニューエイジとオカルトから右派陰謀論、そしてポスト・トゥルースへのページへのリンク