昭和期の作品
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1950年代 音楽漫画の歴史は古い。赤本漫画の時代は、実在したクラシックの音楽家などを題材とした偉人伝的なものがあり、次の貸本漫画の時代では、当時の実在の人気歌手らを題材とした「童謡・歌謡漫画」が存在した。こうした『(芸能人の芸名)物語』といった実在歌手の名前を冠した作品はその後も引き継がれ、時代時代の人気歌手を扱った作品が生まれている。 ストーリー漫画としての音楽漫画は、少女漫画を中心に発展した。1958年(昭和33年)にちばてつやが「少女クラブ」でヴァイオリンを弾く少女を主人公にした『ママのバイオリン』の連載を開始。デビュー間もないちばにとって初の雑誌連載となったこの作品は、少女に大人気を博し、連載第2回目の読者アンケートで2位、以降は連載終了まで1位の座を守ったとされる。しかし当時の漫画家の多くは、楽器演奏などの実態を知らないことが多く、そのため荒唐無稽な怪作と言える作品もしばしば生まれた。 1960年代 1960年代に入ると、トキワ荘の紅一点として知られる水野英子が、西洋を舞台にしたロマンティック・コメディ作品を多く手がけはじめる。中でも1964年(昭和39年)に連載を開始した『白いトロイカ』は、ロシア革命を舞台にオペラ歌手を目指すロシアの少女を主人公に据え、音楽学校の描写など「かなりのリアリティ」をもって描かれている。また1969年(昭和44年)には、少女ロック漫画の元祖とされ、水野の少女漫画作品の大きな節目となった『ファイヤー!』の連載が開始された。感化院を出たアメリカの青年がロックシンガーを目指すストーリーは、ベトナム戦争やカウンターカルチャーの台頭など当時の時代背景をリアルタイムに取り入れ話題を呼んだ。バンドものの原点とも言われ、男性の漫画ファンにも人気を博した。 1970年代 1970年代になると、音楽漫画は1つのジャンルとして成立していく。1975年(昭和50年)には、劇画家の池田理代子が『オルフェウスの窓』の連載を開始。南ドイツのレーゲンスブルクの架空の音楽学校から始まる物語は、第一次世界大戦やロシア革命などの史実を織り交ぜながら、ドイツ、ロシア、オーストリアを舞台に4部構成で描かれた。作中ではベートーヴェンの重厚な音楽が多く登場し、また実在のピアニスト(ヴィルヘルム・バックハウス)を登場させることで物語に厚みを持たせている。翌1976年(昭和51年)には、大泉サロンの中心メンバーであり「24年組」と称された、竹宮恵子と増山法恵の共作による音楽学校もの『ウィーン協奏曲』『変奏曲』が登場した。原作を担当した増山がピアニスト志望であったことから、これらの作品を通じて音楽に関する専門的な知識が読者に広まり、また音楽家の心情が「はじめて実感をもって語られた」作品となった。楽器を嗜む読者が見ても不自然に感じないよう、「普通のグランド・ピアノとコンサート・グランドとの差」「鍵盤と手の大きさとの比率」「弦楽器を演奏する人の微妙なポーズ」などの細かな点も丁寧に描写されている。当時の竹宮は、オーケストラの楽器のほとんどを空で描けるまでに楽器の形などに詳しかったという。また、1978年(昭和53年)には「ポスト24年組」の1人であるたらさわみちが、南ドイツ、バイエルン地方に実在するテルツ少年合唱団をモデルに描いた『バイエルンの天使』を発表。それまで日本で馴染みの薄かった同合唱団の人気を広めるきっかけを作ったとされる。 1980年代 1980年代頃からは、日本を舞台にした等身大の主人公の作品も増え始める。1980年(昭和55年)にはくらもちふさこが、ピアニストの母を持ち、日本の音楽学校に通う女子高校生の恋物語を描いた『いつもポケットにショパン』の連載を開始。この作品の影響でピアノを習い始めた少女も多かったと言われ、特に最後のコンサートシーンは名場面として知られる。男性向けの作品では、1985年(昭和60年)に上條淳士が「週刊少年サンデー」で『TO-Y』をスタート。パンク・ロックバンドをしていた主人公が、芸能界にソロデビューする過程とその活躍を描いた。主人公が歌い手であるにもかかわらず、演奏シーンには一切「歌詞」や「オノマトペ」を用いず、画だけで「音」を表現する手法が非常に特徴的な作品である。青年漫画においては、1988年(昭和63年)にジャズを題材にした『BLOW UP!』が、細野不二彦により「ビッグコミックスペリオール」で連載されている。また、少年の頃からピアノを習い音楽に造詣が深かった手塚治虫も、生涯を通じて音楽漫画を何編か描いている。1987年(昭和62年)に始まったベートーヴェンを題材にした『ルードウィヒ・B』 は、連載中の1989年(平成元年)2月9日に手塚が亡くなったため未完の絶筆となった。
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