購入対象車種の変化と自動車メーカーの責任
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 22:08 UTC 版)
「若者の車離れ」の記事における「購入対象車種の変化と自動車メーカーの責任」の解説
2009年10月19日の毎日jpのコラムにて、トヨタ自動車幹部による、「リアルな自動車ゲームがあれば車は要らなくなる」という主旨のコメントが掲載された。 しかしその一方、悪いのはエコや機能性に腐心して魅力あるクルマを作ってこなかった自動車メーカーおよびその製品ラインナップであると指摘する向きもある。 「今の車には魅力がない」とする指摘ガリバー自動車研究所所長は「(確実に)売れるミニバンや軽自動車ばかり(さらに2010年代以降はハイブリッドカーや一部のアイドリングストップ機構を装備したエコカーも)作り、スポーツカーなどの魅力的な車を作らなくなったメーカー側に問題がある」と述べている。 自動車評論家の島下泰久も「行き過ぎたエコ偏重の商品作りが、車本来の楽しさをドライバーから奪い、結果として車離れを加速させている」と指摘している。 また同じく自動車評論家の徳大寺有恒は、日本車の「機械としては優秀だが、愛着を持てるか?」という疑問に触れつつ、「セクシーじゃない(つまり魅力に乏しい)クルマから、若者が離れていくのは当然のことなんだ。」と述べている。 「車が好きになるキッカケ作りが必要」とする指摘ソニー・コンピュータエンタテインメント広報は、前出のトヨタ幹部の意見に対し「車のゲームをきっかけに、実車に興味を持つ人がいると聞いている」と、否定的な態度を採った。 田中辰巳は(自動車メーカーほどの力があれば)「トレンディードラマのデートシーンに、車を登場させることなども難しくない」などとし、最近のメーカーが若者がクルマに乗りたくなるような仕掛けを行っていないという点を指摘した。 「上述のどちらも原因だ」とする指摘デザイナーの根津孝太は、上記2点の両方を指摘している。彼はかつてトヨタのデザイナーも務め、更に北米市場で若者向けブランド「サイオン」ブランドを立ち上げた人物で、「ハマる! ミニ四駆LIFE」(主婦と生活社)誌内のインタビューにおいて「トヨタ在籍時、中高年層がカッコいいクルマに乗って若者の憧れになる必要があると言った」という旨のコメントを残している。 しかし、自動車メーカーは排出ガス規制が厳しい上に飽和状態になった日本市場よりも需要の堅調な海外市場を重視するようになっている。特に仏ルノー傘下となった日産自動車は、日本でも好調な販売実績を示したティーダを2012年度までで日本国内販売を中止し、主要国ほど自動車排出ガス規制が厳しくないアジアやアフリカ諸国など海外の新興国向けの専用車とする戦略を採った。 なお、20世紀末までは日本国内にもスポーツカーなどの魅力的な車が多数存在したが、平成12年排出ガス規制によって多くの車種が廃止された。この影響も含め、車種だけでなく車両仕様にも変化があり、その例の一つが前輪駆動車(FF車)への偏重化である。FF車のスポーツカーで一定の成功を収めた車種(ホンダ・シビックタイプR)も存在するが、かつて後輪駆動車(FR車)で設計されていた車がモデルチェンジを機にFF車に設計変更されたり(トヨタ・カローラレビン)、FR車で売り出されていた車種が後継に当たる車種が開発されずに絶版になる(日産・シルビア)など、FR車のスポーツカーといった車としての魅力を前面に打ち出した車種は減少傾向となった。実際、経営方針の変化という面もあるが、新規販売されているものの大半がFF車であり、FR車の新車が希少化しているのも事実である。また、魅力の一つとして語られるマニュアルトランスミッション(MT)だが、採用車種の極端な減少(ブランディングとして走りの楽しさを強調するマツダを除くとCセグメント以上のスポーツ車以外ではほとんど選べない)が起きているのも事実だが、マシンのハイパワー化によってMT操作のほうが危険であるという見方が強くなっており、高価格帯のスポーツカーメーカーとして代表的なフェラーリ、マクラーレンなどは軒並みMTを廃止してセミオートマチックトランスミッション(セミAT)への切り替えが進んでいる。そのため、MT仕様のスポーツカーがないが故の車離れについては評価が分かれる。 一方2013年度の日本国内自動車販売は、トヨタ車の市場占有率が3割を下回った反面、輸入車が過去最高の国内販売シェアの5%を占めるなど「(上級車の)日本車離れ」も懸念される状況になっている。 また、トヨタは日本市場では車の販売が大幅に増える見込みは少ないこと、また車の利便性を高めるには公共交通機関など他の交通モードとの連携を高める必要があることから、2018年よりMobility as a Service(Maas)に力を入れ始めるなど車社会から一歩進んだ交通システムを構築しようとしている。 もっとも、1990年代以降消費者が自動車に求めるものが居住性や燃費、実用性に変わりつつあるのは世界的な流れとなっている。2000年代以降のクロスオーバーSUVの流行では、ポルシェやランボルギーニといったそれまでクーペやスポーツカーをメインとした自動車メーカーも参入するようになり、特にポルシェでは売り上げの8割がクロスオーバーSUVを占めるようになっている。フォルクスワーゲンではグループ各社で製造するハッチバックから3ドア車を廃止しているほか、クライスラーやフォードは2018年にそれぞれ北米においてセダンの販売から撤退するなどの動きが見られる。このため、車離れをメーカーに責任転嫁する論調もおかしいという指摘もある。
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